三度目の正直   作:八田里

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三度目の日常

 「ねえ、文加ちゃん。こっちみて。」

 目の前に満面の笑みを浮かべた会長がいる。余りにも綺麗な微笑みだったのでカメラを向けると無言で取り上げられた。

 

 「何ですか。七草先輩。」

 諸君、声が震えたのは決して恐怖からではない。部屋が少し肌寒かったからだ。

 

 今朝、私は中条から七草先輩からお昼に弁当持参で生徒会室に来るようにと連絡を受けた。面倒ごとの予感がして中条に断れないかと聞いたら、放課後に追い掛け回されるのとどっちがいいですかと真顔で聞かれた。

 

 流石生徒会で振り回されているだけある。溜息を飲み込んで了承すると司波さんたちもいますよ、と付け加えられた。司波さんはともかく兄のほうもいるのかと聞いたら疲れた顔で頷かれた。

 

 中条、お前の苦労しているんだな。

 

 さあ、諸君。待ちに待ったランチタイムだ。

 え、待ってない? 

 僕も今来たところだよ?

 おいおい、言うタイミングを間違えて居るぞ。

 

 生徒会室に行く途中で市原先輩と会った。役員の人に開けてもらわないといけないので他愛のないことを話しながら歩く。

 

 「失礼します。」

 「よく来たな。文加。」

 「来てくれて嬉しいわ。文加ちゃん。さッこっちにおいで。」

 部屋の中には既に4人いた。渡辺先輩と七草先輩と司波兄弟だ。七草先輩は渡辺先輩との間にある席を叩いて促した。私はその誘いを無視して市原先輩の隣の席に座った。

 

 「お隣失礼します。」

 「向こうに行かなくてよいのですか。呼ばれてますよ。」

 「今日は市原先輩と話したい気分なんです。可愛い後輩からのお願いですよ。」

 「そう言われると無下にはできませんね。」

 市原先輩が珍しくからかってきた。

 理由なんてわかっているだろうに。

 

 美少女の誘いを断るなんて何事だ、と昂っている諸君よ。最強に最凶を足すと最恐になるんだぞ。お昼ぐらい落ち着いて過ごしたい。あの席に座ったら絶対おもちゃにされる。

 

 「私も可愛い後輩と食べたいんだけどな。」

 「ほら深雪さん。お呼びがかかっているよ。」

 七草先輩の言葉に火の粉が飛んでこないように気配を消している司波兄弟のほうに声をかける。

 

 「会長がご所望なのは文加先輩ですよ。」

 「いいや、深雪さんでしょう。ほら素直で可愛い後輩だし。」

 「先ほどご自分で可愛い後輩とおっしゃったではありませんか。」

 「そうだっけ?」

 押し付けあっていると肩に重みを感じた。

 振り返ると渡辺先輩だった。

 

 「何だ。私の隣は嫌か。」

 「それ、脅迫と言いませんか。」

 仕方がないので市原先輩と渡辺先輩の間に座った。

 むくれている会長なんて見えない。

 

 「ねえ、ここに座らないの。」

 「自分の欲求と渡辺先輩の要望に応えた結果です。多分、あとから来る副会長なら喜んで座りますよ。」

 喜ぶどころか赤面してショートしてそうだ。

 

 「ハンゾー君なら部活連のほうに顔を出しに行ってるわ。」

 「なら、中条が座ってくれますよ。小動物のような可愛さに癒されてください。」

 「うーん。それもいいけど今欲しいのは小生意気な可愛さを持つ後輩かな。」

 「だってよ。達也君。」

 「もう文加先輩も諦めてください。」

 このままでは埒が明かないので結局最初に促された席に座った。

 

 「言う通りにしてくれる子は好きよ。」

 「わー、光栄です。」

 でも、私は無理やりはあまり好きじゃないの。

 

 「言う通りにさせたんでしょう。文加さんも面倒なのは分かりますが会長相手に向きになりすぎないでください。」

 市原先輩ぐらいだ。正面から会長を窘めてくれる存在なんて。だからこそ好き。尊敬している。

 

 「努力はします。」

 「文加さん。」

 「はい。」

 

 おい。司波兄弟。

 バレていないと思っているかもしれないけどな。口元に力をいれて笑いをこらえているの、分かってるぞ。先輩方を見てみなさいよ。あんまりにも堂々と笑っているから怒りを抱くどころか好感を持つじゃないか。

 

 まあ、いい。

 お昼休みもそう長くはないんだ。まだ来ていない中条には申し訳ないが早速お昼を食べようじゃないか。会長の音頭に合わせて部屋にいる人たちがお弁当やプレートを机の上に用意した。

 

 皆の前にはお弁当箱が三つ。プレートが二つ。お重が一つ。

 

 渡辺先輩。

 見かけによ、いえ見かけ通りの乙女ですね。先輩の手作り料理が食べられる彼氏さんが羨ましいです。指に絆創膏を貼りながら料理って一昔前の恋愛漫画のヒロインですか!

 

 司波兄弟のお弁当も見た目も華やかで美味しそうだね。適当にご飯と冷凍食品を詰め込んだ私のお弁当とは大違い。

 

 「あの、もしかして文加先輩は誰かとお昼をご一緒する約束をされていたのでしょうか。」

 深雪さんが私の前に置かれた三段重を見て目を丸くした後、何か思い当たることがあったのか申し訳なさそうに聞いてきた。 達也君も心配そうな顔をしている。

 

 君たち、いい子だな。

 諸君もそう思うだろう?え?

 

 「大丈夫。誰とも約束していないよ。」

 「文加ちゃんは大食いなのよ。燃費が悪いらしくって休み時間の度に何かしら食べているわ。」

 

 私の代わりに会長が得意そうな顔で答える。いくら先輩面したいからって後輩同士の交流に入らないでくださいよ。せっかく、からかい混じりに愉快な問答を繰り広げようと思っていたのに。

 

 「ということはこの量を一人で全部食べるのですか。」 

 「そうだよ。一段目は炭水化物。二段目はおかず。三段目は果物と野菜。」

 司波兄弟は驚きと珍獣をみるような目つきで見てきた。質より量といわんばかりに出来合いの総菜などを詰め合わせた茶色い弁当を見せる。

 

 「まるで一昔前の運動会みたいですね。」

 「達也君、いい例えだね。これからはその表現を使わせてもらおうかな。毎日が運動会って。」

 「文加先輩は面白い人ですね。」

 「それを本人に言っては駄目ですよ。司波さん。ますます、調子に乗りますからね。」

 市原先輩、聞こえてますよ。でも、先輩だってなかなか愉快だってことを知っているんですからね。自分だけ常識人ぶらないでくださいよ。

 

 この日のお昼ご飯は楽しかった。会長のオモチャにされることを加味しても、もう一度くらいは生徒会室でお昼を一緒にしてもいいと思えるぐらいに。

 

 普段から何かと世話を焼いてくれる先輩方と可愛い後輩、気をはらなくても良い賑やかな場は在りし日のお二人とのお茶会のようだ。いくら名家の御令嬢とはいえど無邪気でお転婆なお嬢様たちには随分手を焼かされた。なまじ頭がいいだけちょっとした誤魔化しがきかないのだ。納得するまで駄々をこねるのだから、それはもう大変だ。

 

 でも、手のかかる子ほど可愛いとはよく言ったもので彼女達の世話を嫌と思ったことはない。

 

 だから例え気づいてもらえなくても

 昔と変わってしまっても

 

 戻れるのなら、もう一度側に戻りたいですよ。お嬢様。

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