DEAF:PROLOGUE −THE EARLESS GHOST− 作:Str4y_Sh3ep
「どうしたハンター6、応答せよ…!」
「チィッ!…こちらハンター6、作業班のいた辺りで爆発。作業班が敵による空爆を受けたと思われる。アウト!」
報告を入れるだけして素早く無線機のチャンネルを切り替え、作業班との通信を試みる。
「ヒューズ、こちらハンター6。そちらの状況を報告せよ、オーバー!」
しかし無線を入れても、作業班からの返事はなく、聞こえるのはノイズ音だけ。もう一度無線を入れ、通信状態を確認する。
「こちらハンター6。ヒューズ、応答せよ!」
「ハンター6、こちら……爆……工兵が……。…敵しゅーー」
ザザッ…。一際強いノイズと共に、ヒューズとの通信は途絶えた。そして再び作業班のいた辺りから爆発音。
「ヒューズ!応答せよ、ヒューズ!」
何度も呼びかける。しかし、反応はない。マーサーの頭の中を悪い妄想ばかりがぐるぐると浮かんで回りそうになったが、平静を欠くのは良くないと瞬時に頭を切り替える。
再びチャンネルを戻し、本部から情報を貰えないかと通信を試みようとしたその時だった。
「セントラルナーヴより各班。作戦区域上空より敵航空戦力による攻撃が行われているものと思われる。作業班は直ちに後退、警戒班および突入班は……」
丁度本部からの無線が入ったが、やはり無線の調子が悪く、ノイズを最後に切れてしまった。しかしマーサーの見立て通り、航空機による対地攻撃が行われていると見て間違いなさそうだ。
「ハンター6よりハンター小隊各位、敵航空機により作業班への攻撃が行われている。本部から作業班へ後退の指示があったが、無線を受信できていない者がいる可能性が高い。これより我々は作業班へ指示の伝達と、後退の支援をーー」
その時、マーサーの足元の土が高く弾け飛んだ。それからその横の土、さらに横の土と横一文字に土が弾け飛ぶ。マーサーは再び舌打ちした。
「隊長…!応答を!」
「俺は大丈夫だ。それよりお前ら伏せろ、俺たちの位置が割れたかもしれん。機銃掃射が来るぞ!」
再び指示を妨げられた。おまけに機銃まで撃たれては、身動きひとつできないどころか身を守る手立てすらなくなってしまう。いくらハンター小隊といえど、地上を闊歩するだけの一歩兵にすぎない。例外なく空の下では無力なのだ。
「クソッ、足が…!」
「衛生兵ー!」
「DEAFの連中はいつまでもたついてやがる!」
「やっぱり陸上部隊だけでの突破なんて…」
「やめろ!それ以上言うんじゃねぇ!」
たちまちその場は兵士たちの怒号が飛び交い、混乱が支配した。拠点に戻っても追跡されて潰される。作戦は失敗した。自分たちはこのまま死んでしまうのだと告げる現実から目を背けたくて、歩兵達はひたすら叫んでいた。
なおも降り注ぐ弾丸の雨。タパパパパ…と音を立てて跳ね上がった土が土煙となって森林を流れ始めた。
ハンター小隊はエンジン音を手がかりに攻撃機の方位を割り出して上手く身を守っているが、そろそろ次が来てもおかしくない頃合いだろう。
しかし、マーサーの読みとは裏腹に、機銃が地面を叩いてから、次に地面を叩くまでの音の周期、それがだんだんと開いていくような気がした。
なおもゴォォと空を揺らすように、低く重く轟くジェットエンジンの音。しかし、よく耳に意識を集中させると、2つ重なって聞こえる。どうやら先ほどの攻撃機とは違う、即ち別の機体。
警戒班側も気付いたようだ。そして誰かが「敵の増援か?」と言った。だが、増援ならばなぜ攻撃機がやって来なくなったのか。仮にも対地攻撃に優れた攻撃機なら、この短い間に弾切れなどはしないだろう。
なおもぐんぐんと近づいてくるその音は、ついに鼓膜をビリビリと震わせ始めた。弾かれるようにマーサーは上を向いた。そろそろ通るはずだ。もしも味方なのならば、その姿を目に入れないわけにも行くまい。
森が騒ぎ出す。轟音が腹の底に響いた。そして木の切れ間から見えたのは、日の光に照らされて赤くなった、硬そうな角張った翼を纏う航空機。それはちょうど旋回していたようで、尾翼には『遥か遠くまで続く道路と、力強い鷲』の部隊章が見えた。
「これは…」
「…どうした、隊長よ」
後ろから声がかかり、マーサーは振り返る。
「ベネットに、リードか」
「…ああ、攻撃が止んだため負傷者を治療したいとリードに頼んで、同伴を頼んだ」
「同じ隊の後輩だけを行かせるわけにはいきませんから。予めひと言言うように言っていたんです」
「なるほど。ご苦労だった、ベネット」
「…務めを果たしたまでだ」
少し俯き気味になってベネットは相変わらず静かにそう言う。
「…それで、何かあったか」
「ああ。覚えているか?あの日我々が見た、道路と鷲の部隊章の飛行隊」
「ッ……隊長、本当なのかそれは」
「ああ、間違いない」
「最高速の捕食者……。ですが確かに、彼らが来たなら攻撃機の撤退にも説明がつきます。反乱軍は彼らに随分痛手を負わされたようですから」
リードはそう言いつつ上を見上げた。しかしその目は何か遠くのものを見つめていた。深い藍の空。日の光に照らされた白、そして生まれた陰は青い。
「ハンター6よりセントラルナーヴ。敵攻撃機による攻撃が中止、並びに友軍機と思われる航空機を確認。視認した部隊章は道路と鷲」
一つ息を吸うマーサー。彼の見上げる空を、再び戦闘機が飛んで行った。やはり間違いではないようだ。まだこちらにも勝機はあった。木々は、まだ落ち葉を散らしながら枝を揺らしていた。