夜に咲く白い花 作:ももはね
完全にお遊び会
。
夏休み直前の今、各地の組合の学生が魔法少女組合本部のある『京都大結界』に集まって研修とか模擬試合をする交流会が始まった。その中では、他校の学生だけではなく正式な魔法少女たちとも模擬試合をやったり、卒業後の将来についてお話を聞く機会があった。
私の場合、回復魔法の適正持ちが少ないということもあり、中々教わることのできないコツを教わったりと充実した期間ではあった。
だが、あくまでも学校行事。堅苦しいというか、気疲れするのだ。特に京都校の人たちは妙に鼻につく態度だったし。
だからこそ、それが終わった今、開放感に心身を委ね青春を楽しもう──ということで、海に来た。
場所は京都大結界だけどほぼ京都じゃない。大阪と兵庫あたりの瀬戸内海。海には海棲型の魔物がいるので、日本海や太平洋側では遊ぶことなんてできやしない。でも、瀬戸内海は定期的に組合主導の掃討作業が行われていることや、一部が大結界に巻き込まれているお陰で誰でも遊ぶことができるのだ。
今は長期休暇直前という半端な時期のお陰か、はたまた全国の魔法少女が集まる時期だからか、一般人は殆ど居なくって、魔法少女たちの貸切みたいになっている。多分、私たちみたいなノリで遊びに来ているのだろう。何処を見ても鮮やかで目に悪そうな色の頭ばかり。チカチカしそうだ。
私たちは砂浜にシートを広げ、そこに冷蔵箱や日傘などを設置しとりあえず皆で並んで海を眺めていた。
当然、全員が水着を着ている。
「本当に海って青いんすね!」
「ねー。水って透明なのに不思議ー」
「サク、あまりはしゃぐなよ。他にも人居んだからぶつかるぞ」
「わかってるっす! ほら、レン行くっすよー!」
そう叫びながらサクがレンを担ぎ上げると海に向かって走り出す。レンの「おわー!」という声が救急車の残響みたいに遠ざかって行った。
「さーて、二人はどーする?」
アオコが遠くの二人を眺めながら私たちに問いかける。いつも落ち着いた彼女にしては珍しく、ちょっとソワソワしていて今すぐにでも二人へと飛びつきたいのを我慢しているように見えた。彼女のことだ。一人は荷物を見ていないといけないから、と遠慮しているのだろう。せっかくだし、皆には楽しんでもらいたい。
「じゃあ私が荷物は見てます。でも、後で代わってくださいね?」
「もちろーん。じゃ、行ってくるねー!」
ばるんばるん、と。思わずその揺れる果肉を目で追ってしまう。慣れて来たけど、やっぱりアオコの肉体はあまりにも暴力的過ぎた。
あれはヤバいよ。純情少年が見たら一瞬で発情少年になっちゃうって。
「ヒトカはどうします?」
「ん、じゃあなんか買ってくるよ。焼きそばとかき氷と……烏賊焼き、なんか変な飲み物もあるね。どれがいい?」
「おー……じゃ、焼きそばで!」
「じゃあ行ってくるから。ちょっと待ってて」
「行ってらっしゃい!」
手を振ってヒトカを見送り、独り残った私は砂浜に穴を掘り始めた。道具があれば効率的にやれるのはわかっているが借りに行くのも面倒だし、何より魔力強化すればヒトが道具を使うのとそう変わらないくらいの速度で掘れる。
十分か二十分ほどして、ヒトカが帰って来た。右手に焼きそばが五つ、左手にイカ焼きが五本。見事に全部茶色で、飾り気なく欲望のままに貪る彼女らしいなと思った。
「……それ、全部食べるの?」
「ミツハのもあるよ。ほら」
焼きそばを一つ渡される。
「あ、うん」
「……冗談だよ。烏賊もあげるし、早く戻って来たら皆にも渡すつもり」
「戻ってこなかったら?」
「私が食べるよ。勿体ないし」
さいですか。
受け取った焼きそばに付属していた割り箸を割る。
おっ、綺麗に割れた。
「っその目やめて。私が食いしん坊みたいじゃん!」
「え、違うの?」
「ち、違っ……私って食いしん坊なの?」
ちょっと固まっている焼きそばを箸で解していると、恥ずかしそうにヒトカが聞いてくる。
自覚なかったんだ。
「よく食べるなー、とは思ってますけど、私が小柄ですからね。比べるの
