遊☆戯☆王ーデュエルモンスターズー BattleCity 作:NONAME0195
「実践と行こうか」
その一言を合図に、三年A組の生徒たちは昨日、雄輝と黒機がデュエルを行ったデュエルフィールドへ移動した。
フィールドを囲むように生徒たちが集まり、昨日の熱戦を思い出すようにざわめき始める。
そんな中、朝比奈瑠奈が雄輝へ視線を向けた。
「今日も先生がデュエルするんですか?」
その問いに、雄輝は小さく首を横へ振る。
「いや、今日は生徒同士でデュエルをしてもらう」
一度言葉を切ると、クラス全体を見渡した。
「組み合わせは……そうだな」
少しだけ考えた後、雄輝は二人の名前を呼ぶ。
「九条と小町、お前らやってみろ」
突然の指名に、小町は目を丸くした。
「えっ!? 私が!?」
先ほどの座学で、九条との実力差を痛感したばかりだった。
だからこそ、その名前を聞いた瞬間、小町の胸に小さな不安が広がる。
(私が……凛ちゃんとデュエル)
相手は学年ランキング第一位。
学年最強と呼ばれるデュエリストだ。
今の自分の実力が、どこまで通用するのか分からない。
そんな不安が胸をよぎる。
雄輝は九条へ視線を向けた。
「そうだ、九条もそれでいいか?」
問い掛けられた九条は、表情一つ変えずに頷く。
「ええ、構いません」
その落ち着いた返事からは、動揺はまったく感じられなかった。
雄輝は満足そうに頷く。
「よし。それじゃあ二人とも準備しろ」
二人がデュエルディスクを構えるのを確認すると、小さく笑みを浮かべた。
「公式の認定戦じゃない。気負わず、思いっきりやってみろ」
その言葉を受け、小町と九条は静かにデュエルフィールドへ歩み出る。
互いに向かい合い、一定の距離を取って立ち止まる。
緊張感が、ゆっくりとフィールドを包み始めていた。
「二人とも準備はいいな」
雄輝はデュエルフィールドの中央に立ち、二人を見渡した。
小町と九条は静かに頷き、それぞれデュエルディスクを構える。
二人の視線が交錯し、フィールドに緊張感が走る。
その様子を確認すると、雄輝は軽く手を振り下ろした。
「それじゃ、始めっ!」
先生の号令とともに、二人の戦いの幕が上がる。
「「デュエル!」」
1ターン目 九条
先攻は九条。
フィールドに立つ九条は静かにデッキへ右手を伸ばし、一枚カードを引いた。
「私のターン、ドロー」
落ち着いた声がデュエルフィールドに響く。
その姿を見つめながら、小町は無意識に息をのんだ。
(やっぱり落ち着いてる……)
(これが学年ランキング一位……)
昨日の座学でも感じた実力差。
今、その相手と向かい合っている。
胸の鼓動が少しずつ速くなる。
九条は手札から一枚のカードを取り出した。
「モンスターをセット」
カードが静かにフィールドへ伏せられる。
さらに、迷うことなく一枚の魔法カードを掲げた。
「《太陽の書》発動」
眩い光がフィールドを包み込み、伏せられていたモンスターがゆっくりと表側守備表示になる。
⸻
【太陽の書】
種類:通常魔法
【効果】
フィールドの裏側表示モンスター1体を表側守備表示にする。
⸻
光が収まると、光る翼を持つ少女が静かに姿を現した。
「《影霊の翼 ウェンディ》」
⸻
【影霊の翼 ウェンディ】
レベル:3
ATK:1500
DEF:1000
種族:魔法使い族
属性:風
【効果】
このカードがリバースした場合、デッキから「影霊の翼 ウェンディ」以外の「シャドール」モンスター1体を表側守備表示または裏側守備表示で特殊召喚できる。
⸻
「効果を発動」
ウェンディの足元に魔法陣が浮かび上がる。
デッキから新たなモンスターが呼び出され、九条のフィールドへ静かに舞い降りた。
「《シャドール・リザード》を裏側守備表示で特殊召喚」
⸻
【シャドール・リザード】
レベル:4
ATK:1800
DEF:1000
⸻
黒い影がリザードの姿を形作ると、そのまま裏側守備表示となってフィールドへ伏せられる。
小町は思わず眉をひそめた。
(自分からリバースさせた……?)
