異界カルナ=ガイアの解析者   作:K@zuKY

11 / 12
第10話:パーティ結成

「価値はまず私に。彼の身柄は手が届くところに置くべきと思っている。次に白紙領。取り扱いを間違えれば、間違いなく戦争になる。以前のように各国が連携して自由都市を再建する――とは思っていないでしょう?」

 

 それはなと頷くヴァルナ。

 怜司は何のことやらさっぱりだが、もしやまだ命とまでは言わないが将来的な意味でまだ危機を脱しておらず、あとやっぱりアレは戦争になるほど厄ネタか、と悟る。

 

 パチパチンと焚火が爆ぜる音が響くが、さっぱりリラックスできる状況ではない。

 無音でカップに注がれた水を一口だけ吸うようにして飲む。今度は若干の甘味が強い。魔法で調整しているとすればやはり便利なものだなぁと遠い目で空へ視線を送った。

 

 そこには連なる月が同じ大きさで寄り添うように在った。星はキラキラと瞬いており、空気が澄んでいる事がわかる。

 良い夜だ。キャンプ日和とも言える。

 なので少しくらい逃避させて欲しい。九分で良い。

 

「彼が技術者でなければ最悪保護の手はあったわ。けど……技術者なら話は変わってくる。帝都でどこにも属さない技術者は、後ろ盾が無い事自体が重い枷になる」

「そりゃそうだけどよ……色々面倒な事になるぞ。良いのかそれで?」

「そうね。けど少なくとも彼は白紙領に関係なく良い価値を示したし、私達と約束をした」

「え」

 

 急に水を向けられて狼狽える怜司。良い価値って何かあっただろうか。

 約束は、まぁわかる。

 転移した理由や相手を知る事とこの世界がどういう所なのかを知るために金、食料、護衛を要求したことを指しているのだろう。

 けど良い価値は示したと言われてもと考えてしまう。何もなかったはずだ。

 そして今まで聞いていて分かった事としては、少なくとも白紙領は重要な場所だったが今は廃墟となっており、各国が調査をしている事。

 そして白紙領には大事な何かがあって怜司がそこと不本意ながら関係がありそうな事。

 あと技術者の扱いがとんでもなく不安定そうである事……これ位か。いや多いな。

 

「あー、二人とも? 俺に一体何の価値があるってハナシになってるんだ、コレ」

 

 話の腰を折るようで若干のうしろめたさがあり、恐る恐る聞く怜司に。

 エリシエルは薄く苦笑をしてみせた。ヴァルナはどうやらこの発言で納得感を覚えたようで、エリシエルに顎をしゃくった。

 エリシエルはそれに応え、指を三つ立てた。

 

「まず貴方のそのシステム自体。次に限られた情報から精度の高い推論を出せる人は希少。最後に、貴方は私やヴァルナに……()()偏見を持っていない」

「それはまぁ、偏見は技術者として最低ではある――」

「そうじゃないの。今の貴方は少なくともどの種族とも違う考え方と価値観を持っていると思っている。そこが私にとっては一番大事な事よ」

 

 わざわざ言葉を遮った彼女は微かに表情を崩していた。

 それがどういう意味かは怜司にはわからないが、理由については昼過ぎに話していた事だろうとアタリをつけていた。

 

「それはその、君の眼に関わる事を黙っている事に関係が?」

「えぇ」

「……とはいえ、自分の我慢弱さを知っているからなぁ。拷問されたら口を割ると言っていただろう?」

「普通はそんなこと、言わないものよ?」

「それはフェアじゃあない。お互いの事を知って、どう判断するかを決めた方が良いと思っている」

 

 言っていないことはお互いにあるだろう。

 だがそれなら開示できるところや線引きは、しっかりするべきだと考えていた。

 騙されたのなら見る目が無いと諦めるしかないが、少なくともヴァルナとエリシエルは怜司にとっては恩人だ。

 その恩人を踏み台にして何かをすることは、一切合切考えられなかった。

 二人が怜司から見て余程の悪だったのなら迷わずそんな約束は破り捨てただろう。

 だが、そうはならないという確信めいた予感を持っている。

 

