遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
朝の兄との会話からしばらく時間が経ち、時刻は昼過ぎ。
昼休みを迎えた教室は、生徒たちの楽しそうな話し声で賑わっていた。
小町も机を寄せ、瑠奈と昼食を食べながらのんびりとした時間を過ごしている。
そんな中、瑠奈はお茶を一口飲み、ふと思い出したように口を開いた。
「午後の授業は、ついに神崎先生の初授業だねぇ。」
その言葉を聞いた小町は、箸を止める。
そして何かを思いついたように、にやりと笑みを浮かべた。
「えっ、瑠奈? いきなり先生だなんて照れるなぁ。」
胸に手を当て、わざとらしく照れてみせる。
もちろん、ただの悪ふざけだ。
瑠奈は一瞬だけ小町を見つめると、小さくため息をついた。
「……小町。」
呆れたように肩をすくめる。
「わたし、小町のこと神崎なんて呼んだことないでしょ。」
「あっ。」
小町は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
ボケは、あっさり見抜かれてしまった。
だが、瑠奈の追撃はまだ終わらない。
「それに、自分を先生って言うなら、せめてランカーバッジを手に入れてからにしてよ。」
──グサッ。
そんな効果音が聞こえてきそうな一言が、小町の胸に深々と突き刺さる。
「る、瑠奈……そこまで言わなくても……。」
肩を落とし、若干涙目になる小町。
その様子を見た瑠奈は、ふっと笑みを浮かべた。
「小町が変なこと言うからでしょ。」
「瑠奈の鬼〜」
悲しそうにつぶやく小町を完全にスルーし、朝比奈瑠奈は改めて問いかけた。
「実際どうなの? 先生から何か聞いてないの?」
「んーーー……」
小町は顎に指を当て、朝の兄との会話を思い返す。
「なんか、ライフの話をするって言ってた。」
その言葉を聞いた瑠奈は、「あっ」と思い当たるように小さく頷いた。
「朝のニュースでやってたやつ?」
「そうそう、それそれ。」
小町も何度も頷く。
しかし瑠奈は少し首を傾げた。
「でも、ライフが半分になるだけでしょ? そんなに変わるの?」
その反応は、朝、小町が兄に見せたものとまったく同じだった。
小町は思わず苦笑する。
「やっぱり瑠奈もそう思うよねぇ。私も最初は同じ考えだった。」
そう言って笑っていた小町だったが、朝の兄の表情を思い出すと、その笑みは少しだけ薄れた。
「でも、お兄……先生はちょっと深刻そうな顔してたよ。」
その言葉に、瑠奈は少しだけ目を丸くする。
「えっ、そうなん。なんて言ってた?」
小町は困ったように苦笑いを浮かべ、肩をすくめた。
「結局、教えてくれなかった。授業で聞けってさー。」
「……あー。」
瑠奈は納得したように小さく頷く。
「まあ、どうせ昼明けの授業で分かることか。」
重くなりかけた空気を切り替えるように、瑠奈はにこっと笑みを浮かべた。
「小町のお兄ちゃんのお手並み拝見♪」
「お手並み拝見って、この間デュエルしたじゃん!」
小町は思わず苦笑しながらツッコむ。
「デュエルするのと教育は別でしょー?」
「まあ、確かに。」
納得しながら頷いたものの、小町の脳裏には
兄の顔が思い浮かぶ
(お兄ちゃん……ほんとに大丈夫かな。)
授業が始まるまで、あとわずか。
小町は胸の奥に小さな不安を抱えたまま、昼休みの残り時間を過ごすのだった。
約一時間の昼休みを終え、五時限目。
いよいよ、神崎雄輝による初めての授業が始まる。
教室の扉が開き、赤い教師用ジャケットを身にまとった雄輝が教壇へと歩み出た。
教室内が自然と静まり返る。
「んじゃ、当番のやつ。号令頼む。」
雄輝が短く声をかけると、本日の日直が立ち上がった。
「規律!」
クラス全員が一斉に姿勢を正す。
「礼!」
「よろしくお願いします!」
元気な声が教室に響く。
「……着席!」
生徒たちは一斉に椅子へ腰を下ろした。
毎日繰り返される、授業前の当たり前の光景。
しかし今日だけは、どこかいつもとは違う空気が流れていた。
新任教師、神崎雄輝。
その初授業が、今まさに始まろうとしている。
雄輝は教卓に手を置き、教室をぐるりと見渡した。
「さて、改めてデュエル構築論の授業を担当する神崎だ。」
一呼吸置き、少しだけ口元を緩める。
「まあ、お前らの担任でもある。よろしくな。」
雄輝は教卓に手をつき、生徒たちを見回した。
「さて、気になってる奴もいるだろう。初授業の内容だが……。」
一度言葉を切ると、教室内は静まり返る。