シャドールといえば、リバース効果を駆使するテーマ。
普通なら相手に攻撃させて効果を使うはずだ。
それを自分から表にするなんて、考えたこともなかった。
(これもシャドールの戦い方なの……?)
まだ相手の狙いは見えない。
(でも……)
(きっと、意味のないプレイじゃない)
そんな相手だからこそ、不用意な一手は命取りになる。
九条は最後に一枚カードを伏せた。
「カードを一枚セット。ターンエンド」
淡々とした宣言。
派手な展開ではない。
しかし、その静かな盤面からは隙がまるで感じられなかった。
小町はゆっくりとデッキへ右手を伸ばす。
(落ち着いて……)
(昨日、お兄ちゃんが言ってたじゃん)
(焦ったら、相手の思うつぼだって)
胸の鼓動を落ち着かせながら、一枚カードを引き抜く。
2ターン目 小町
小町は静かにデッキへ手を伸ばし、一枚カードを引いた。
「私のターン、ドロー!」
引いたカードを確認すると、小さく息をつく。
(よかった……)
(ちゃんと動ける)
胸をなで下ろしながら、改めて九条のフィールドへ視線を向けた。
表側守備表示の《影霊の翼 ウェンディ》。
その隣には、裏側守備表示の《シャドール・リザード》。
さらに伏せカードが一枚。
(ウェンディは倒せる)
(でも……)
(あの《シャドール・リザード》が気になる)
ウェンディの効果で呼び出されたモンスター。
きっと、あのカードにも何か役割がある。
それでも、このまま相手へターンを返すわけにはいかなかった。
(今できることを、一つずつ)
小町は手札から一枚のカードをデュエルディスクへ置く。
「《月光蒼猫》召喚!」
月明かりのような淡い光がフィールドを包み込み、一匹の蒼き獣が軽やかに舞い降りた。
⸻
【月光蒼猫】
レベル:4
ATK:1600
DEF:1200
種族:獣戦士族
属性:闇
【効果】
①:このカードが特殊召喚に成功した場合、「月光蒼猫」以外の自分フィールドの「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の倍になる。
②:フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「ムーンライト」モンスター1体を特殊召喚する。
⸻
(まずは盤面を減らそう)
小町は迷わず右手を振り下ろす。
「バトル!」
「《月光蒼猫》で《影霊の翼 ウェンディ》を攻撃!」
⸻
Battle
月光蒼猫
ATK1600
VS
影霊の翼 ウェンディ
ATK1500
⸻
蒼猫が素早く間合いを詰める。
鋭い爪がウェンディを切り裂き、その姿は光る羽を散らしながら砕け散った。
ウェンディは静かに墓地へ送られる。
(よし……!)
(まずは一体)
だが、小町の表情は晴れない。
視線は自然と裏側守備表示の《シャドール・リザード》へ向いていた。
(あれは、まだ残ってる)
(凛ちゃんは……きっと、あのカードを使うつもりなんだ)
相手の狙いは、まだ読めない。
だからこそ焦りは禁物だ。
「メインフェイズ2」
小町は手札を見つめる。
(今はまだ、このカードを使うタイミングじゃない)
一枚のカードを指先でなぞると、そのまま静かにフィールドへ伏せた。
(凛ちゃんがどう受け止めるかは分からない)
(でも……少しでも考えさせられれば)
小町なりの、小さな駆け引き。
「カードを一枚セット」
九条を真っすぐ見つめ、小さく息を吸う。
「ターンエンド」
3ターン目 九条
九条は静かにデッキへ手を伸ばし、一枚カードを引いた。
「私のターン、ドロー」
短く宣言すると、そのままフィールドへ視線を落とす。
小町は無意識に身構えた。
(来る……)
(きっと、《シャドール・リザード》を使う)
九条は迷うことなく、裏側守備表示のモンスターへ手を添える。
「《シャドール・リザード》を反転召喚」
黒い影をまとった蜥蜴が静かに姿を現した。
⸻
【シャドール・リザード】
レベル:4
ATK:1800
DEF:1000
⸻
(リバースした……)
小町は身構えた。
シャドールといえば、リバース効果。
何かが来る――。
だが。
九条は何も告げない。
リザードの効果も発動せず、そのまま手札へ右手を伸ばした。
(……え?)
(効果を使わないの?)