 もっとも、あんな儀式まがいの虐殺を見せつけられては何もできないので、実質白旗降伏しているようなものでもあるのだが。

 万が一バラしたとしたらこちらが文字通りバラされるだけだろう。

 そう考えての発言だったが、ヴァルナは軽く口笛を吹いた事で視線を向けた。何故今吹くことが?と。

 

「それは口説いているって事で良いのか? まぁちょっとヒョロいけど悪くはねぇ」

 

 好色そうな輝きと肉食獣のような笑みを浮かべるヴァルナの反応で、怜司は含んだ水を吹き出しかけた。

 

「何でそうなるんだよ……」

「ハハ、だがその素直さと考え方は悪くねぇ、むしろ好みだ。良いぜエリシエル、アタシも乗ってやる。もしコイツが見込み違いだったらアタシがノクタリエの誇りにかけて始末してやる。それまではうちのパーティメンバーだ、よろしくな」

 

 屈託ない笑顔でとんでもなく物騒な発言を言い放ったヴァルナに、全力で引く怜司。

 余計な事を喋ったら最後、という事を面と向かって発言されるのは久しぶりだ。

 

 このシステム(エイエーゼロ)を作るプロジェクトに参画する時以来か。あれよりは暴力的であり、無機質ではない程度の違いだ。

 この手の話には大体裏がある。そこを暴けるとは余程の事情が無い限りは不可能だと思っている。

 怜司はカップの水を一口飲み、冷静に確認を取る。

 

「あー、認識のすり合わせをしたい。俺はエリシエルの秘密を守り抜いている間は殺されない。で、俺の目的は元の場所に帰る為で二人も何かしらの思惑がある――あぁ、それについては無理に喋らなくても良い、知らない方が良い事もあるだろうからさ。つまり言いたい事は……白紙領について調査をする事、これは全員で協力する。あと基本的にパーティとして動いて良い、という事だと思っている……これ、調査を中心に動いて良いってことだよな。もしズレていたら指摘してくれ、気付かないまま事故るのは互いにとって良くないだろう?」

「そうね。貴方がやりたいことをすれば良い。その為の知識や常識は私達やギルドで教えることができるわ。勿論、私達も優先するべきことがあるから、ぶつかった時は話し合って決めましょう」

 

 どう聞いてもかなりの好待遇であることに違和感を拭えない、怜司の表情からそう考えている事を察したヴァルナは、一度肩を大きく竦めた。

 それによってガシャンと大鎧が擦れる音が響き渡り、反射的に怜司は視線を向ける。

 

「ちょっと前に説明したばっかだろ。アタシ達は不老、テメェはヒューマ」

「――成程。そういうことか」

 

 つまりは種族の価値観。

 年月が敵に回らない彼女達と、明らかにタイムリミットがある人間とでは考え方も優先度も違うという事。

 ある程度の理解と納得はできる。

 だが果たしてそれだけなのだろうか。

 

「もう一つ確認をしたい。この三百年間、白紙領の中枢に入った調査隊はいないのか?」

「今わかっているのは中枢に近づくほど精神的な消耗が強くなり、最後には発狂する事と、そこでしか見かけねぇ結晶体に襲われたりして何も捗ってねぇってところだ。それと近づけば近づくほど死体や建物が結晶化しているって話くらいだ」

 

 結晶、ねぇ……と呟く怜司。

 少なくとも近づいたら死んで結晶化するということ。

 どういった原理でそうなるかはわからないが、今のところサンプル採取をするのにも近づく手段が無いようだ。

 最低でも専用の精神的な防壁を構築する手段を作るなり探し当てる必要があるという事に気づき、溜息をカップの底に沈めた。

 これは思った以上に長旅になりそうだ。下手をせずとも年単位といったところか。

 

