DEAF:PROLOGUE −THE EARLESS GHOST− 作:Str4y_Sh3ep
11.贖罪の獅子
マーサーがあの部隊章を目にする前、攻撃機の急襲によって混乱する戦況を受けて、中隊本部は騒然としていた。
「作業班の損害を報告せよ!」
「物資もだ!」
「待て…、作業班の無線を復旧せねば」
「だが、まだ敵からの攻撃が止んでいないぞ!?」
作業班の損害は大きいこと以外何もわかっておらず通信途絶。さらに爆破作業の光と音で特定が比較的容易だった作業班はまだしも、どう言うわけか警戒班の存在まで割れてしまい、攻撃機による対地攻撃が絶え間なく作業班と警戒班を襲う。故に警戒班も作業班への通信伝達に回ることが叶わず、もはやいい的と化して一方的な攻撃を受けていた。
情報の集まる目処が立たず苛立つ本部の兵士たち。ヘイルは現状わかる最低限の情報からマップデータを編集しつつ、頭の中でこの状況を回復できるプランを模索していた。だが、ヘリを飛ばしたところで攻撃機を撃退できるかは定かではない。
「航空攻撃が望めない現状で一体どうすれば…」
「少佐、ハンター6から再び入電です」
「聞かせよ」
途端、先程まで騒然としていた本部がシーンと静まり返った。彼らも決して無能ではない。警戒班と同行していたハンター6から無線が入った。それは即ち、警戒班が無線を使う余裕を何らかの形で得たと言うことだ。通信兵が無線を繋ぐ。
「ハンター6よりセントラルナーヴ。敵機による対地攻撃が中断、並びに、上空に友軍機と思われる航空機を確認。視認した部隊章は、道路と鷲」
「セントラルナーヴ了解。安全が確保され次第、再び連絡せよ。アウト」
「道路と、鷲か…」
「少佐…、このエンブレムは…」
「ああ、まさか上層部はここまで現場が見えていないとは。あるいは、目玉でも
くり抜かれたか…?アウトバーンになら、アムレトの防空網を突破できるかもしれないとは、微塵も考えなかったのか…?」
ヘイルは語気を荒げてそう言い放つ。実際、アムレトには有能な指揮官が配属されていた。それをごっそりと反乱軍に持って行かれたのだから、ヘイルの皮肉はひどく的を射たものだった。
ヘイルは静かに天を仰ぎ、そして骨ばった右手で両目を覆い隠す。その口は、不敵な笑みを浮かべていた。
「彼らは何のために死んでいった…?捨て駒とでも言うのなら、至極滑稽なお話だ」
次の瞬間、ヘイルの口元からは表情が消えていた。そして顔面を握りしめるようにしていた指からは次第に力が抜け、ただ顔に手を重ねているだけになる。
「いいだろう。ならば私は、贖罪に努めるとしよう。罪人は、知を得て初めて人として償えるのだ」
手を下ろしたヘイルの目は細まり、怪しく、それでいて鋭い眼光を帯びていた。その場にいた副官たちの息を呑む音が聞こえる。まず初めに、ヘイルは空との連携を試みた。
「無線をつなげ、道路と鷲の飛行隊へだ」
◆◇◆◇◆
アムレトの空は騒がしかった。
空の向こう側から熟れた柿の如き紅が広がる。しかし地上は暗く、地平線が稜線となって少し速い夜をもたらしていた。一日の終わり。とても穏やかだったはずだ。
「ミサイル接近、ブレイク!」
「戦闘機が多すぎるな。金遣いの荒い連中だぜ」
「気を抜くな、スタブ。被弾は許さん」
「へへっ言われるまでもねぇや」
TACネーム『スタブ』ことデイブは十分にミサイルを引き付け、操縦桿を引いた。
途端にスタブの体は座席へと強く押し込められる。機体が反り返り、しかし高速の飛翔体が空気を掴むのは容易くなく、ドリフトよろしく空を滑る。
やがて少しずつ進行方向が上がった機首を追い始めたところ。なおも体が重い何かに押し付けられるような感覚を覚え、しかしそれでもなお彼の手は動くことをやめない。
操縦桿から片手を離し、スイッチをはじく。瞬間、機体からは光球が幾つも煙を撒いて飛び出し、それを置いてけぼりにしてデイブの機体は光球から離れていった。
ミサイルが追ったのは…、空中に置かれた光球だった。
「よっしゃ、今だぜクロウ!」
「無論だな」
デイブの回避確認に短く返事を返しつつ、計器とキャノピーの外から目を離さないTACネーム『クロウ』ことリアム。
デイブにミサイルを放った敵機は、なおもデイブを追おうとしていた。『さっきは尻に上手く噛みつけていなかっただけだ』とでも思っているのだろう。無理もない。"追っている戦闘機の尾翼の紋章を見ていないのだから"。
言うが早いが、リアムは既に動いていた。
デイブと敵機が交戦している、その更に上空。まるでバク宙よろしく宙返り。しかし完全に回り切ることなく、逆さのままデイブを追う敵機を捕捉。その尾翼には道路と鷲の部隊章。
直進。その姿はまるで放たれた矢の如く、しかしぐんぐんとその速度を増していく。
「フッ…!!」
操縦桿を引くと機首が引き上がる。しかし高速の鉄の塊は多少姿勢を変えた程度で止まることはない。
動きに逆らった機体、そしてパイロットには力がかかる。しかし、やはりアウトバーンの隊長は、当然のようにその手を止めることは無かった。
デイブと敵機の間に機体を滑り込ませ、レティクルに敵機を捕捉。
「ガンズ!ガンズ!ガンズ!」
トリガーを引くと、主翼の付け根から飛び出した無数の銃弾が、敵機に余すところなく浴びせられていく。
ガンッと質量が鉄に衝突する音、キィンと表面に当たって跳弾する音、それらが絶え間なく響き、鉄の体が抉り取られて行く様を告げる。
光を照り返す銀の表面を歪め、力で以てこじ開けられた穴が開き、板の隙間に潜り込んでは、鉄くずが舞い上がって空に置いていかれる。
主翼、胴体、エンジン、尾翼、余すところなく銃弾が振り注ぐ。エンジンから火が噴き出て、主翼は皮一枚で繋がっていたが、次の瞬間にはもう消えていた。
なおも銃弾は浴びせられる。そして機体が轟音と共に爆炎に飲まれた。
「一機撃墜」
それは次の瞬間にはもう黒い鉄くずになって、煙を吹きながら落ちていった。
「アウトバーン1、グッドキル!」
「また一機。こりゃなかなか幸先いいな、クロウ!」
「油断するなスタブ、敵はまだ多い。それに、懐に何を隠しているかわからないからな」
キャノピーの先、眼窩に横たわるのは広大な農地、そして樹木。その先には巨大な城壁、広大な土手が敷かれた城塞。土手を重々しい装備を持って駆ける兵士、一列に並んだジープに戦車、城壁の上には砲。
別に珍しくもない。中世の時代に建てられた要塞の多くは平らで広い土手を有し、中央に向かうほど高く地形的有利を持つため、現代要塞として回収されることも珍しくはなかった。
ただ一点、城壁の見張り台に並ぶ巨大な、それでいて壮観な城に似つかわしくない、得体の知れない柱の存在がどうも度し難いが。それに、一体どうしたものか、城の影から突然姿を現す敵航空機の存在も…。妙な胸騒ぎがする。そしてきな臭い。