予想外の展開に、小町は思わず目を瞬かせる。
しかし、九条はそのまま一枚のカードを掲げた。
「装備魔法《ネフェシャドール・フュージョン》発動」
⸻
【ネフェシャドール・フュージョン】
種類:装備魔法
【効果】
「シャドール」モンスターにのみ装備可能。
①:発動時に属性を1つ宣言し、装備モンスターは宣言した属性になる。
②:自分メインフェイズに発動できる。このカードの装備モンスターを含む融合素材モンスターを手札・フィールドから墓地へ送り、「シャドール」融合モンスター1体を融合召喚する。
⸻
「《シャドール・リザード》に装備。光属性を宣言」
漆黒の装束がリザードを包み込み、その身体が淡い光を帯びる。
(装備魔法……?)
(シャドールに、そんなカードまで……)
九条は間髪入れず効果を発動した。
「効果発動」
「フィールドの《シャドール・リザード》、手札の《シャドール・ヘッジホッグ》を融合素材とする」
光に包まれた二体のシャドールが空中で溶け合い、一つの巨大な魔法陣を描き出す。
フィールド全体が白と黒、二色の光に包まれた。
(融合……!)
(ここで来るんだ!)
「融合召喚」
九条の静かな声が響く。
「《エルシャドール・ネフィリム》」
⸻
【エルシャドール・ネフィリム】
レベル:8
ATK:2800
DEF:2500
種族:魔法使い族
属性:光
【効果】
「シャドール」モンスター+光属性モンスター
①:特殊召喚に成功した場合、デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。
②:特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、そのモンスターを破壊する。
③:墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
⸻
純白の翼を広げた融合モンスターが、ゆっくりとフィールドへ降臨する。
その神々しい姿に、小町は思わず息をのんだ。
(これが……)
(凛ちゃんのエースモンスター……!)
しかし、九条のターンはまだ終わらない。
「《エルシャドール・ネフィリム》の効果を発動」
ネフィリムの足元に魔法陣が浮かび上がる。
九条はデッキから一枚のカードを選び、そのまま墓地へ送った。
「《シャドール・ルーツ》を墓地へ送る」
⸻
【シャドール・ルーツ】
種類:通常罠
【効果】
①:発動後、このカードは効果モンスターとなり特殊召喚される。このカードは「シャドール」融合モンスターの融合素材とする場合、指定された属性モンスターの代わりにできる。
②:このカードが効果で墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
⸻
「《シャドール・ルーツ》の効果」
墓地へ送られたルーツが淡い光を放つ。
「墓地の《ネフェシャドール・フュージョン》を手札に加える」
装備魔法が九条の手札へ戻る。
(墓地へ送られたのに……)
(また手札に戻った……?)
小町は思わず目を見開く。
(一枚一枚が繋がってる……)
だが、それでも終わらない。
「《シャドール・リザード》の効果」
墓地へ送られたリザードが黒い光を放つ。
「《シャドール・ビースト》を墓地へ送る」
⸻
【シャドール・ビースト】
レベル:5
ATK:2200
DEF:1700
⸻
「《シャドール・ビースト》の効果」
九条は静かにデッキへ手を伸ばし、一枚カードを引く。
(また増えた……)
融合したはずなのに、手札が減っていない。
それどころか、一枚補充している。
「さらに、《シャドール・ヘッジホッグ》の効果」
墓地へ送られたヘッジホッグが淡く輝く。
「《シャドール・ドラゴン》を手札に加える」
デッキから新たなカードが九条の手札へ収まった。
(そんな……)
(融合しただけなのに……)
小町は目の前の光景が信じられなかった。
モンスターは一体増えただけ。
それなのに、
墓地へ送られたカードが次々と効果を発動し、手札を増やし、カードを回収していく。
(これが……)
(シャドールデッキ……!)
九条は何事もなかったかのようにネフィリムへ視線を向ける。
「バトル」
その一言に、小町は気持ちを引き締めた。
フィールドには《月光蒼猫》。
攻撃力は1600。
対する《エルシャドール・ネフィリム》は2800。
まともに戦えば勝負にならない。
「《エルシャドール・ネフィリム》で《月光蒼猫》を攻撃」
⸻
Battle
エルシャドール・ネフィリム
ATK2800
VS
月光蒼猫
ATK1600
⸻
純白の翼が大きく広がる。
ネフィリムが静かに宙を舞い、一気に蒼猫との間合いを詰めた。
(来る……!)
小町は蒼猫へ視線を向ける。
(蒼猫がやられる……!)
