初めてその二人を見た時。言いようのない懐かしさを覚えた。
男女の兄弟であるが仲睦まじい様子に幼い頃のお嬢様たちが重なり、親近感を覚えたのだ。
そこ、よくあるナンパの口実みたいって言わない。感動が薄れるだろう。
「お嬢、様。」
無意識のうちに口から出たのが聞こえたのだろう。
二人が振り返った。
司波兄妹。
異性どころか同性さえも虜にする圧倒的な美を誇る司波深雪。
いい意味でも悪い意味でも目立つが実力者である司波達也。
うむ、訝しげに見られているがどちらも顔が良い。
「いきなりごめんよ。そちらの司波さんがあまりにも可憐だったから、ついね。」
少し慌てて誤魔化すとその態度も含めて勘違いしたのか、司波さんは微笑んだ。
「いえ、大丈夫ですよ。」
「ええ、深雪はそう言われることも多いんですよ。お気になさらないでください。」
「まあ、お兄様ったら。」
兄のほうもフォローしてくれた。
むしろ、さり気なく自慢された気がする。
「そうか。忙しい所を邪魔して悪かったね。」
「そんなことありませんよ。」
今は毎年恒例の新入部員の争奪戦の真っ只中だ。渡辺先輩が風紀委員長なってからは過激な勧誘が鳴りを潜めたが、確かこの兄、司波君のほうは各方面から喧嘩を売られていたな。先日も数人の美少女と一緒にいたが、そちらのやっかみもあるのだろう。
諸君いや野郎ども、気持ちは分かるが連日多対一で上級生の襲来を受けているところを想像してみろ。嫉妬より憐れみの気持ちが起こらないか。一つ老婆心からというわけでもないが、お節介でも焼こうか。さっきから周囲の生徒が遠巻きにこちらを眺めている。
「二人は有名だが休み時間はいつもこうなのかい。」
チラッと辺りを見回して人目が気にならないかと言外ににおわす。なんかこういう会話ってスパイものみたいでワクワクするね。遠回しな質問にも頭の出来が良いのかすぐに察してくれた。
「そうですね。でも慣れましたから。」
「有名税の一種と考えればそこまで。」
「大変だね。でもどうしても嫌になったら中庭に行くといいよ。あそこは滅多に人が寄り付かないから。」
司波君は少し驚いた顔をした。
「先輩もその場所知っているのですか。」
「ありゃ、もう見つけてたか。」
諸君、人の知っていることを得意そうに言うのって恥ずかしいな。うん、司波さんが笑ってくれるのは嬉しいけどどうせなら他のことで笑わせたかった。司波君もわざわざ窘めなくていいんだよ。諸君の中で笑ったものは後で体育館裏な。詳細は伏せるがとっておきをお見舞いしてやるよ。
「申し訳ございません。少し微笑ましく見えてしまって。」
「いいや、気にしてないよ。自分でも他の人が同じことやったら腹抱えて笑うし。」
私は結構イイ性格をしているのだ。
オプションで嘲笑いながら対象を指差すこともつける。
「もしや、会長と面識はありませんか。」
そういえば七草先輩もあの場所がお気に入りだった。
「そうだけど。もしかして司波君もその口調だとエンカウントしたのかな。」
「ええ、入学式に。」
一般生徒なら会長と交流が出来るのは諸手をあげて喜ぶことなんだろうが、司波君の顔にはどこか疲れが見える。
「君もこちら側の人間か。道理で最近ご機嫌だと思った。」
会長のおもちゃにされる人材は貴重で一度目をつけられたらすっぽんのように放してもらえない。ましてや妹がお世話になっているのだからなおさら逃げづらそうだ。
「先輩もなのですか。」
「ああ、私は去年の四月の後半からだよ。以来、ずっとね。」
「ずっと、ですか。」
人がいないからと油断して昼寝をしていたところを襲撃されたのだ。人生経験が豊富な私から見ればどれも可愛い悪戯なのだがそれなりに割を食う時がある。同じ苦悩を知る者同士でしみじみと共感を分かち合っていたところ、司波さんは苦笑いを浮かべていた。
もし、諸君のなかで美少女と戯れたい者がいたら遠慮なく申し出てほしい。しかるべきところに斡旋しよう。ただし、微塵も下心を抱いていない者に限る。年上だがあの弘一くんの子どもなのだ。大事は起こる前にその原因を排除しなければならない。
もちろんそれは親愛なる諸君であっても例外ではないぞ。
「そういえば名前をお聞きしても良いですか。」
「私も知りたいです。」
会長のお遊びという名の被害を皮切りにひときしり盛り上がったあと、別れ際に司波さんが遠慮がちに尋ねてきた。司波兄妹は有名だから忘れていたが、うっかり名前を名乗らずに話し込んでしまった。
「2年の和田文加だよ。よろしく。」
「私は1年の司波深雪です。よろしくお願いいたします。兄と被りますので名前で呼んでください。」
「自分は1年の司波達也です。こちらこそよろしくお願いします。自分のことも名前でいいです。」
「分かった。私も名前でいいよ。」
部活に入っていないから下の学年との交流を諦めていたが、思いのほか良い後輩と巡り会えた。名字からして四葉とは繋がりはないというのにチラチラと重なるあの子達の面影に苦いものがこみ上げてくるが、それさえも庇護欲を駆り立てる要因にしかならない。
後輩という存在がこれほどまでに守ってやりたくなるものだとは知らなかった。
まあ、司波君のほうは愛嬌があるとは言いずらいが苦労人そうな所が面倒をみたくなるし、司波さんは妹であるためか自然と可愛がりたくなる。
これは先輩達も気に入るはずだ。
それから司波兄妹とは校内で会うたびに度々交流するようになった。
「先輩、どうしたら会長から逃げられますか。」
「無理だ。諦めろ。」