Another Alternative. その一言で世界は変わる
ワタクシは自分がミネに恋をしているのを知りました。
中等部最後のクリスマス、友達みんなでパーティーをしようと準備をしていたこのタイミングで。
「……フミ、どうしたのですか?」
固まってしまったワタクシの顔をミネが除いてきます。
あどけなくも美しい、彼女の美貌。
この恋は、秘さねばなりません。
そんな事は分かっていますわ。
同性への恋心。それは例え世間が寛容になったとしても人の心が必ずしも受け入れてくれるとは限りません。
ワタクシの友人達が認めてくれても、他の方々がそうだとは限りませんし、なによりミネがちゃんとワタクシの気持ちに答えてくれる保証などありません。
むしろワタクシが気持ちを伝えてしまえば困惑し、これまでの親友としての関係性が壊れてしまうのが関の山です。
だからこの気持ちはなかったことにして、これまで通り彼女の隣に友としている、それが賢い選択なのは間違いありません。
――でも、ワタクシはそれで本当に耐えられるのでしょうか?
この気持ちをなかったことに……「嘘」にできるのでしょうか?
正直、想像するだけで嫌です。辛いです。
やろうと思えばできるのでしょうけれど、今その未来を考えてみたら、この胸の中に湧いてきた感情をワタクシは抑える事はできないようです。
「……ミネ。好きです」
気がついたら、ワタクシの口からそんな言葉がこぼれていました。
「ワタクシは……あなたと結ばれたい、どうやらそんな風に思っていたみたいですわ」
「…………」
――……やってしまいましたわ。
完全に勢いで告白してしまいました。
ミネが完全に固まっております。
なんて……なんて軽率な事をしてしまったんですのワタクシ!? あまりにもその場の勢いだけで口にしてしまいましたわ……。
「……すみません」
ああ、ほら……やはり受け入れてもらえる訳がありません。
突然同性の友達から恋の告白をされてしまうなど、頷ける訳がありません。
本当にワタクシ、とんでもない事をしてしまいましたわ……。
「ご……ごめんなさいまし……、こんな日にワタクシ、なんてことを……」
「い、いえ違うのです! 待ってください!」
俯いて泣きそうになったワタクシ。
ですがそんなワタクシの肩をミネがガッと掴んで来ました。
「確かに、凄く驚きましたし……正直に言うと、今素直にその言葉に頷けません……」
「や、やっぱり……!」
「でっ、でもっ! その……嫌、という訳でも、ないのです……」
「……え?」
今度はワタクシが驚き顔を上げました。
そこには、顔を真っ赤にしてわずかに目を逸らしている、そんな愛らしいミネの顔がありました。
「私はその、そういう事は身近に考えたことがなく……ですけど、あなたにそういった目で見られていた事に、思ったよりも嫌悪感がなくて……なので、ゆっくりと考えさせて欲しいんです。私があなたの事をそうした目で見る事ができるのかを……確かめさせてください」
小声で、目を泳がせながら、しかし最後にはワタクシの方をちゃんと見て、でもまだ躊躇いがあるのかちょっとだけ顔を俯かせているせいで上目遣いで言うミネ。
もう、とんでもなく可愛くて、今すぐ抱きしめたいぐらいでしたけどもこれはさすがにこらえました。
ここで抱きしめたらもう絶対ノーを叩きつけられてしまいますわ……!
鋼の精神です、ワタクシ……!