ネフィリムの一撃が蒼猫を真正面から貫く。
蒼猫は小さく鳴き声を上げると、月明かりとなって砕け散り、墓地へ送られた。
⸻
Damage
神崎小町
LP4000
↓
LP2800
(戦闘ダメージ:1200)
⸻
「うっ……!」
小町は衝撃に思わず一歩後ずさる。
(やっぱり……強い)
(攻撃力の差だけで1200も……)
だが、その光は消えない。
「《月光蒼猫》の効果」
墓地へ送られた蒼猫が淡い月光を放つ。
⸻
【月光蒼猫】
②:フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「ムーンライト」モンスター1体を特殊召喚する。
⸻
月明かりがフィールドを照らす。
デッキから一体のモンスターが姿を現した。
「《月光彩雛》を特殊召喚」
⸻
【月光彩雛】
レベル:4
ATK:1400
DEF:400
種族:獣戦士族
属性:闇
【効果】
①:1ターンに1度、デッキ・EXデッキから「ムーンライト」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このターン、このカードを融合素材とする場合、墓地へ送ったそのモンスターと同名カードとして扱う。
②:このカードが効果で墓地へ送られた場合、自分の墓地の「融合」通常魔法カード1枚を手札に加える。
⸻
③:このカードが除外された場合に発動できる。このターン、相手はバトルフェイズ中に効果を発動できない。
(蒼猫が……)
(次の仲間を呼んだ!)
失っただけでは終わらない。
それが月光の強みだった。
しかし。
九条の表情は変わらない。
まるで、その展開すら予想していたかのように、静かにフィールドを見つめている。
小町は思わず息をのんだ。
(まだ……何かあるの?)
九条はネフィリムへ視線を向ける。
「ターンエンド」
短い宣言とともに、静かにターンが終わる。
フィールドに残る《エルシャドール・ネフィリム》は、なおも圧倒的な存在感を放っていた。
その姿を見つめながら、小町はゆっくりと息を吐く。
(何とか凌げた……。)
(でも、あのネフィリムを突破しないと勝てない。)
《月光彩雛》へ視線を向ける。
フィールドには、まだ逆転への希望が残されていた。
4ターン目 小町
小町は静かにデッキへ右手を伸ばし、一枚カードを引き抜いた。
「私のターン、ドロー!」
カードを確認した瞬間、その表情が明るくなる。
(来た……!)
(《融合》!)
思わず胸が高鳴る。
ネフィリムはまだフィールドに立っている。
だが、小町の瞳に迷いはなかった。
(まだ負けてない)
(ここから……反撃する!)
手札から一枚のカードを抜き出し、デュエルディスクへセットする。
小町はフィールドに伏せられたカードへ手を伸ばす。
「まずは伏せカードを発動」
「《治療の神 ディアン・ケト》」
柔らかな光が小町を包み込み、失われていたライフが回復していく。
⸻
【治療の神 ディアン・ケト】
種類:通常魔法
【効果】
自分は1000ライフポイント回復する。
⸻
⸻
Recovery
神崎小町
LP2800
↓
LP3800
(回復:1000)
⸻
「これで、まだ戦える……!」
ライフを立て直した小町は、改めて手札へ視線を落とす。
「ペンデュラムゾーンに《月光虎》を発動!」
月明かりがフィールドを包み込み、二つのペンデュラムゾーンの片側に虎が姿を現す。
⸻
【月光虎】
レベル:3
ATK:1200
DEF:800
種族:獣戦士族
属性:闇
【ペンデュラム】
スケール:5
【ペンデュラム効果】
①:1ターンに1度、自分の墓地の「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、効果は無効化され、エンドフェイズに破壊される。
【モンスター効果】
このカード名のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合、自分の墓地の「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
⸻
「《月光虎》のペンデュラム効果!」
「墓地の《月光蒼猫》を特殊召喚!」
淡い月光が墓地を照らし、蒼き獣が再びフィールドへ舞い戻る。
⸻
【月光蒼猫】
レベル:4
ATK:1600
DEF:1200
⸻
(これで……揃った!)
