異界カルナ=ガイアの解析者   作:K@zuKY

20 / 20
第19話:捜索依頼

 案の定というべきか、想定通りともいうべきか。

 ギルドの大扉が視界に入った瞬間、怜司は昨日とは違う空気を感じ取った。

 朝一にも関わらず、ギルドは昨日の倍程度の人数と、それにあった喧噪に満ちていた。少なくともざわめきというよりは騒然と受け取ったが良いだろう。端的に言えばうるさいだなコレ。

 

 掲示板に張っている依頼書を取って確認する者、依頼を受けて意気揚々と外へ出る者、依頼失敗を告げて立ち去る者、様々な冒険者達がいる。

 ただ、それよりも注目に値するのは黒い掲示板に群がる人だかりだろう。少なくとも昨日よりも桁一つ違う。

 

「なぁエリシエル。あれって白紙領の調査が大量に舞い込んだ認識であってる?」

「恐らくはそうでしょうね。緑ではなく黒で出す価値があるという意味だとは思うけど、あんな人だかりになるのは今まで見たことが無いわ。見に行きましょう――あら、ヴァルナがいるわ」

 

 注視するまでもなく、長身と深紺色のハイポニーテールが目立つノクタリエの女傑が、黒の掲示板から依頼書を剥がして受付へと向かっていた。

 白紙領についての調査、にしては血相が変わっていたような気がした怜司はエリシエルへ視線を向ける。

 受付嬢と何事かを話しつつ、ふと視線がこちらと合う事で大きく手招きしてきたヴァルナ。

 

「おはよう。何か依頼を受けたのか?」

「今からな。悪ぃが怜司、白紙領の調査は後回しだ」

「……あー、まぁ良いけど、何かあったのか?」

「アタシ達の恩人が行方不明になった。その捜索依頼が今日、張り出されていたんだよ」

 

 恩人という言葉に杖を僅かに揺らしたエリシエルが、怜司に視線を向ける。方向性が違う二人の美女の圧力に一歩後ろに下がって両手を挙げた。

 

「いや、後回しにするのも協力するのも別に全然良いんだけど、じゃあ俺は一体何をすれば?」

「テメェ、確か得意なのは分析力と観察力つってたよな」

「あーまぁ、下手すれば誰よりも上ではある、かもって位?」

 

 大した自信ね、と淡々と返すエリシエルだが、システムと地球での事件で培った能力とインストールしている知識の組み合わせは伊達ではない故の、怜司からしてみれば事実を持って返しているのだ。

 多少傲慢に聞こえるのは致し方ない。その皮肉気とも愛想とも取れる笑みでより胡散臭さが倍増しているわけだが。それで糸目だったらキミ黒幕だよと所長に言われた位の。

 

「なら丁度良い。エリシエルはともかくとしてアタシは捜索に関してはそこまで得意じゃない。こういうのは知恵者と人数が大事だからな」

 

 そう言って依頼受諾し終えたヴァルナがギルドから立ち去る。次いでエリシエルも追従し、最後に怜司は肩を竦めて追いかけた。

 

 ギルドの外に出て暫く歩き、ヴァルナの先導先はどうやら貴族院だということに気づく。

 周囲を見れば殆ど独りで歩いているものはおらず、最低でも四名で行動しているようだ。

 貴族、或いは文官が一人、護衛が三人といったところか。

 外側は領地を持たない文官、内側に向かえば格、或いは爵位がある貴族の専用の住居があったと思い出した怜司が、ヴァルナへ確認をする。

 

「あーヴァルナ、もしかして依頼主は貴族なのか?」

「あぁ。白紙領の境界線を治める辺境伯だ……それも今回でどうなるかわからねぇが」

 

 その言葉に首を傾げる怜司。どういう意味かを問い質そうと口を開きかけるが、

 

「今回行方不明になった技術者、ジェスって奴なんだけどさ、魔力で火が消えないようにしたスイッチ式の魔導ランタンを作ったんだよ」

「火が消えない……」

 

 考えればそりゃ便利だろう。北国である帝国では魔力がある限り暖に使えるし、吹雪いている夜でも光源が消えないという事でもある。

 それは随分と革新的なものを作ったものだと感心しようとして、一つ閃きが走った。

 