「……わかりました。いつまでもあなたの答えを、待たせていただきます」
ワタクシは微笑み彼女に言いました。
そうしてワタクシはちょっと顔を合わせづらくなりましたけれども、でも決して辛いわけではない、そんな空気でクリスマスパーティーの準備を続けました。
それから、しばらくの時が流れて。本当に、色んな事があって、そして――
*****
「はい、それではみなさん。『第六回、フミ様とミネいい加減もどかしいからさっさとやる事やらせるぞ会議』を始めますよ。司会進行はいつも通り『シスターフッドの記録係、
「「「わーっ!」」」
「……あの」
何もないときはみんなが集まる場になっているワタクシの救護室にてテーブルを囲んだ状態で、茶髪セミロングが素敵なクレイの言葉に歓声が上がります。
皆さん……凄い盛り上がってますわね……。
「参加者は『ティーパーティー行政官、
「今日も色々と提案させてもらいますわぁ」
「あのだから……」
ウェーブの銀髪をサラァ……とかき分けながら優雅に言うトメ。
いやでもあのその……。
「『正義実現委員会分隊長の
「全力で案を出すね!」
「今回こそはどうにかしたいよね」
「いやだから待ってくださいまし……」
姫カット黒髪がキュートなルマは力強く、緑髪ショートがクールなタマヨはちょっとダウナー目に同意しています。
当たり前のように言ってますけどあなたたち……。
「そして今回は更に救護騎士団副団長の風我フミさんと団長の蒼森ミネさん、そして【大人の
「だからなんですのこの集まりぃ!?!? なんで当人の目の前でおっぱじめてんですのぉ!?!?」
ワタクシ達いつもの六人の集まりにサクラコさん、そして「外の世界から来て様々な問題を解決してくださっている大人の女性である先生」まで呼ばれて何事ですの? と思ったらこれで……何も理解ができてないんですけれど!?
「そもそもなんですか? その私とフミにえっと……や……や……」
「『やる事やらせるぞ会議』だよミネ。そういう初心なところが行くとこまで行けない理由の一つだよね。もう二人とも
「凄いニコニコとした顔で言ってますねクレイさん……さすがです……」
彼女と共に三年間歩んできたサクラコさんが凄い苦い顔で言ってますね……。
その「さすが」がどういった経験から言ってるのかは聞かないでおきましょう、多分藪蛇ですから。
「あのー……まあなんとなく事情は察したんだけど、なんで私とサクラコまで……?」
と、そこで先生が苦笑いしながら恐る恐る手を上げて聞きました。
あんなでも見た目がむちゃくちゃいいから絵になり具合が凄いですわねこの人。
切れ長の目が凛々しい整った顔立ちに前髪が長い黒髪シニヨン、背も胸も大きくてこんな人が連邦生徒会のコート着てるからまぁできる大人の女の人だなぁとだいたいの初対面の生徒は思ったでしょうね。
正直ワタクシもミネというものがありながら最初ちょっとそのメロさにクラっと来ました。
だと言うのにそれをプラマイゼロにしかねないぐらいには中身がそれなりにキショいんですけどもこの人。
ヒナタさんと汗だくで個室から出てきたなんて話を聞いたときは「ついにやりましたわね」とミネ流の『救護』をしようかと思ったくらいには普段アレな人ですけども。
「あ、サクラコ様に関してはいい感じに世間知らずに対するカンフル剤になるかなーって。そして先生はちょうどいたのでついでです」
「私ついででこんな話し合いに呼ばれたの!?」
「私の扱いが酷くありませんかクレイ!?」
「……お二人とも覚悟を決めてくださいな。ああなったときのクレイはワタクシ達の中で一番したたかになりますから」
なんというか、小学校の頃と比べると本当に強くなりましたわよねこの子……。
その理由はいつだか「フミ様や皆さんと肩を並べても恥ずかしくないくらいに強くなりたいんです」って話してくれてましたからそこを考えると胸が熱くなるのですれれども、それはそれとしてこうなったときの彼女は止められないから怖いですわ……。
「まあ乗りかかった船だし仕方ないか……しかし、あれだね」
「ん? どうしました先生?」
なんだか訝しい顔をして皆さんの顔をまじまじと見始めた先生にミネが聞きました。
すると彼女はなんだか複雑そうにして言いました。
「いや、みんなとはそれなりに付き合ってきたけどこうした場で集まるとなんだか初めてみんなの名前聞いた気がしてきてね……不思議だね……」
「なるほど、不思議ですね……」
「不思議ですわね……」
言われてみると十年程お友達をしてきたワタクシですらそんな気がしてきたので摩訶不思議ですわね。