小町は手札の一枚を高く掲げる。
「魔法カード!」
「《融合》発動!」
月光が渦を巻き、三体のモンスターを包み込む。
「《月光彩雛》!」
「《月光蒼猫》!」
「そして手札の《月光黄鼬》!」
「三体を融合!」
眩い光がフィールドを覆い、一人の舞姫がゆっくりと姿を現す。
「融合召喚!」
「現れて!」
「《月光舞剣虎姫》!」
眩い月光がフィールドを包み込む。
三体の「ムーンライト」モンスターは光となって一つに溶け合い、巨大な月光の柱が天高く伸びた。
やがて光が静かに収まる。
その中心には、一人の舞姫が優雅に剣を構えていた。
⸻
【月光舞剣虎姫】
レベル:9
ATK:3000
DEF:2600
種族:獣戦士族
属性:闇
【効果】
「ムーンライト」モンスター3体
①:このカードの攻撃力は、自分の墓地のまたは除外されている獣戦士族モンスターの数×200アップする。
②:このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。
③:このカードは相手の効果の対象にならない。
⸻
長く美しい髪をなびかせ、舞姫は静かに剣を構える。
ネフィリムにも引けを取らない存在感に、フィールドが一瞬静まり返った。
「《月光黄鼬》の効果」
⸻
【月光黄鼬】
レベル:4
ATK:800
DEF:2000
種族:獣戦士族
属性:闇
【効果】
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが融合素材として墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「月光」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドの「ムーンライト」モンスターが戦闘・効果で破壊された場合、このカードを除外して発動できる。その破壊されたモンスター1体を特殊召喚する。
⸻
融合素材となり墓地へ送られた黄鼬が淡い月光を放つ。
小町はデッキから一枚のカードを選び、静かに手札へ加えた。
「《月光輪廻舞踊》を手札に加える」
⸻
【月光輪廻舞踊】
種類:通常罠
【効果】
①:自分フィールドの「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻し、自分の墓地から「ムーンライト」融合モンスター1体を特殊召喚する。
②:墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「ムーンライト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
⸻
さらに、墓地から柔らかな光が溢れ出す。
「《月光彩雛》の効果」
小町は墓地の魔法カードへ手を伸ばす。
「墓地の《融合》を手札に加える」
二枚のカードが手札へ戻る。
(よし……!)
(まだ戦える!)
融合で手札は減った。
それでも月光は、失ったリソースを取り戻していく。
それが、このデッキの強みだった。
小町はサーチしたカードへ視線を落とす。
(次の一手も……準備しておく)
そう呟くように心の中で決意すると、手札から一枚のカードをフィールドへ伏せた。
「カードを一枚セット」
その様子を見ていた朝比奈が、思わず歓声を上げる。
「凄い!小町もエースモンスターを召喚した!」
周囲の生徒たちも一斉にざわめく。
「逆転できるかもしれない!」
「神崎にも勝ち目があるぞ!」
その声を聞きながら、小町は《月光舞剣虎姫》を真っすぐ見つめる。
(ここまで繋げられた……)
(これなら……!)
静かに見守っていた雄輝は、小さく目を細めた。
(小町も、なかなかやるな)
(月光の特徴を理解して、ここまで綺麗に展開できている)
融合素材の選択も悪くない。
リソースの回収もできている。
ここまでは十分合格点だ。
だが――。
雄輝の視線は、《エルシャドール・ネフィリム》から離れない。
(問題は、この先だ)
(小町は気付いているかな……)
(ネフィリムの本当の強さに)
雄輝は何も語らない。
生徒が自ら考え、答えへ辿り着くこと。
それこそが、この実践授業の意味だった。
小町は大きく息を吸い込む。
「バトル!」
舞剣虎姫へまっすぐ右手を伸ばす。
「《月光舞剣虎姫》で《エルシャドール・ネフィリム》を攻撃!」
舞剣虎姫が長剣を構え、月光をまといながらネフィリムへ駆け出す。
その瞬間。
墓地から三筋の月光が舞い上がり、舞剣虎姫の身体へ吸い込まれていく。
「《月光舞剣虎姫》の効果!」
「墓地の『ムーンライト』モンスターの数×200、攻撃力をアップ!」
⸻
Battle
月光舞剣虎姫
ATK3000
↓
ATK3600
(墓地の「ムーンライト」モンスター3体 × 200)
VS
エルシャドール・ネフィリム
ATK2800
⸻
「攻撃力3600!?」
朝比奈が思わず歓声を上げる。
「ネフィリムより800も高い!」
観戦していた生徒たちも期待に満ちた表情を浮かべる。
だが、その歓声を遮るように、九条が静かに口を開いた。
「《エルシャドール・ネフィリム》の効果――」
その一言に、小町の動きが止まる。
(ネフィリムの……効果?)
