異界カルナ=ガイアの解析者   作:K@zuKY

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第5話:精神攻防戦

【LOG-PSY-012:極度の精神操作を検知】

【肉体へのアクセス権限の奪取を確認】

【思考をシステム側へ退避......完了】

【対抗用解析、開始】

 

 緊急時による視覚と聴覚の同時報告が走る。

 

 だが怜司の体はピクリとも動かない。反射的に動かそうとした腕どころか指一本に至るまで動かせない。

 瞬きすらできなくなり、口はまるで鉛で覆われたかのよう。

 

 そして視線はエリシエルが露わにした左目へと固定されていた。鮮血よりも明るい赤光を放つ瞳。

 つまり彼女は――

 

(“エリシエルの体内スキャン。機材が存在するかだけ確認。その後は精神操作に対する解析、精神防壁の構築の順に優先だ”)

【LOG-PHY-001:肉体に機材無し】

【精神操作解析中……不明な器官を検出、励起確認、解析必須条件と定義】

(そいつはクレイジー……機材無しで視認性の催眠術……天然の超能力者、いや違うな。やっぱりこれファンタジー世界に片足突っ込んでるだろ……魔法なんて出てきた日には転移の意味も違うことになりそうだ)

「<貴方の名前は?>」

「神薙怜司」

「<貴方の職業は?>」

「技術者」

 

 やはり嘘は言っていないわ……と呟くエリシエルに次いで、ガチャガチャと鎧のこすれる音が遠くで響く。

 恐らく自分が出てきた家屋の調査をしているのだろう、距離的に小さくなった声量で「何もねぇな」とぼやいている事を辛うじて捉えていた。

 システムは今、少ない全力で解析をしているが故の、久しぶりである自身の聴力のみの判定だ。

 

「<貴方の所属は?>」

「第一太陽系連合地球内特務研究機関、ファーストエイド」

 

 誰かが呻くようにも聞こえる不吉な風音とヴァルナが家探ししている音だけが場を支配した。

 大半が理解できない言葉なのだろう。怜司が聞かされたエンブレア派と皇帝派のようなものだ。

 翻訳が入っても固有名詞に関してはそのまま出されるのだ、無理もない。

 怜司からすれば彼女達には他の星(惑星占領)という概念がない事が確定したとも言い換えられる。

 肉体の制御を奪取され、システム側に退避している怜司はそう他人事のように理解し、納得までしていた。なんなら達観すら有り得るレベルだ。

 

「帝国ではない……いえ、そうね。<貴方は追放刑を受けた?>」

「刑を受けていない」

 

 困ったわね、と本当に困惑した声色を流しながらエリシエルは首を傾げた。

 サラサラと零れる銀髪の隙間からヴァルナとは違う柔らかみのある長耳が覗いている。

 

 ――動けないのなら考えることだけは止めない。

 情報を整理して検証する事は技術者として当然の事だ、それもある。

 だがそれよりもこれを解除した後が問題だ。

 恐らく詰問されるのは間違いない。そこをどうやって切り抜けるか、或いは自分がある程度有用であることを示す必要性を、予感として感じていた。

 

 だが決定的な理由は別だ。

 そうでもしなければ恐怖に呑まれると理解していた。

 自分の体が自分のものでなくなる感覚は、どんな解析結果よりも冷たく、凍り付く程の恐怖を与えてきた。

 ましてや、それが目の前にいる美女が能動的に引き起こした結果なら尚更(なおさら)

 

 視界に映るエリシエルの顔と先ほど顔を突き合わせていたヴァルナが、何故ここに来ていたかを考える。

 追放刑、つまり犯罪者であるか、とまず聞かれた点とこの逃げ出したくなるような気持ちになるこの場所を絡めて考えれば、ある程度推察できる。

 

 まずは場所。

 ここは人は殆ど住めない、或いは破棄する必要があったハズ。

 視線を向けずとも情報がシステムを介して脳に保存される事で、周囲の状況はある程度だが把握は出来ている。

 