まあそんな事はどうでもいいのです。それよりもこの奇っ怪な集まりです。
「あの、ところで……皆さん、こんな集まりをこれまで五回もしているんですの?」
「そうよぉ。だってあなた達、確か一年生の冬頃に付き合い始めたのに未だに清らか通り越して初心過ぎる感じゃないのぉ。そんなじれったいのをずっと横で見せられてきたら……ねぇ?」
「ねぇ? じゃないんですけど」
何さも当然のように言ってるんですかねこのティーパーティー女は。セイアさんと長く付き合ってるせいかこの三年でこういうときのお口わるわるっぷりがだいぶパワーアップしてると思うんですのトメ。これはワタクシ達長年のお友達じゃないと伝わらない話なのは間違いないですけれども。
「いやでも真面目な話そういう下世話な話を抜いてももどかしいんですよフミ様とミネ。お二人から『付き合う事になりました』って言われたときは正直言ってやっぱこんな身近で同性カップルの誕生にびっくりしましたし戸惑いましたけど、手を繋いでデートするのに三ヶ月かかってるの見るともうそういうのどうでもいいなって」
「もどかしさで見方が変わったんですの!?」
もちろん、これはルマがあえて茶化した軽い言い方をしているのは理解しております。
彼女がワタクシ達の関係に対して色々と思うところはあったのは想像に難くありませんし、簡単に飲み込めていなかった所は節々に見えた過去がありました。
でも今はこうしてこんなヘンテコな会議を開いて参加しているぐらいには受容してくれていますから、ワタクシも特にそこは言及せずに軽い返答をしました。
これもまた一つの「トリニティ流の会話術」とも言えますわね。
腹の底を隠した会話も、悪いものばかりじゃありませんわ。
「……ともかく、私達はなんだかんだで二人には幸せになって欲しいから。大変な道だろうと選んだからには背中を押してあげるのが友達なんだと思うし」
「……タマヨ」
彼女の言葉にミネが凄い温かい顔になっています。
その気持ち、ワタクシも分かります。
タマヨはさすがにウイと比べたらしっかり外に出ている方ですけれど、それでも籠りがちで積極的に自分の意志を表明しない子でもありますから、そんな彼女からこんな事を言われたら長年友人をやってる身からすると感慨深いですわ。
「……も、もうやめてよその顔……だったら、さっさと仲をもっと進展させてよね……」
さすがに恥ずかしくなったのか、タマヨは本を取り出して赤くなっている顔を隠しました。うーん、可愛いですわ。
「ところで二人って実際今はどれくらいの段階なの? 私今回が初めての参加だから状況を知りたいんだけど」
と、そこで先生が言ってきました。
流石ですわね先生、ただの巻き込まれなのにすでにこの状況に完全に適応しております。
なんだか表情がすでにノリノリ側になっている気がしますが。
「なるほど、確かに情報の共有は必要ですね。ではフミ様、ご説明お願いします」
「えっワタクシが!?」
突然振られたものだからびっくりしました。
ですがクレイは変わらずニコニコですわ。怖いですわ。
「ええ、もしかしたら私達も知らない段階にまで進んでいるのかもしれませんし、ご本人達の口で説明してもらうのが一番かと」
「あ、はい……分かりましたわ……。…………えっと、あの、その……」
う、こうしてみんなの中で説明するとなるとさすがに恥ずかしいですわね……。
あくまでワタクシからの説明ではあるのですが隣でミネも顔を赤くしてモジモジとしております。
うーん、素敵……じゃなかったですわ。もう覚悟を決めて言ってしまいましょう。
「あれですね……その、先日、二人でデートしたときに、ミネの指にシュークリームのクリームがはみ出してついてしまったので、それを取るという流れで彼女の指元に軽くキスを……きゃっ」
「も、もう思い出させないでください……私だって恥ずかしかったんですから……!」
なかなかあのときは大胆に出たと思うのですわワタクシ。
ミネはこういう耐性がないから本当に可愛くて、あのときの様子を思い出すだけでときめいてしまいますわね。
「…………」
……って、なんだか先生がぎこちない顔をしていますわね。
なんなら他の皆様も似たような感じですわ。
「えーっと……ねえクレイ、二人って付き合って二年くらい経つんだよね?」
「……はい、一年生の頃の冬頃に報告を受けたので」
「そっかぁ……うーん、みんなの気持ち分かったかも」
「え!? なんです!? 先生そっち側立つんですか!?」
適応していたとはいえなんだかんだで巻き込まれ側だったと思うんですけどこの人!