舞剣虎姫の剣先がネフィリムへ届こうとした、その瞬間。
純白の翼がゆっくりと広がった。
「ダメージステップ開始時、
特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、そのモンスターを破壊します」
「えっ……?」
小町は思わず目を見開く。
次の瞬間、ネフィリムから放たれた白い光が舞剣虎姫を包み込んだ。
「そん、な……!」
舞剣虎姫は剣を振り下ろすことすらできない。
その姿は月光の粒子となって砕け散り、静かに墓地へ送られた。
攻撃力3600。
その数値は、一度も活かされることはなかった。
歓声に包まれていたフィールドは、一瞬で静寂に包まれる。
「うそ……」
朝比奈は呆然とネフィリムを見つめた。
「攻撃力が勝ってたのに……」
誰も言葉を続けられない。
小町もまた、目の前で起きた出来事を受け止めきれずにいた。
(攻撃力じゃ……ない。)
(ネフィリムは、戦う前に……。)
ゆっくりと視線を落とす。
墓地へ送られた《月光舞剣虎姫》。
自分が全力で繋いだ切り札は、何もできないまま倒された。
九条は静かにネフィリムを見つめたまま、何も語らない。
その姿は、勝ち誇ることもなく、ただ淡々とデュエルを続けていた。
雄輝は静かに腕を組む。
(これが、カードの攻撃力だけでは測れない強さだ。)
(だからこそ、カードの効果を理解することが大切になる。)
その言葉を口にすることはない。
それはデュエルが終わった後、生徒たち自身に考えてもらうための問いになるのだから。
5ターン 九条
舞剣虎姫が消えたフィールドを、小町は静かに見つめていた。
切り札は、一太刀も浴びせることなく墓地へ送られた。
それでも、小町の瞳から闘志は消えていない。
九条は静かにデッキへ右手を伸ばく。
「私のターン、ドロー」
短い宣言だけが、静まり返ったデュエルフィールドに響く。
小町は小さく息を吸う。
(まだ……終わってない。)
九条は手札から一枚のカードを取り出す。
「《大嵐》発動」
次の瞬間、激しい暴風がデュエルフィールドを吹き抜けた。
⸻
【大嵐】
種類:通常魔法
【効果】
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
⸻
暴風は容赦なくフィールドを飲み込み、小町が伏せていたカードを巻き上げる。
「……っ。」
思わず唇を噛む。
(最後まで……使わせてもらえなかった。)
さらに、ペンデュラムゾーンの《月光虎》も暴風に巻き込まれ、光の粒子となって消えていく。
九条は表情一つ変えない。
「バトル」
純白の翼が静かに広がる。
「《エルシャドール・ネフィリム》でダイレクトアタック」
⸻
Battle
エルシャドール・ネフィリム
ATK2800
VS
神崎小町
ダイレクトアタック
⸻
純白の光が一直線に小町を包み込む。
衝撃に耐えながら、小町は必死に前を向いた。
⸻
Damage
神崎小町
LP3800
↓
LP1000
(戦闘ダメージ:2800)
⸻
「まだライフが残ってる!」
朝比奈が思わず声を上げる。
「小町ちゃん、まだ負けてない!」
小町も荒い息を整えながら、ゆっくりと顔を上げた。
(まだ……終わってない。)
その瞬間だった。
九条は静かに一枚のカードを掲げる。
「速攻魔法《融合解除》発動」
眩い光が《エルシャドール・ネフィリム》を包み込む。
⸻
【融合解除】
種類:速攻魔法
【効果】
自分フィールドの融合モンスター1体をエクストラデッキに戻し、その融合素材として墓地へ送られていたモンスターを可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。
⸻
純白の翼は光となって空へ溶け込み、エクストラデッキへと還っていく。
その光の中から、二つの影がゆっくりと姿を現した。
「融合素材となっていた《エルシャドール・ヘッジホッグ》と《シャドール・リザード》を特殊召喚します」
⸻
【エルシャドール・ヘッジホッグ】
レベル:4
ATK:800
DEF:2000
⸻
【シャドール・リザード】
レベル:4
ATK:1800
DEF:1000
⸻
「えっ……!」
朝比奈は目を見開いた。
「融合解除って……こんな使い方があるの!?」
小町も息をのむ。
(ネフィリムを戻して……。)
(融合素材を……!)
