DEAF:PROLOGUE −THE EARLESS GHOST− 作:Str4y_Sh3ep
話題は先程までと打って変わって、若手2人の入隊当時の話となる。
「なあ、確かニックスとミアの嬢ちゃんが軍に入ったのは、ウァルキアとレーベランドが合同訓練をやんなくなってからだったよな?」
「ええ、その頃には正規軍は解体されてましたから」
「やっと軍人になって空を飛べると思ったところでの突然の雇われ呼ばわりだったっすからね。割と真面目にキツかったっすよ」
心底うんざりしたような声色でそう内心を吐露するニックス。それもそうだろう、せっかく正規軍に志願したのに、金を対価に戦力として従軍するような者達とひとくくりにされるのは至極不本意なはずだ。
「ほんと、理不尽な話だよな。お偉方は一体何考えてんだか。まあそんじゃ、うちの若手2人はキャバルリーとの戦闘経験はないわけだ」
「そういや、まだ正規軍があった頃には合同演習でキャバルリーが敵役をやったりしてたんっすけ?」
「ああ、バカみてぇに強かったぜ。まさに歴戦の騎兵って感じだったな。まあそん時からすでにリアムも大概だったが。そういやリアムの『クロウ』ってTACネームも合同訓練の時につけられたんだぜ?」
「おいデイブ」
「まあまあ、そうかっかすんなよ隊長殿。…当時はアイツもだいぶ若くてな。だがキャバルリーを追い詰める時と言やぁまさにスッポンの如くだったな、一回尻に張りつきゃ離れやしねぇ。なかなか振り切れなくて焦るキャバルリーの動きにゃ笑いが止まらんかったぜ」
「…なんか例えが例えすぎてあんまり凄そうに思えないっすね」
「すっぽんを悪く言うつもりはありませんけど、流石に隊長をすっぽん呼ばわりは…」
なんだか武勇伝らしくなさげな例えを引っ張り出したデイブになぜだかリアムに対して申し訳なさを感じた2人。
口では否定しつつも、確かに左右・後方への攻撃能力を持たない戦闘機同士の戦闘において、敵の後ろについたものが有利なのは間違いない。尻に噛み付いて離さないという意味ではある意味最もしっくりくる例えなのではないかとも思う2人であった。
「…おいデイブ」
「わぁったよ。こっからはガチで行くぜ」
「違うデイブ、話題を変えてくれーー」
リアムの静止を例えに対する不本意を示すものだと解釈したデイブ。再び話を続けるデイブに、もはや止まることも知らぬかと諦めたリアムはそっと無線を閉じた。「ありゃりゃ…」と言いつつも結局口を止めないあたりデイブも結構な畜生である。
「ヤツのドッグファイトの腕と言やぁ、そうだな…、まさに獲物を追う獅子の如くだ。そりゃああんなもんに追われちゃ誰だってビビるってもんだろうさ。挙句焦った上官がキャバルリー三機対一機の訓練まで始めた。
俺たちも固唾を飲んで見守ったさ、実際苦虫を咬まされた場面もあったらしいが、まるで網を掻い潜るように寸分の違いなく攻撃を掻い潜り、見事勝利してみせた」
「キャバルリー三機相手に一機でっすか!?なんかもうわけわかんないや…」
「ああ、しかもヘルメットを外せばパイロットはまだピチピチの若造と来た。さすがの俺も自信なくしたな…あれは」
「隊長の過去…しかしなぜ若い頃からそこまでの実力を?」
「そうか、まああんまり大っぴらにはされなかったからな。アイツはなーー」
ミアがなかなかいいところに突っ込んだので、応えてやろうとしたところで、いつの間にやら無線を再び繋いでいたリアムから「デイブ…」と止めの一言が挟まる。
やはりリアムのことだから、隊長が味方との連絡を怠るのは例え巡航中でもまずいと思ったのか、再びチャンネルを繋いでいたようだ。
「悪ぃ、一旦昔話はここで打ち止めとしよう。懐の広い隊長様もさすがにこれ以上は許しちゃくれなさそうだ。まあいいさ、すぐにわかる」
さすがに本人の意向もあるので、デイブ談・リアムの武勇伝はここで終わりとなった。
「…あれ、結局隊長のTACネームの由来は?」
「ニックス、後で話がある」
「なんでぇ!?」
どうやらリアムの過去は本人にとってもかなりの黒歴史となっていたらしく、リアムの様子を窺いつつ地雷原の中を器用に掻い潜ってみせていたデイブだった。結果、最後に巻き添え同然にニックスが地雷を踏むこととなってしまったようだ。
「しかし先程は勝ったという事実に思わず引っ張られてしまいましたが、よくよく考えれば隊長でも3機揃えば苦戦を強いられるレベルということですよね…」
「バザード、そこはあまり心配していない。あの時の俺は1人だったが、今俺たちは1人じゃない。キャバルリー相手でも十分に生き残れるはずだ」
「リアムが言うんなら間違いねぇんだろうな。ニックス、ミア、若手の底力の見せ所だ。隊長の期待に応えてやろうぜ2人とも!」
「だそうっすよミア?」
「う…うるさい。あなたもやるのよニックス。しくじったら、許さないから」
「ハハハッ!もちろんお供するっすよ。アウトバーンの新星の底力、見せてやろうじゃないっすか!」
陽がすでに先ほどよりかなり落ちて、地平線の向こうは朱に染まっていた。鮮烈な赤の陽光が菱形に並ぶ四機のF-15を照らす。まるで滑空する鶴のような流麗たる鋼鉄の体はどこか心細くて、だけれど確かに生にしがみつき、羽ばたいて行くのだという確かな熱情を滲ませて、広い空を悠々と突き進んでいった。
そこへ戦闘機パイロット4人の会話の輪から外れて、AWACS機に共に搭乗している他の士官と談話しつつ、情報整理を行なっていたジェーンからいよいよ無線が入る。
「AWACSエンジェルラダーからアウトバーン各機、そろそろ作戦空域に入る。準備しておくんだね」
「アウトバーン各機、タクティカルフォーメーション」
「ウィルコ!」
リアムの指示を皮切りに、散開。アウトバーン隊決死の作戦が、いよいよ幕を開ける。気象条件、良好。アウトバーン隊、エンゲージ(交戦開始)。