「朝のニュースでライフが4000に変わることは、もうみんな知ってると思う。」
多くの生徒が小さく頷いた。
「そこで、みんなに聞きたい。」
雄輝は腕を組み、生徒たち一人ひとりの表情を眺める。
「率直にどう思う?」
教室はしんと静まり返った。
誰もが周りの様子をうかがい、なかなか手が挙がらない。
その沈黙を破るように、雄輝は急に口調を変えた。
「はいっ! 黒機君! どうぞ!」
いきなりの名指しに、黒機は肩をびくっと震わせる。
「えっ、おれですか?」
思わず自分を指差しながら戸惑う黒機。
少し考え込んだあと、遠慮がちに口を開いた。
「えーーーと……試合時間の短縮、ですか?」
雄輝は黒機の答えに小さく頷いた。
「まあ、そうだな。」
一度教室全体へ視線を向ける。
「他に何か思いつくやついるか?」
生徒たちは顔を見合わせ、それぞれ考え始める。
しかし、なかなか答えは出てこないようだった。
(まあ、予想どおりの反応ってとこだな。)
(……若干一名だけは、分かっているようだが。)
雄輝の視線が、一人の女子生徒へ向けられる。
中等部三年学年ランキング第一位。
九条凛。
彼女だけは、この問いの答えにたどり着いているようだった。
雄輝は小さく口元を緩めた。
「……九条、お前は分かるか?」
指名された九条はゆっくりと立ち上がる。
教室中の視線が、一斉に学年ランキング第一位へと集まった。
しかし九条は動じることなく、落ち着いた口調で答え始める。
「ライフが半分になるということは、一回の戦闘、一枚のカードの価値が相対的に高くなります。」
一度言葉を区切ると、九条は雄輝へ視線を向けた。
「その結果、デュエル全体のテンポが速くなり、これまで以上に一つひとつの判断が重要になります。」
教室は静まり返り、生徒たちは真剣な表情で九条の言葉に耳を傾けていた。
「例を挙げるなら、昨日先生が行った戦術です。」
九条は昨日のデュエルを思い返すように静かに続ける。
「相手の切り札が出るまで耐久するような戦術は、4000ライフでは難しくなると考えます。」
九条の答えを聞いた雄輝は、小さく口元を緩めた。
(驚いたな……。さすが学年トップだ。ほぼ正解まで辿り着いている。)
(……だが、まだ少し足りない。)
雄輝は九条へ軽く頷いた。
「その通りだ。」
短く評価を告げられた九条は、小さく一礼して静かに席へ腰を下ろす。
雄輝は教卓を離れると、黒板の前へ歩み寄った。
「俺は昨日のデュエルで、わざと黒機のエースモンスターが出るまで切り札を切らなかった。」
そう言いながら、チョークで黒板へ大きく『エースモンスター』と書き込む。
昨日のデュエルを思い返した生徒たちは、自然と黒板へ視線を向けた。
黒機も「ああ、あれか」と小さく頷く。
「なぜか。」
一度チョークを置き、生徒たちへ向き直る。
「相手のエースを倒すということは、デュエルの流れを掌握することにほかならない。」
再び黒板へ向かうと、『流れを掌握』という文字を書き足した。
「だから、俺は耐久する戦術を選択した。」
教室中の視線が雄輝へ集まる。
しかし雄輝はそこで首を横へ振った。
「だが、ライフが4000なら話は変わってくる。」
そう言うと、『耐久』という文字へ一本の線を引き、大きく×印を書き加える。
生徒たちの間に小さなどよめきが広がった。
「悠長なことをしているうちに、そのまま押し切られてしまうからな。」
続けて黒板へ『速攻』『主導権』と書き込み、チョークを置く。
教室を静かに見渡しながら、雄輝はゆっくりと言葉を締めくくった。
「このように、ライフ8000と4000では、戦術がまるっきり変わってくる。」
先生の話を聞きながら、小町は改めて自分の考えの甘さを実感していた。
(ライフが変わるだけで、ここまで戦術が変わるなんて考えてもいなかった。)
ただ数値が半分になるだけ。
朝の自分も、瑠奈もそう思っていた。
しかし、雄輝の説明を聞き、その考えは大きく覆された。
ふと視線を横へ向ける。
そこには、静かに先生の話を聞く九条の姿があった。
(そして、凛ちゃんはちゃんと理解していた。)
学年ランキング第一位。
その肩書きは、決して飾りではない。
(やっぱり、まだ差を感じるな……。)
小町は胸の奥でそう呟きながら、改めてノートへペンを走らせた。
雄輝は生徒たちの表情を一人ひとり見渡した。
先ほどまで首を傾げていた生徒たちも、今は納得したように小さく頷いている。