「……私ってさ、もしかして太ってる?」
「むー?」
頭から爪先までヒトカの体を舐めるように見て回る。
私の貧相なペッタンとは異なり、ヒトカには
「……変なとこ見てない?」
「全然」
魔力強化に任せ、ヒトとしての筋肉を疎かにしている人も少なくない魔法少女の中でも彼女は珍しい鍛えている側だ。それに加え、私みたいに小柄で筋肉も少なく体質的に鍛えてもどうしようもないのが存在している中で、彼女は恵まれてもいた。
当然、お腹は括れている。ちょっとお肉が付いても見えるけど、しかしその下には鍛えられた腹筋があることも知っている。私は何度か彼女と一緒に寝ているお陰で、その細くも逞しい体の感触を心得ているのだ。
「ど、どう?」
「綺麗だなって思いました。太ってないですよ」
「良かった……」
「ていうか、私たちっていつも訓練してるじゃないですか。太りようがないと思うんですけど」
「そうゆうことじゃないの」
「そうかなー」
パクパクと食べ進めていると、横で烏賊焼きを食べているヒトカが不思議そうに私の掘った穴を眺めた。
「それ、何?」
「穴です」
「見ればわかるよ。何で掘ったの」
「暇だったので。後でサクさんが埋まってくれないかなって」
「……ちゃんと掘り起こしてあげなよ」
「わかってますって」
暫くして。
私が焼きそば一つと烏賊焼き二本、ヒトカが焼きそば二つと烏賊焼き二本を食べ終えた頃、三人がビショビショに海水を滴らせながら戻って来た。
「あー焼きそば! わたしも食べたいっす! 何処で売ってたっすか?」
「あっち。二つ残ってるけど食べる?」
「あざっす!」
焼きそばを受け取ったサクが「なんすかこの穴!?」と叫びながら穴に入り、その中で座って焼きそばを食べ始めた。
本当に入るんだ。
「荷物番させちまって悪いな。今度はアタシらが見てるから行くか?」
「ちょっとしたら行こうかな。食べたばかりでお腹いっぱいで」
「あはっ、けっこー食べたねー」
あ、ヒトカが照れた。まだ気にしてたんだ。
改めて三人の水着を見る。皆似合ってる。レンは可愛いし、アオコはえっちだし、サクも体は大きいから大人びて見える。でも、やっぱり一番綺麗なのはヒトカだと思った。
砂浜で光って見える白金色を見つめていると、その後ろの遠くに見覚えのある姿が見えた。
「あれって京都校の人たちじゃないですか?」
「おー、ホントだ。あの人たちも遊ぶんだねー」
「けっ、名家が多いからって偉ぶりやがって」
「でも実力はあったっすよね。沖菜先生も強いって言ってたっす」
「何年か前に京都本部が魔女に壊滅させられたでしょ。その復讐に燃えて、訓練とかすごい過激らしいよ。それを乗り越えた自信があるんだろうね」
「悔しいけど、やっぱすごいですよね。それはそうとウザかったですが」
私が模擬試合で当たった学生に、雷の魔法を使う人が居てとても強かったのを覚えている。
というか、雷ってズルいよ。強すぎるよ。躱すのが難しいし、当たったらちょっと痺れるし。私みたいに飛び道具がないのは勝つのがほぼ無理だと感じた。発動と同時に光って目眩しになるのも地味に優秀な妨害になるし、弱いところがない。
「あ、なんかあっちで先輩たちがバレーやってるっぽいので行って来ていいっすか!?」
「おう、行ってこい。迷惑掛けんなよ」
「わかってるっす!」
さっきまで海で遊んできたとは思えないはしゃぎっぷりでサクが走って行った。彼女の体力に限界はないのだろうか。
「ヒトカ、私たちも海行きましょっか」
「うん。ところで、ミツハって泳げるの?」
サンダルを履いて海へと向かっていく途中でそう聞かれ、頷いて返す。
「田舎の川で泳いだことあるので。でも、海って塩水らしいからちょっと違ったりするのかな」
「そう。まあ、溺れそうになったら叫んでね。私は泳げるから」
「ふふっ、その時はお願いします」
その時、ふと遠くに大きな水で作られた竜のような物が浮いているのが見えた。周りにも、不思議そうに、或いは面白そうにそれを眺めている人が沢山いる。