九条は静かに二体のモンスターへ視線を向ける。
「バトルを続行します」
「《シャドール・リザード》でダイレクトアタック」
⸻
Battle
シャドール・リザード
ATK1800
VS
神崎小町
ダイレクトアタック
⸻
黒き影が一気に小町との距離を詰める。
鋭い一撃が、小町を正面から貫いた。
⸻
Damage
神崎小町
LP1000
↓
LP0
(戦闘ダメージ:1800)
⸻
ライフポイントが零を示した瞬間、デュエルディスクが勝敗を告げる電子音を響かせた。
「勝者――九条凛。」
静まり返るデュエルフィールド。
小町はゆっくりと息を吐くと、九条へ向き直り、小さく頭を下げた。
「……ありがとうございました。」
九条も静かに一礼する。
「ありがとうございました。」
勝敗は決した。
しかし、生徒たちの脳裏に焼き付いていたのは、最後の《融合解除》だった。
攻撃力だけではない。
最後の一枚まで勝ち筋へ変える――。
学年ランキング一位の実力を、誰もが目の当たりにしたのだった。
雄輝は二人のもとへ歩み寄ると、穏やかな笑みを浮かべた。
「二人とも、お疲れ様。いいデュエルだったな。」
クラスを代表し、デュエルを行った二人へ労いの言葉をかける。
しかし、小町の胸の内は晴れなかった。
(私は……最初から最後まで凛ちゃんの手のひらの上だった……。)
ネフィリムの効果。
《融合解除》による追撃。
どれを取っても、一歩先を読まれていた。
悔しい。
その感情だけが胸の中を渦巻いていた。
そんな小町の様子を、雄輝は静かに見つめていた。
普段から同じ屋根の下で暮らしているからこそ、その心境は手に取るように分かる。
(小町は、自分と九条の実力差をきちんと理解している。)
(それでも、悔しいと思えている。)
実力差は、誰の目にも明らかだった。
それでも小町の心は折れていない。
敗北を受け入れ、その上で「もっと強くなりたい」と願っている。
その悔しさこそ、上を目指すデュエリストにとって何より大切な糧だった。
負けたことのないデュエリストなど存在しない。
初代デュエルキング・武藤遊戯も。
その最大のライバルである海馬瀬人も。
伝説と語り継がれるデュエリストたちでさえ、敗北を経験している。
大切なのは、負けないことではない。
敗北から何を学び、次へどう繋げるかだ。
雄輝は小さく笑みを浮かべた。
(その答えを教えるのが……教師である俺の役目だ。)
雄輝はクラス全員を見回し、静かに口を開いた。
「さて、今のデュエルについてみんなで考えてみよう」
生徒たちの視線が一斉に雄輝へ集まる。
雄輝は小町へ目を向けた。
「小町、お前の展開はかなりいい線までいっていた。」
雄輝は責めるような口調ではなく、あくまで敗因を振り返るように静かに言葉を続ける。
「だが、ネフィリムに対して召喚するモンスターではなかったな」
小町は悔しそうに唇を噛み、小さく頷いた。
「はい……ネフィリムの攻撃力を上回ることしか考えられていませんでした」
自分の敗因をきちんと理解している。
その答えに、雄輝は静かに頷いた。
すると、朝比奈が恐る恐る手を挙げる。
「先生、攻撃力で勝っててもダメなら、どうすればよかったんですか?」
その質問に、雄輝は教室全体を見渡した。
「いい質問だ」
雄輝は先ほどのデュエルを思い返すように、静かにネフィリムが立っていたフィールドへ視線を向ける。
「たとえ攻撃力で上回るモンスターを召喚しても、《エルシャドール・ネフィリム》はダメージステップ開始時の効果で、特殊召喚されたモンスターを破壊する」
その言葉に、生徒たちは先ほどのデュエルを頭の中で振り返る。
「これでは、せっかくエースモンスターを召喚しても意味がない」
生徒たちは改めて先ほどのデュエルを思い返す。
攻撃力3600まで上昇した《月光舞剣虎姫》が、剣を振るうことすらできずに破壊された光景が鮮明によみがえった。
生徒たちは誰一人として口を開かず、雄輝の答えを待っていた。
雄輝はクラス全員の顔をゆっくりと見渡す。
「俺なら、ネフィリムを無力化できる状態になるまで勝負はかけない」
その一言に、生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。
デュエルは、目の前の一手だけを見て戦うものではない。
相手の切り札をどう攻略するか、そのためにどんな準備をするかまで考える必要がある。