急にそのちょっと呆れた視線を向け出してきたのなんなんですの!?
「まあね……そういえばクレイって付き合ってる男の人いるって聞くけど、まあ交際して二年ぐらいの頃にはその……だよね?」
「そうですね、半年ぐらいのときにはもうしました」
「えっ早くない!? あのときってまだ私達って……」
「タマヨ、そういうもんだよ」
「なんか凄ぉい分かった風に言ってますけどルマも別に経験あるわけじゃないですよねぇ?」
「…………? みなさん、なんの話をしているのですか?」
先生を皮切りに盛り上がるクレイ、タマヨ、ルマにトメ。
そんな彼女らにミネがとことん不思議な顔つきで聞いていました。
一方で、ワタクシは完全に把握をしていました。それでまあミネが聞いてしまうのも分かっていましたので、ワタクシしばらく地蔵になろうと思いますわ。
下手な事言ったら絶対自爆しますわよこんなの。
「あ、ごめんねミネ。セックスの話ね」
「ぶはっ!?!?! セ、セック……!?」
あーもう言わんこっちゃないですわ。
クレイのストレートな物言いにミネがもうリンゴのように赤くなってしまっていますわね。
「あぁ……まあですよね……」
ただ、その横でサクラコさんが思いの外落ち着いて苦笑しているのはちょっと驚きでした。てっきりミネと似たようなリアクションになると思っていたので。
あれ? もしかしてサクラコさんってわりと知識豊富?
……やっぱり怖いですわねシスターフッドは。
「というかそんなリアクションするってこの会議のお題目の『やること』ってなんだと思ってたの?」
「そ、それはてっきり唇を重ね合わせる事かと……」
「そんなわけないじゃない。普段は結構女子力高いのにこの手の話になると急にサクラコ様レベルに箱入りになるよねミネって」
「何故急にこちらを刺して来たのですかクレイ?」
「と、とにかく! せ……性行為など、そっ、そんな破廉恥な……! 不健全です!」
ミネが勢いで叫ぶように言いました。ま、ミネならそう言いますわよね。
「ミネ、それは違うよ。確かにそうした猥談はみんな好き好んでする話だし今回は強引な流れもあるけど……でも、これは結構真面目な話でもあるんだ」
と、そこで先生が少しテーブルに身を乗り出してミネに向き合い言いました。
場の空気が一気に締まったのを感じます。
彼女の「大人」としての顔がそこにはありました。
「人には人のペースがあるのは当然だけど、でも性行為に関しては女性同士と言えど相手に本気で向き合うのならそう頭ごなしには否定はしちゃ駄目だよ。……フミ、君はミネが好きなんだよね? それはあくまで人としてだけ、ではないよね」
先生からバトンを渡されたのを感じました。
……彼女は、察してくれたのでしょう。
ワタクシがあえて遠回りをして、付き合ってもなお積極的に関係を進めて来なかった事に。
そしてきっと、ここで言わなければ一生後悔する、関係が破綻するぞと言外にワタクシに伝えてきてくれているのです。
本当に、普段はアレなのにこういうときだけカッコいいんですから、この人は。
「……そうですわね。ワタクシは、ミネを人としてではなく……女性として好きなのです。体を重ね合わせたい、そう確かに思っているのですわ」
「フミ……では、今までのは、もしかして……」
「オホホッ……言ったではありませんか。『いつまでもあなたの答えを、待たせていただきます』と。確かにあの時、あなたはワタクシの想いを受け入れて恋人になってくれました。でもあなたはあくまで同性愛を受け入れてくれただけで、元から同性愛者ではありません。だというのに、そこからすぐさま性的な関係を求めるのは……さすがに性急過ぎますから」
ミネに告白をしたのは間違いなくその場の勢い、考えなしの行動の結果でそれが逆に運良くなっただけです。
だからこそワタクシはこの奇跡を大事にするために、あくまで清らかな関係を維持し続けて来たのですわ。
彼女とずっと手を取り合って人生を歩みたい、だからこそ、今はとにかくゆっくり進もうと思ったのです。
ただ、そのせいで手を握る事一つにも随分と時間をかけてしまう事になりましたが。