「じゃ、そろそろ帰るか」

「あー、待った。そういえばその帝国ってどれくらいかかるんだ?」

「そうね……私達は転移石を使えばすぐ戻れるけど、貴方持っていないでしょう?」

 

 成程転移石。地球では列車や飛行機に取って代わったワープと同じものなのだろう。

 勿論持っていないと首を縦に振ると、うぅんとエリシエルは軽く考える。

 

「案内するわ。()()()()()()()()()()()ここから十キロ先に村があった筈よ。そこから乗合馬車で十日前後かしら」

 

 おっと馬車とな?

 

「馬車……つまり馬。っていうと四本足でタテガミのある大きな動物を使って?」

「――流石に馬はわかるわよね?」

「いや、そうなんだけどさ……ちょっと何言ってるかわからないかもなんだが、あー居るもんなんだなーって……」

「貴方ここを何だと思っているの」

 

 ほぼ無表情だったエリシエルが呆れかえるという、ヴァルナから見たら大偉業を達成した怜司だが、内心はほっとしていた。

 今の会話の結果として分かったのは馬と類似した生物がこの世界で繁殖しており、人間以外もおおよそ似通った生態系を持っているという事実だ。

 先の蛇肉の件と言い、類似素材の置き換えを命令していても固有名詞として変換されない以上、それはほぼ馬なのだろう。

 地球に似た世界だからそうなのかもしれないが、進化形態まで似るものなのかがわからない。

 一旦見かけたら全部解析しておこう、と決意を一つ。

 

「それじゃあ、その乗合馬車に乗るなら出発は明日か?」

「んだな。今からだともう無ぇから、さっさと寝ようぜ」

 

 そういってヴァルナは腰につけてあったランタンを外した。

 次いで揃えておいてあった短槍と片手半剣を揃えて枕として転がり、その豪快さとは裏腹に静かな寝息を立て始めた。

 

 一瞬である。

 

 眼を剥いて硬直する怜司に、エリシエルは彼女だけ特別頑丈で寝つきが良いから誤解しないようにと説明しながらゆらっと立ち上がり、焚火の傍に転がっていた大きな鞄に手を入れ、引き抜く。

 それは大きなマントだった。何となく大きさで誰のものなのかを察する怜司。

 

「勝手に使っても?」

「先に眠ったのはそういう意味よ」

 

 そう言われては突き返す理由も無く、全身を包める位大きなマントを布団代わりにして寝転ぶ怜司。

 ノクタリエ特有なのかヴァルナのものなのかはわからないが、彼女の良い匂いを発するマントに、妙な安らぎを感じた。

 獣臭さがないのは不思議だが、魔法のお陰だろう。

 魔法万歳。

 

「おやすみ、エリシエル」

 

 返答が無い事前提の挨拶をして。人の事を全く言えない速さで眠りについて。

 そうして怜司の異世界転移生活の初日が終わったのだった。




Q.時間軸的な意味で初日に10話使って大丈夫? とっ散らからない?
A.序盤で10話なので丁度良さげな所で区切れたのもあり、今回は大丈夫っぽい。ちょっと区切り過ぎたかなと反省はしている。

Q.次回以降は?
A.毎週金曜投稿。19時{話数}分に投げる予定。60話目は19時00分に戻るので19時代に更新がある時があるって事になる。あんまりにも短文過ぎる場合は翌日更新も有り得る。というか流石にそうしたい。

感想とかお気に入りとか評価とか待ってますよ。
とはいえ書いてて思ったけどスロースターターなのと短く区切り過ぎて反応しづらいかなぁと反省中。(他作品だと7k~9kなのでおよそ30%~50%の分量)
二章のドルヴァ(火山地下国)からは一話あたりの文章量あげるかアンケ取りますね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。