「例えば、効果では破壊されないモンスターを召喚する」
一度言葉を区切り、生徒たちの反応を確かめる。
「あるいは、バトルではなくカード効果でネフィリムを倒す手段を探す」
雄輝は小町へ視線を向ける。
先ほどまでの展開ではなく、その先の判断に
ついて問いかけるように静かに口を開いた。
「そして小町」
一度言葉を区切ると、雄輝は小町へ真っ直ぐ視線を向けた。
「お前の最大のミスは、あそこでバトルを仕掛けたことだ」
その言葉に、小町はハッとした表情を浮かべる。
攻撃力で上回った以上、攻撃することしか考えていなかった。
しかし、雄輝が指摘したのは、その一歩先の判断だった。
「まあ、ネフィリムの効果を知らなかったから仕方ないのかもしれん」
一度言葉を区切ると、雄輝はフィールドを指し示した。
「だが、もし《月光舞剣虎姫》をそのままフィールドに残していれば、九条はネフィリムの効果で《月光舞剣虎姫》を破壊できたとしても、そのターンにライフを削ることはできなかったはずだ」
小町は思わず息をのむ。
(そうか……)
(あのターンは”勝つターン”じゃなかった)
(“耐えるターン”だったんだ)
そんな小町の表情を確認すると、雄輝は静かに視線を九条へ移した。
「次に九条」
雄輝は視線を九条へ向ける。
今度は敗因ではなく、勝因について話を移した。
「ラストターン、憂いを断つために《大嵐》で盤面を更地にした後、《エルシャドール・ネフィリム》から《融合解除》へ繋げたコンボは見事だった」
九条は軽く一礼し、短く答える。
「ありがとうございます」
余計な言葉はない。
勝利しても驕ることなく、雄輝の評価を静かに受け止めていた。
「それで、あえて聞くが」
一度言葉を区切ると、雄輝は九条へ一つの問いを投げかけた。
「もしもライフ8000だった場合、あの戦術は使っていたか」
九条は考える素振りすら見せず、即座に答える。
「いいえ、《融合解除》は使わなかったでしょう」
迷いのない返答だった。
その理由も、すでに九条の中では答えが出ている。
「理由は」
雄輝はあえて続きを促した。
「《融合解除》を使用してフルアタックをしてもライフを削り切れず、相手にターンを渡してしまうからです」
予想通りの答えだった。
雄輝は満足そうに頷くと、今度はクラス全員へ視線を向ける。
「まさにこれがライフ8000と4000でのデュエルの違いそのものだ」
生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。
同じ盤面でも、ルールが変われば最善手も変わる。
それがデュエルモンスターズというゲームだった。
「もしもライフ8000であの戦法を使った場合、相手にターンを渡した上にエースモンスターを潰してしまってる」
一呼吸置き、雄輝はゆっくりと言葉を続ける。
「これでは逆転される可能性が大きくなってしまう」
雄輝はクラス全員をゆっくりと見渡す。
誰もが真剣な表情で、その言葉の続きを待っていた。
「今日の授業のポイントは二つ」
一つ目を示すように、人差し指を立てる。
「一つは、ライフが4000になったことで、ワンミスが致命傷になり得るということだ」
生徒たちは先ほどのデュエルを思い返す。
小町がたった一度の判断ミスから、一気に敗北へ追い込まれた場面が脳裏によみがえっていた。
雄輝は続けて二本目の指を立てる。
「二つ、カードの使用タイミングの重要さだ」
同じカードでも、使うタイミングが違えば結果は大きく変わる。
九条が《融合解除》を最後まで温存した理由も、まさにそこにあった。
誰もが、その言葉を胸に刻んでいる。
雄輝は満足そうに頷く。
「今日の授業はここまでだな」
ちょうどその時、授業の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
本日の日直が雄輝に向かって号令をかける。
「起立」
「礼」
「ありがとうございました」
生徒たちの声がフィールド内に響く。
雄輝も静かに一礼した。
「お疲れ様」
こうして、神崎雄輝の初めての授業は、無事に幕を閉じた。
小町は誰よりも最後までデュエルフィールドを見つめていた。
《エルシャドール・ネフィリム》が立っていた場所。
《月光舞剣虎姫》が消えた場所。
その光景を胸に刻むように、小さく拳を握る。
(次は……)
(絶対に負けない。)
その瞳には、敗北の涙ではなく、次の勝利を見据えた強い光が宿っていた。