「……すみません、フミ。私は、だというのに先ほどは考えなしにあんな言葉を」
「いいんですのよ別に。それに関しては焦ってこんな会議にワタクシを呼んだ皆様方が全面的に悪いですから。ねー、クレイ、ルマ、タマヨ。あとついでにトメ。ねー」
「「「うぐっ……!?」」」
「私はついでですのねぇ……まぁ、確かになんとなくは察してましたけれども私ぃ……」
「え!? じゃあなんで言ってくれなかったの!?」
「暴走した貴方達、特に貴方が止められないのはショットガンで撃たれた私がよぉく理解しておりますのでぇ」
「うぐぐっ……!?」
「はぁ……とはいえ私も同罪なのは変わりませんけどねぇ」
物凄く反省した顔になる三人と、困り顔になるトメ。
ワタクシはそんな彼女らに「……もう」と軽くため息をつき、でも少し困った笑顔にはなってしまいましたが彼女らに笑いかけました。
「あなた方の気持ちはとても嬉しいですわ。ワタクシの幸せを願いそうしてくれたのは十二分に伝わってきますの。でもちょっと焦り過ぎちゃいましたわね。昔言ったでしょう? 淑女たるもの、冷静さと優雅さを忘れるな、と……。あなた達の気持ちには心から感謝はしますが、今回は些か早計であったと言わざるをえませんわね」
「「「……申し訳ありませんでしたフミ様っ!」」」
三人声を合わせて勢い良く頭を下げる姿にまた苦笑してしまいます。
まったく、立派になりましましたがこういうところはまだまだワタクシが見てないとだめですわね、この子達。
「でも、悪いところはフミにもあると思うな私は。せっかくミネがパートナーになってくれたのに、君はミネ相手にそういった大事な相談をできていなかった。……怖かったのは分かる。相手の気持ちを尊重してあげたいというのもとても大事な考えだ。でもね、本当に一緒に生きたいのなら、時にはラインを踏み越えるのも必要だと、私は思うんだよね」
優しく微笑みながらも軽く腕を組みながら軽く垂れる髪をかきあげる彼女。
あまりにも絵になっているその姿とお言葉に、ミネがいなかったら危なかったかも、と思うくらいにはクラリとさせられてしまいましたわ。
まったく、油断のならない大人ですわね。
「……ミネ。この後、二人でしっかりと話し合いましょう。お互い、本音で」
「ええ、そうですね……よろしくお願いしますね、フミ」
ワタクシ達はテーブルの上でそっと手を重ね合わせて笑い合いました。
意図して停滞させていたようで、やっぱり本当にもどかしくてじれったい関係だったんですのね、ワタクシ達。
やっとそれが前に進んだのを感じました。
「あ、そうそう! もしするってなったらちゃんと事前に知識を入れて準備はしておこうね? 片方がちゃんとリードできる経験者ならともかく両方未経験だと失敗する事も多いからね! そうだねやっぱ大事にしたい点としてはお互いの気持ちいい――」
「――ごめんなさい気持ちはとてもありがたいのですがそれはそれとしてキッショいですわ」
「急にノリノリで具体的な事を言われるとさすがに引きますよ先生……」
「あの、私が言う事ではないのかもしれませんが、せめてもう少しタイミングというものを考えた方が良かったのではと思います……」
ワタクシ、ミネ、サクラコさんが立て続けに言いました。
それはもう苦い顔のトーンが低い声で。
「あっあっあっ」
うーん、この先生壊れちゃいましたわね。
ほんとこの人のことどう評価すればいいか分からないですわワタクシ……。
*****
皆様が帰った後の救護室。
日も暮れた中で、ワタクシとミネだけが鍵のかかったこの部屋に残りました。
二人で、本音で語らうためです。
「…………」
「…………」
ただそうとは決めたもののいざ話すとなるとどう切り出そうかとお互い困りモジモジとしてしまいます。
しっかりとお互いを見るのもなんだか恥ずかしくなってメインの照明は消して普段使いしているデスクの上に置いたデスクライトだけに頼る救護室で、ワタクシもミネもただそうしながら黙って椅子に座っているだけ。
なんともまあ、本当に初心ですわね、これでは。
「あの……フミは、したいのですよね? 私と……」
とか思ってたら、さっそくミネがぶっこんで来ましたわ~。