「……ああ。今年も出たんだ」
「知ってるんですか?」
「下見て」
竜の下を見ると、そこには青い銃──魔法具を持った青い髪の魔法少女がいた。
水で作られた竜、そして魔法少女……もしかして。
「魔法少女があれ作った、のかな。この辺って勝手に魔法使っていいんだっけ」
魔法少女の魔法具は魔物に対抗する為に作られた
今は魔法少女ばかりの浜辺だが、ここは別に私有地でも組合の施設でもない。なのに、なぜ魔法具を持っているのだろうか。
「駄目だよ。でも、やっぱり海って珍しいから気分が上がっちゃうんだろうね。毎年、一人か二人はああやって勝手に魔法具持ち出すのが居るんだよ。私は見なかったけど、去年も居たんだって」
「あっ……なんか走って来た」
「多分、見張りの人だろうね。対魔女特化の捕縛と殺傷に長けた魔法持ってる人たち」
「え、殺されるんですか?」
ぎょっとした顔でヒトカを見ると、呆れた顔で横に振られた。
「流石にそれはない。でも、帰ったら先生とかにすごく怒られるだろうね」
「側から見てる分には面白いんですけどね。あの竜も格好良かったですし……あっ、竜壊されちゃった」
何処からともなく飛んで行った巨大な魔力弾が竜を打ち砕き、周囲に大量の水を撒き散らしながらその姿を崩壊させた。その下では、全身をびしょ濡れにさせた水魔法使い本人と、見るからにブチ切れている制服姿の魔法少女が居た。
まあ、自業自得と言えばそうなのだが、正直もうちょっと見ていたい気持ちはあった。
「……今度、私が作ろうか?」
ぼそりと呟かれた言葉。ヒトカを見れば、気まずそうに目を逸らし指先を遊ばせていた。
「え、何をですか?」
「その、竜。見たいんでしょ。でも、私のは金属生成だから……私じゃ嫌なら、アオコに頼む?」
私より十センチは背が高い彼女が、何故だか小さく見えた。微笑ましくって、あと嬉しさと気恥ずかしさに笑みが溢れてしまう。それを彼女は馬鹿にされたと感じたのか、はたまた照れ隠しなのか、顔を赤くしながら顔を逸らされてしまう。
「や、やっぱ何でもない」
「いやいや、無理がありますって」
「……ぅ」
「じゃあ、今度の魔法訓練の時に見せてくださいね。ヒトカの格好良い姿を」
「……見せるのは、竜だから」
「はい。格好良いのを期待してますね!」
「──っ」
直後、ヒトカは明らかに魔力強化を使ったであろう速度で海に向かって飛び出し、跳ね、浜辺から十メートル以上は沖の方へと潜り込んで海中へ逃げ隠れてしまった。その際に高く飛び上がった水柱と水飛沫によって視線が集まるが、誰にも仕掛人の姿は見えていないことだろう。
中々浮いて出てこないヒトカを心配しながら、私は歩く足を少しだけ早めた。
「もう、私が溺れたら誰が助けてくれるんですか」
堪らなく楽しい夏は、こうして過ぎて行った。
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非常に後悔の多い一話です……勢いでやっちゃってけど、思い返せばこの世界の海って魔物がうじゃうじゃ居る魔境なのよ……その場の思いつきで瀬戸内海の魔物にはちょっと全滅してもらいました……あと京都大結界がちょっとズレました……
世界観の拘りとして、登場人物にパソコンとかスマホみたいな『よくある物・英名以外ない物』以外で横文字はなるべく使いたくないんです(例・『ラッキー!』は『運がいい』、『タイミング』は『その瞬間』とかに置き換える)。
まあその匙加減は作者の独断と偏見ですが。
そのせいで水着の描写がむず過ぎて、戦闘シーンでもないのに三人称にするかギリギリまで迷ってました……あげく、描写を全カットすればいいという諦め。
全部ガッバガバ過ぎて笑っちゃうんだよね。
でもな、でもさ、海シーンは入れたかったんよ……
補足でみんなの水着は、ミツハはワンピース、ヒトカはタンキニ、レンはビスチェっぽいの、アオコはオフショルの、サクはビキニってことで、はい。
見事に全部横文字なんだよね……
レンはスク水にするか迷いました。