DEAF:PROLOGUE −THE EARLESS GHOST−   作:Str4y_Sh3ep

9 / 10
9.赤光

「ハンター6よりセントラルナーヴ。ポイントアルファへ到達した」

 

「セントラルナーヴ了解。ハンターはクリアリングを続行せよ。アウト」

 

 ハンター小隊からの無線が入ったのは、さらに4分の時間が経過した後だった。先程から沈黙しつつも動揺を隠せていなかった本部の面々は、通信に一心に聞き入った。その中でヘイルは無線が切れるなり地図を更新し、開口一番にこう言い放った。

 

「ヒューズ、ニードルの進軍を開始せよ」

 

「コピー!…セントラルナーヴよりヒューズ、およびニードル。進軍を開始せよ」

 

「ニードル了解、進軍を開始する」

 

「ヒューズ了解、前進する」

 

 ヘイルの言葉に即座に通信兵が反応し、作業班、警戒班両班へ指示を伝達する。両班の返答があってから、間も無く外から大地を踏み締める、幾重にも折り重なった足音が聞こえてきた。いよいよ本格的な作戦開始だと、本部の中にも先ほどとはまた別種の緊張が走った。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 ハンター小隊が本部へ無線を入れてからしばらく。太陽は更に西へ傾き、黄金色だった空は朱に染まり、森はいよいよ不穏さを隠さなくなっていた。

 

 小隊の面々はなおも寸分違わぬ足取りで歩を進めていく。もはやその足元も黒ずみ始め、草の一本一本の輪郭を捉えるのが難しくなってきた。

 

 しかし、微かに頬を掠めていた風の感触が無くなったことに彼らは気づいた。自身の足が草を踏み締める音、空を飛ぶカラスの低い鳴き声。それまで風に紛れていたあらゆる音が、彼らの耳に届く。

 

 視界は通らない分、今度は聞こえる全ての音をできる限り拾おうとする面々。耳を澄ませば聞こえてくる。虫の鳴き声、闊歩する動物の音、枝にとまる鳥のさえずり。鼓膜を揺らし、骨を震わせ、その場の音という音が情報として認められる。

 

 ーーその中に、一際固く、無機質な音があった。

 

 マーサーを始めとする先頭の隊員が、足を止めたのを合図にするように、今度は一切の合図もなしに全員が足を止めた。しかし銃を構えることはせず、一度マーサーを注視する。

 

 しばらくして、マーサーは左手でカービンのハンドガードを持つ。右手握り拳を敵の方向に向けて突き出し、地面に向けるように親指を伸ばす。そのまま人差し指と中指を伸ばした。異常あり(敵を発見)のハンドシグナル。人数は3人だ。ハンドシグナルを確認した各員は音を最小限に素早く近場の遮蔽物に身を隠し、あるいは草むらに伏せて備えた。

 

 同じく身を隠したマーサーと隊員二人はそこから横に傾くように体を出し、銃床を肩に乗せて光学照準器を覗き込む。そして赤く発光するレティクルを標的に重ねた。

 

 照準を合わせたマーサーは左手でハンドガードを握りつつ、右手を離す。そしてカービンの上あたりに手を持っていき、指を3本立てる。

 

3…2…1…

 

 すべての指を折り曲げると、そのまま人差し指と親指を伸ばし…。

 

 指鉄砲の形にして前方へ向けた。射撃許可、しかし彼らはなおも引き金を引かない。彼らが引き金を引く時、それは狩人が仕事を果たす時だ。

 

 ハンター6が右手を引き金に掛け、引き絞った。瞬間、銃口から爆炎が漏れ、銃口から高速の弾丸が飛び出す。銃声が三重に鳴り響き、間も無くパスッと弾着音が聞こえた。

 

 間も無く、その場を静寂が支配した。未だに他の隊員はカービンを構えて警戒を解かない。その中でマーサーを含む射撃を行った3人が静かに敵がいた位置に接近し、その姿を認めた。それは動かなかった。

 

 なおもマーサーは声を出すことなく、今度は右腕を横に突き出し、親指を上に伸ばすようにして後続の隊員に見せた。状況、クリア。敵3人の同時排除に成功した。しかし油断はできない。

 

 マーサー含め、射撃を行った3人は続いて前方に進み、前方を警戒。その後ろから潜伏していた3人が姿を現し、敵兵だったそれを近場の草が高い場所へ引きずって隠した。その間も他の隊員たちは周囲の警戒を怠らない。

 

 敵がいたということは、ここより先は敵によって手が加えられている可能性が高くなるということだからだ。熟練の狩人達がこの結論に辿り着くのは極めて自然だった。

 

 なおも森林内の安全確保のため前進するハンター小隊。時間にして間も無く出発から30分というところ。ついに彼らの視界は開け、赤くなった空。身の丈ほどの段差。その上に積まれた石塁が見えてきた。

 

「セントラルナーヴ、こちらハンター6。ポイント・ブラボー付近までクリア。道中異常を複数確認した。データリンクに詳細情報を転送する」

 

「セントラルナーヴ了解。データ受信を確認。ハンターはこれより側方の警戒にあたれ。なお警戒班と合流次第、ハンターは警戒班と行動を共にせよ。アウト」

 

 やはりハンター小隊の踏んだ通り、森林内には地雷をはじめとして敵の罠が仕掛けられていた。無事彼らにできる仕事を完遂したハンター小隊は、これより次なる仕事に取り掛かる。

 

「各員無線封鎖解除。これより、ハンター1とハンター2は右翼、ハンター3とハンター4は左翼の警戒を行う。俺は左翼に加わって無線にて指揮を執る」

 

 言うが早いが、マーサーの指示を受けて右翼と左翼に分かれ、それぞれヒューズの進路の外縁にはけるように移動した。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 その後、作業班と警戒班が遅れて到着し、作業班は爆破作業を開始。警戒班はその周囲への警戒を強めた。

 

 警戒班と共に警戒を行なっていたマーサー。日は地平線の下に沈み、群青の空に棚引く雲だけが唯一、赤く見えた。もう地上はかろうじて物体の影が捉えられる程度で、ほぼほぼ夜と変わりなかった。それに合わせ、光学照準器のダイヤルを回してレティクルの明るさを落とす。

 

 警戒に当たる間も、マーサー達の耳には工兵の作業する音が絶えず届いた。ある程度距離があるので微かだが、それでも足場を組む音、金属音は甲高くよく響く。

 

 それがハンター達の緊張をより一層強いものとした。見つかれば終わり。そう、乱戦の渦中でなく、静寂の支配した森の中での先行爆破など、本来ならば無謀にも等しい。

 

 それでも、成功させなければならない。攻める側であるにも関わらず背水の陣に追い込まれていると言うのだから、皮肉もいいところだ。

 

 今度のハンター小隊は、常にカービンの銃口を視線の先に送っていた。敵がいれば撃つ。出来なければ、不安に食われるだけだからだ。今度は対して動くこともなく、ただひたすらに森の奥を見つめ続けた。

 

 ふとカービン銃を懐に抱え、腕時計を確認する。定時連絡の時間だ。無線封鎖は解除されているので、定時連絡を欠かすわけにはいかない。

 

「ハンター6よりセントラルナーヴへ定時連絡。現在ポイント・ブラボー付近。周辺に異常ーー」

 

 途端、凄まじい風切り音がマーサーの耳を打った。続いてビリビリと鼓膜を引き裂くような爆発音が腹の底に低く響き、作業班のいるあたりが真っ赤に燃え、黒い煙が上がり始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。