ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
「今日は相談に乗ってくれてありがとうね、摂津君」
「助かるぜ、摂津。急に色んな事があって俺どうしたら良いか分かんなくてさ…」
「構わないが、まずはその『色んな事』がどの様な事態なのかを聞いてからだ。状況が分からなければオレも答え様が無い」
その日の夜、場所は学生寮の、清隆の部屋である401号室。
だがこの日、台に乗せられたテレビとテーブル、ベッド以外何も置かれていないという生活感の薄いこの部屋には、居住者である清隆だけでなく、帆波と、洋介と同じくサッカー部に所属している
勉強会の為に時折この部屋にやって来る健等のクラスメートが訪れる事こそあったが、同じ学年とはいえ別クラスの帆波達がやって来たのは何故かと言うと、この数時間前、授業及び帰りのホームルームが終わっていつも通り健との勉強会に向かおうとしていた清隆の端末に、思いつめた様子の帆波が相談を持ち掛けて来たのだ。
帆波の生徒会加入に関する話を切っ掛けに浅からぬ仲となっていた清隆はそれを快諾、したは良いものの健との勉強会もある為にその後に自室へ来るよう連絡し、その後自室へと戻って来ると扉の前には帆波だけでなく、彼女のクラスメートである颯の姿もあった。
これは只事では無いと、今朝振り込まれる筈のpptが入って来なかった原因である『トラブル』とも関係があるかも知れないと察知した清隆は一先ず自室に2人を招き入れて今に至る、という訳だ。
「摂津君は、中間テストの準備期間の頃から、私達CクラスがDクラスから事ある毎に嫌がらせを受けているって話は聞いているかな?」
「ああ、話だけは耳にしている」
その後清隆に促されて事の仔細を話し始めた帆波。
実を言うと帆波達Cクラスの生徒達は2ヶ月近く前から、Dクラスの生徒達から事ある毎に難癖を付けられている。
廊下ですれ違うたびに「邪魔だ」と言わんばかりに舌打ちをされる、ちょっとした物音やお喋りに対して「うるさい」「常識が無いのか」等と暴言を吐かれる等々…
最初はやっちゃったと思ったのか謝ったりしていたCクラスの面々も、やがてそれがDクラスによる嫌がらせだと理解して我慢が出来なくなったのか言い返したりするケースも出てきて、それに対してDクラスの面々も逆ギレすんじゃねぇと怒号を上げる等ヒートアップする様になり、そんな口論が周りを不快にさせている事で、素行の面でマイナス評価を受ける様になっていた。
中間テストを赤点無しで乗り切った事で各クラスが100cptを獲得した後、Bクラスが5cpt、Aクラスが36cptマイナスで済んでいたのに対してCクラスが87cpt、Dクラスに至っては獲得分のほぼ全てである98cptもマイナスになったのはこういった背景があったのである。
「俺もクラスの皆がDクラスの連中にいちゃもんを付けられているのは知っていたから、何処かでガツンと言ってやると思っていたんだ。そんな中で、サッカー部の先生から夏の大会でスタメンに起用するって話を貰ったんだ。実力が認められたんだとその話を貰った時は嬉しかったんだけどさ、それをどっかから聞いたDの奴らがやっかんだのか昨日の夜、特別棟に呼び出されたんだ」
「それに、クラスメートの件もあって応じた、と?」
「ああ。其処には石崎達がいて、サッカー部をやめろ、じゃないと痛い目にあわせるなんて言いながら殴りかかって来たんだ。殴り返してやろうと思ったけど一之瀬達にも迷惑が掛かるしスタメンの話も無くなると思って踏みとどまって、その場から逃げ出したんだけど…」
「Dクラスが、柴田君が殴って来たって訴えて来たの。現場にいて暴行を受けたっていう石崎君達の診断書も提出して」
そんな状況下での呼び出し、普通だったら罠を疑う物、ましてや特別棟は監視カメラが設置されていない事で知られているスポット、そんな見え見えの罠に引っ掛かる者は普通いない。