「……え、ええ。はい。本音を言うと、したいですわ」
バレているとは言えやはり一対一でこうして言うのは恥ずかしさが勝ってしまいます。
ワタクシ何言ってるんですの? みたいな気持ちにもなりますわ。
「でも、我慢していたんですよね。私の事を思って」
「ええ……あのときは本当にただのその場の勢いで口にしてしまって、結果的にはそれが良かったですけれども、だからと言ってすべてがうまくいくなんて思えませんでしたから。実際、交際を始めたときのルマなどは、ワタクシ達が思っていたよりも険しい反応をしていましたし」
「……そうですね。でも私は、あなたが勢いで行動してくれて良かったと思っています。秘密にした未来がどうなったかなんて何も分かりませんけど、でも今の私は、あなたと交際できてよかったと思っていますから」
「そうですか……良かった」
ワタクシはつい顔が緩んでしまいました。
この気持ちだけでいい、今まではそう思えたし、実際そうしてきました。
……でも。
「ミネがそんな風に言ってくれて、ワタクシはとても幸せ一杯ですわ。だからこそ、そんな貴方と一つになりたい……そう思えるのです。ワタクシは結局、そういった性欲を抱けるのは同性だけですから」
恋と性が不可分なのを改めて思い知った気分です。
ワタクシはミネがミネだから好きなんだと同時に、彼女が女性だから好きになったのですわ。
「でも、あのときも言いましたがワタクシは今すぐヤらせろなんて言いませんわよ。大丈夫ですわ! これまでも待ったのですから、まだまだ全然余裕で待てますのよ! 救護騎士団の副団長としての鋼の精神性ならこれぐらい余裕ですわよ~! オーッホッホッホ!」
「……分かりました」
と、高らかに宣言したら逆にとても落ち着いた様子でミネがコクリと深く頷いて言いました。
一体、何が分かったと言うのでしょうか――
――などと疑問に思っていたら、目の前でミネが制服を脱ぎ始めたではありませんか!?
「ミッ、ミネ!? な、何をしておられるので!?」
「この蒼森ミネ……覚悟を決めました! これより、フミに抱かれましょう!」
「ま、ままま待ってくださいまし! 確かにあなたとその、交わりたいですけれどそんな義務のような覚悟でされましても!」
本当に思い込んだらブレーキのない暴走車ですわねこの子は!?
「……いいえ、そういう訳ではありません。まあその、確かに我ながら気負いすぎた言い方はしましたが……でも、その……考えてみたんです」
でも、服を脱ごうとする手を止めた意外にも落ち着いた様子で言いました。
ワタクシ達はまたお互い向き合って、その中でミネは言ってくれます。
「私はあなたに告白されたあの日から、一年近くじっくりと考えてあなたと交際する事を決めました。そして私とあなたが恋人同士になってからさらにこの二年間の日々を振り返ってみると、えっと……悪くないと、思えたのです。あなたと……そうした事をするのが。想像してみると………………いいな、って」
最後に、すごい小声でミネは言いました。
瞳をある程度泳がせた後にまたこちらを見てそう言ってくれる姿は、ワタクシが勢いで告白したあの日のようで。
でもずっとずっと、劣情を誘う魅惑に満ちていて。
――こんなの見せられたら、我慢なんてできませんわ。
「……ミネッ!」
「きゃっ!?」
気づけばワタクシはミネの手首を握って救護室のベッドに押し倒していました。
「フ、フミ……」
勢い余って倒れた椅子がぶつかり、倒れ消えるデスクライト。
ちょっと目を潤ませながらワタクシの名前を呼ぶミネ。
それでさすがにワタクシもやってしまった事に気が付きます。
「あっ、ご、ごめんなさい! ワタクシとした事が――」
「――いいんです」
手首から手を話したワタクシの片手の手首を、今度はミネの片手が掴みました。
当然、彼女の力はワタクシよりもずっと強くて、押し倒したワタクシが逆に逃げられない、そんな形になっていました。
「いいんですよ、フミ。その……あなたの、好きにしても。私も、あなたを受け入れますから……」
そう言ってミネは空いていたもう片方の手でシャツの胸元のボタンを手探りで開き始めます。