「あー、もしかしてそれって魔導灯の原型になったんじゃないか?」

「そ。火が消えないランタンを発展させて発光式の魔導灯も作ったわけよ。それまでは油を使ったランタンだったんだけどな、二十年前にその発明があってからは見ての通りさ」

「――成程、そりゃあ凄い……ちょっと待った、じゃあヴァルナのそのランタンは」

「あぁ、これが最初の一台目だ。ここからノクタリエに伝わった。アタシ達からすりゃ、不老の選択肢を増やしてくれた恩人ってわけだ。だから帝国には、今でも友好の証として冒険者を送ってる」

 

 ギルドからもらった冊子の地図から見るに、お隣でもない国家間の友好に一役買ったというのなら相当な傑物だ。

 だがそんな貴重な発明家が行方をくらましたら、ギルドではなく国の管轄になるのではないかと疑問を覚えた怜司だが、

 

「あーここだここ。懐かしいなぁ」

 

 ヴァルナが立ち止まることで一旦話題を切り上げる事にする。

 貴族院の外郭からはかなり内側に入った個所だ。それぞれの館が広い距離を保って分立している。

 どれも同じような建物ではあるが、屋根の紋章盤で判別するようだ。

 外観は傷みがほとんどなく、塗装も剥げていない。

 だがヴァルナは懐かしそうに眼を細めて呟いていたことで、どうやらここに立ち入るのは何年かは経過しているということが窺える。定期的に塗装や外壁の補修でも行っているのだろう、と怜司は推察した。

 

 門をくぐった瞬間、怜司は空気の変化に気づいた。外の冷たい風が敷地に入った途端にふっと弱まり、同時に外側の音が薄くなった。

 これはギルドや銀月館で体験した魔力障壁だ、と解析するまでもなく理解できた。

 

(……この使い方はどこも同じということか)

 

 周囲を見れば敷地内の石畳は磨き上げられ、魔導灯が等間隔に埋め込まれている。

 灯りは柔らかい金色で、夜でも昼でも一定の明度を保つよう調整されているようだ。防犯を兼ねているのだろう。

 ヴァルナの懐から自身のギルド証と依頼書を取り出し、一組の門番へ掲げるように見せつけると、一礼して二人が玄関扉を押し開けた。その際に扉中央に刻まれている鷲のような家紋が緑色の魔力光を発する。

 

(鍵穴が無い……魔導具か魔力による認証か。流石貴族が住むだけあるということだな)

 

 中は広く、そして静かだ。

 床は厚い一枚の絨毯が長く敷かれ、足音が完全に吸い込まれた。色は深い紅色で、銀糸が織り込まれた複雑な紋様が走っている。

 壁を見た時、怜司は見覚えのあるものを見つけた。

 

(これ、魔導灯じゃなくヴァルナのランタンと同じ型か?)

 

 確かヴァルナが言っていた技術者――ジェスの作品が等間隔で設置されており、柔らかな炎が死角を映さぬ程度の規模でランタンの中で揺らめいていた。

 

「なぁ、ヴァルナ。アレってそのランタンと同じ型か?」

「お、良く分かっているじゃねぇか。お抱えの技術者が作ったものを展示がてら使っているのさ。こういうのは貴族にとってはわかりやすい権力の見せ方だ」

「成程、対外的なものもあるってことか……」

 

 天井には淡い魔力の膜が張られ、空気の温度を一定に保っているようだ。

 廊下の両脇、ランタンの間に魔導工芸品が飾られている。恐らくお抱えの技術者が作った歴代の品なのだろう。

 廊下を進むと、使用人たちが静かに頭を下げる。

 ヴァルナやエリシエルに対して向ける目は歓迎の意思が宿っていたが、怜司を見る目は、一転してどこか探るようで、次いで少量の戸惑いがあった。

 ヴァルナとエリシエルに俺が加わったからか、とある程度の理解をし、気にせず怜司は前へ歩む。

 エリシエルは無言で歩き続け、ヴァルナは慣れた様子で先導する。

 やがて、重厚な両開きの扉の前でヴァルナが立ち止まった。

 

「ここが依頼主の部屋だ」

 

 扉の表面には、魔導紋が複雑に刻まれている。

 怜司は解析を走らせる。

 

(――防音による盗聴防止と耐魔力。敷地内だってのに徹底している。それだけ聞かれたくない内容なのか、それとも貴族ではそれが普通なのか。まぁ、どっちも有り得るか)

 

 ヴァルナがノックすると、中から低い声が返ってきた。

 

「入れ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。