だが、クラスメートが被害を受けているのを聞いていて気が立っていた颯は乗っかってしまい、其処での夜襲こそ未然に防いだが、逆に暴行を受けたと冤罪をかけられる事となってしまったという訳だ。
「こういう事で一之瀬が嘘をつく奴じゃないのは知っているし、柴田も嘘をついている様には見えないが…
一応確認させてくれ。本当に石崎達を殴っていないんだな?」
「ああ、勿論だ」
一応のチェックとしてDクラスの面々への暴行の有無を颯に聞き、改めて否定の答えを得た清隆、だが学校の上層部は、元々CクラスとDクラスの間にトラブルがあった事で暴行に発展したんじゃないかと判断、怪我をしたという診断書まで提出されていた為に審議の開催と、暴行していない証拠を集めて来いと颯に通達、審議の場で無罪と認定されなければ停学やcptの大幅マイナスという厳しい処分が下される事となってしまった、恐らく夏の大会でのスタメンの話はおろか、サッカー部自体も退部せざるを得なくなってしまうだろう。
「お願い摂津君、この件どうにか出来ないかな…」
そんなクラスメートの窮状を聞いてどうにかしたいという思いこそあるが、自分では打開策が見いだせない、其処で頼みの綱としたのが、Aクラスの座を争う別クラスの生徒ではあるものの、一度は断られた生徒会への加入で力添えを貰い、その後も何かとアドバイスを授けてくれる清隆の存在。
「分かった。Dクラスのやり方は目に余る、此処で少し灸を据えてやるべきだ。オレに出来る範囲にはなるが、力になろう」
「ありがとう、摂津君…!」
「助かるぜ、摂津!一之瀬からお前の事は聞いていたけど、本当に頼りになるな!」
藁をも縋る思いで自分を頼って来た帆波、それを無下には出来ないと協力を快諾した清隆。
その返事を聞いてぱぁっという擬音が聞こえてきそうな位の笑顔で、感謝を口にした帆波達。
「今日は良く相談してくれた。細かい所は明日以降に詰める事となるだろうが、任せて欲しい」
「うん!今日はありがとうね、摂津君!」
「じゃあな、摂津!これからよろしくな!」
こうしてこの日の相談は解散となり、颯の冤罪を晴らすべく、細かい所は後日詰める事としつつ、証拠集めに奔走する事となった。
尤も、清隆が帆波からの申し出を二つ返事で受けたのは善意ばかりではないのだが…
――――――――――――
「遂に勇み足を踏んだか、
帆波達が帰った後の401号室、其処で清隆は邪悪さを露にした笑みを浮かべながらそう呟き、傍らに置いてあった、取っ手付きのノートパソコンを掴み取った。
いや、それは、ノートパソコンと言うにはあまりにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く、無骨な外見で、
清隆の様な学生が趣味等で使う様なモデルでは無く、寧ろ軍隊の前線任務等の過酷な現場での使用を想定したと言っても過言では無い代物だった。
「一之瀬と関係を築いておいて正解だったな。どうやってDクラスを、龍園を潰すか決めかねていたが、これで奴らに攻め込む大義名分が出来た」
そう、清隆が帆波への協力を快諾したのは単なる善意でも、浅からぬ縁である帆波への思いでも無い、かねてよりDクラスへの攻撃を模索していた清隆にとって千載一遇のチャンスと言って良い物だったからだ。
今でこそcptの面で大幅に差を付けており、日頃の振る舞いの面からその差が更に広がっているDクラス等脅威では無いのだが、今回の様なCクラスへと行っていた嫌がらせ、それがBクラスに矛先を向けられる前に先手を打たなければならないと思っていたものの、大義無しに仕掛けてはBクラスへの印象を悪くし、折角築き上げたリーダー格の座も失いかねないとして手段を模索していた中で今回の帆波からの提案である。
Dクラスを責め立てる機会が向こうからやって来た事でガッツポーズを見せながら、ノートパソコンの電源を点けた…