 この廃村は自然現象によるものではなく、何らかの理由で破棄されたと踏んでいた。

 少なくともこの白い大地と建物は異常だ。

 文字通り色を失った結果、或いは白色に統一されたと考えられるほど、この村を構成している素材や物質は白一色かつ完全な同色。

 仮に人の手でこれをやったとするならば、よほどの変質狂が集まった事になる。

 それならこの村に固執するハズで、余程の事情が無ければ廃村となるはずがない。

 

 だが現実には目の前の二人だけ。

 この逃げ出したくなる気持ちと併せて考えれば、過去に何らかの大災害や大規模の実験が発生したと考えた方がまだシックリくる。

 

 そして二人とも旅装束とも言える恰好をしていること。

 いきなり斬り掛からず、尋問するに留めていた事から推測するに、やはり調査をしていたと考える方が自然だ。

 そうなると何を調査しているのかが気になるところだが、廃村となった理由か、その材木や大地の調査か、保全活動のいずれかとなるハズ。

 

 ただ、調査にしては彼女達の装備、というより持っている荷物がまるでない事の方が気になる。

 何かしらのカラクリがあるとしても、無さすぎるのだ。

 怜司がフィールドワークを行っていた時は結構な荷物を持っていた。

 とはいえ、これは郊外にでもキャンプ地点があるのなら話はまた変わるので保留だ。

 

「ダメだ、何も見つからねぇ」

 

 ガチャガチャと鎧の音を響かせながらヴァルナが戻ってきた。

 その声には苛立ちと困惑が混ざっている。

 

「ヴァルナ、恐らく何もわからないわ」

「だろうな。こいつは軽装過ぎるし、出てきた家屋には何もなかった。けどそうするとこいつはどうやって生きてきたかがわかんねぇ」

 

 確かに、とエリシエルは首肯した。

 彼女達からしてみれば、怜司を旅人として考えればマントやローブを羽織っていない事が気になっていた。

 家屋の中に置いている可能性はヴァルナの調査で何も無い事が確定している。無論、食料もなかったのだろう。

 暫く熟考して、エリシエルはようやく当たり前のことを舌に乗せた。

 

「<貴方はどこから来たの?>」

「地球」

 

 聞いたことが無い地名だと、二人は眉を顰めた。

 どこかの遠い地名であったかもしれないが、その響きが異質であることにも気づいている。

 だから次の問いは必然だった。

 のだが。

 

「<その地球という場所は――」

【LOG-PSY-032:不明器官による精神操作、解析完了】

【データ照合......極超強度の洗脳と類似】

【精神防壁の応用構築、完了】

【肉体への不正アクセス、遮断完了】

「うっそだろお前」

 

 まぁ動けないなら力抜いても良いだろう、そう思って完全に油断していた怜司はあっさりとバランスを失って、目の前のエリシエルへと重心が傾いた。

 

 突然動き出した怜司に二人は完全に意表を突かれた。

 反射も何もあったものではない。

 事実として彼女の精神操作は完璧なものだ。

 これを覆したものは記憶に三人しかおらず、また目の前のヒューマがそれを破る力があるなんて想像もしていなかった。

 

 故に、ここからは完全な事故。

 

 怜司の右足が地につき、それでも踏ん張りがきかず。

 反射的に伸ばした右手は期せずしてエリシエルの胸を押し出すように掴んだ。

 左手は咄嗟に彼女の肩を掴み、ちょっとした抱きしめかける事故と相成った。

 唐突にシステムが防壁解除をしたせいで、ガッツリなセクハラを働いた事実に動揺する怜司。

 精神操作が強制解除された事実に硬直するエリシエル。

 

 唯一、ヴァルナだけが遅れて反応した。

 怜司の喉仏に短槍を突きつけたのだ。いつ抜いたかもわからない速度で。

 酷く乾いた言葉が怜司へと向けられた。

 

「テメェ……何者だ?」




ラッキースケベでもマジで時と場合を選ばないと「14へ行け」なんよ。
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