その下にある下着と白い肌が顕になりました。
――ああもう。もうこれは、どうやっても自分を抑えられそうにありませんわね。
「……本当にいいんですのね? ワタクシ、きっとミネが思ったよりも乱暴になりますわよ?」
「ええ、それこそ、覚悟の上です。……ただ、その」
そこで、ミネはそっと窓に目を向けました。
わずかに開いたカーテンから差し込む、満月が照らす月明かりの空を。
「……月が、見ています」
「……見せつけてあげましょう」
ワタクシはそのままミネの唇に自分の唇を重ねました。
ただ重ね合わせるだけでなく、お互いの唾液を混ぜ合わせる、そんなキス。
そのまま肌を晒し合って、体をもっと寄せ合って、そして――
ワタクシは蒼森ミネと結ばれた。
これにて本当に完結です。
最後までご付き合い頂きありがとうございました。
以下、読んでも読まなくてもいいサブキャラフレンズTIPS
◇
フミの取り巻きその1。シスターフッドの記録係の茶髪セミロング。
奥手な性格ではあるが一般家庭で生まれ育った自分を友人にしてくれたフミに大恩を感じていてフミやミネと肩を並べられるような人間になろうと努力した少女。
その努力の結果、シスターフッドにおいてサクラコから表でも裏でも職務を任される程に信用されている。
シスターフッドに入部した理由は最初はフミのために彼女とは縁があるサクラコの近くにいようという打算含めてのものであったがサクラコはそれを見抜いており、それを踏まえてなお彼女らは新たに友人となった。
普段は奥手で物静かだがスイッチが入るとかなりしたたかになる。またフミが絡むと暴走しがちな癖もあり。
サクラコからの一言
「クレイと共にシスターとして活動できている事を嬉しく思っています。ただその……時折彼女のせいで私への風評が余計に変なことになっている気がするんですが……」
◇
フミの取り巻きその2。正義実現委員会で小隊長を務める黒髪姫カット。
正しい事に力を使いたいと志した結果、正義実現委員会に入部し三年には小隊長を任される程になる。
友達グループ六人の中ではさっぱりした性格でツッコミを担当しがち。
正義実現委員会においては特にハスミと仲がいい。そして正義実現委員会の誰かフミやミネなどの友人達が暴走したときの後始末で苦労する事も多い不憫な子。
ハスミからの一言
「いつも苦労をかけているのでとても感謝しています。ただ真面目に頑張りすぎているきらいがあるので、たまにはもっと気楽になってもいいと思いますね」
◇
フミの取り巻きその3。図書委員会の司書の一人で緑髪ショート。
読書趣味が高じて図書委員会に入った子。いつもの六人の中では比較的口数が少ない方で落ち着いているタイプ。
頭の回転は早い側なので時折あれこれと会話を混ぜっ返して楽しんでいる。
ウイに頭をやられていてウイがやらかすときは一緒になってやらかしてシミコにキレられている。一方で意外と面倒見がいいのでウイやシミコのお世話をする側になる事も多い。
図書委員会にモブがいなかったので髪型を捏造した子でもある。
シミコからの一言
「いい先輩なのは間違いないし実際私が助けられる事も多いのですが……ウイ先輩と一緒に見えない敵と戦い始めるのは止めて欲しいです」
◇
フミ達の友人の一人であり、ティーパーティーのサンクトゥス分派において行政官を務めている銀髪ウェーブ。
かつてはフミとは仲が悪かったが、仲良くなってからは気兼ねなく会話できる仲となった。
性格は普通に気がつけば嫌味が口から飛び出ているタイプ。権力意識も高く、それらが合わさっていらぬトラブルを起こす事もしばしば。
ただサンクトゥス分派トップのセイアがあまりにもやんちゃをするわ言葉の毒が強すぎるわで行政官として苦労する事が多く、そのせいでだいぶ丸くなった。
セイアに対してはムカつくけど放っておけないという分派内での面倒臭い世話焼き係にまでなっている。
セイアからの一言
「私の手助けをしてくれるのはありがたいがまず鏡を見ることをお勧めするかな。人にあれこれと言う一方で本人にいささか慎みが足りなように思える時があるからね」