説明がきちんと伝わったことを確認すると、雄輝は再び教卓の前へ立った。
「ここまでが戦術の話だ。」
一呼吸置き、教室全体を見回す。
「そして、ここからは構築の話となる。」
その言葉に、生徒たちの表情が再び引き締まる。
デュエルの”戦い方”ではなく、“デッキの組み方”。
話題が次の段階へ移ったことを、誰もが感じ取っていた。
雄輝は教室を見渡しながら、生徒たちへ問いかける。
「この意味が分かるやつはいるか?」
教室は再び静まり返る。
先ほどよりも難しい問いに、多くの生徒が首をひねる。
そんな中、一人だけ静かに頷く生徒がいた。
九条凛。
彼女はすでに答えへ辿り着いているようだった。
雄輝はその様子を横目に見て、小さく笑う。
(やっぱり分かるか。)
だが、あえて指名はしない。
「じゃあ、説明するぞ。」
雄輝は黒板から離れると、昨日のデュエルを思い返すように黒機へ視線を向けた。
「昨日のデュエルを例に挙げる。黒機、昨日サイコ・ショッカーを召喚する前に何のカードを使った?」
突然の質問に、黒機は昨日のデュエルを必死に思い返す。
「えっと……《血の代償》ですか?」
思っていた答えが返ってきたことを確認し、雄輝は満足そうに頷いた。
「そうだ。その《血の代償》は何をコストにしている?」
黒機は即座に答えようとしたが、途中で何かに気付いたように目を見開く。
「何って、ライフポイント……あっ!」
教室のあちこちでも、「あっ」という小さな声が漏れる。
雄輝は生徒たちの反応を見て、わずかに口元を緩めた。
「そうだ。」
一度黒板へ向かうと、『ライフコスト』と大きく書き込む。
「ライフが半分になるということは、ライフをコストにするカードの使用できる上限が減るということだ。」
生徒たちはノートを取りながら、真剣な表情で耳を傾ける。
戦術だけではなく、デッキそのものにも影響が及ぶ。
それこそが、雄輝の伝えたかった『構築』の話だった。
「例えば、俺の《ヒーローアライブ》はライフを半分払うことで、《E・HERO》を特殊召喚する効果だ。」
黒板に『HEROアライブ→LP半分』と書き加えながら続ける。
「単純に、この時点で俺のライフは2000になる。」
雄輝は『ライフコスト』と書かれた黒板をチョークで軽く叩いた。
生徒たちの視線が、その二文字へ集中する。
「さらに踏み込んだことを言えば、ライフを半分支払うことで発動するカードなら、デュエル中にライフが減っていても発動することはできる。」
一度言葉を切ると、生徒たちが理解できているか確認するように教室を見渡した。
「だが、ライフコストに数値指定があるカードは別だ。」
黒板へ《血の代償》と書き込み、その下に『500LP』と付け加える。
「例を挙げれば、《血の代償》とかな。」
チョークを置き、生徒たちへ向き直る。
「こういうカードは、支払うライフコストが残っていなければ発動できない。」
その説明を聞いていた小町は、何かを思いついたように勢いよく手を挙げた。
「そうか! 例えば、お兄っ……先生の《ヒーローアライブ》を発動した後に、《神の警告》は使えないってことだね!」
教室の視線が一斉に小町へ集まる。
雄輝は満足そうに頷いた。
「そうだ。」
黒板へ《神の警告》と書き加え、その横に『LP2000』と記す。
「《神の警告》はライフポイントを2000支払い、相手の召喚やカードの発動を無効にするカウンター罠だ。」
一度、小町へ視線を向ける。
「だから、《ヒーローアライブ》を使ってライフが2000になった時点で、《神の警告》は発動できなくなる。」
その説明に、生徒たちは納得したように何度も頷いた。
ライフポイントは、ただ勝敗を決める数字ではない。
デッキを構成するカードの選択にまで、大きく影響を及ぼす重要な資源なのだ。
「このように、ライフ8000と4000では、採用するテーマによっては汎用魔法や汎用罠の構成まで見直さなければならない場合がある。」
雄輝は教室をゆっくりと見渡した。
先ほどまで戸惑っていた生徒たちも、それぞれライフ4000の意味を理解し始めている。
その様子を確認すると、満足そうに頷いた。
「さて、これでライフ4000になったことについて、ただ半分になったわけじゃないことは理解できたと思う。」
一拍置き、雄輝は不敵な笑みを浮かべる。
「だから――百聞は一見にしかず。」
教室中の視線が雄輝へ集まる。
「実践と行こうか。」
その一言に、教室がざわめいた。
デュエル構築論。
その本当の授業は、ここから始まる。