超リアルかぐや姫! 作:超作者
突然だが、俺はある友人に「彩斗って彩葉に似てるとこあるよね〜」と言われたことがある。正直あの完璧「
名前に含まれる漢字とか、上京してきてボロアパート住まいなところとか、バイト三昧でわりといつも忙しいところとか、極貧、とまではいかずとも節約生活をしているところとか……親とあまりうまくいっていないところとか。
まあでもそんな俺の事情なんて、あの彩葉と比べれば些細なものだ。俺と彼女じゃ背負っているものも目指しているものも、何もかもが違いすぎる。その上で一番大きな相違点は挙げるとするなら……
「ほう……酒巻、授業中に夢の世界へ旅立つとはいい度胸だな」
「……あ、すいません」
俺の学校での立ち位置は優等生でもなんでもないってところだな。成績不振とは言わないが、それでも低空飛行な赤点スレスレの点数で立ち回っているのは事実であり、授業態度や生活態度だってお世辞にも良いとは言えない。まあ今日授業中に爆睡をかましたのは育児疲れのせいだが。仮にも男子高校生が育児疲れってなんだろうな。
「授業はちゃんと受けることだ。いいな?」
「はい。わかってます」
「ならいい。だが後で職員室には来てもらうぞ」
「……はい」
呼び出し一つ入りまーす。バ先ならともかく学校での呼び出しとか基本的にお叱りでしかないから遠慮したいんだが。
「さて酒巻。俺の言いたいことはわかるな?」
「……授業中にガン寝したことですよね?」
「それもあるがな。本題はお前の体調についてだ」
「……はい?」
なんて?
「休日明けのお前はいつもイキイキしてたからな。だが今日のお前は隈ができている。何かあったか?」
「あー……」
純粋に心配かぁ……良い人だな鈴木担任。まあここで正直に言うわけにもいかないので誤魔化すんですけどね。
「何もなかったとは言いませんけど、一応大丈夫ではあるので」
「ならいいが……困ったら相談くらいは聞くぞ」
「はい。ありがとうございます」
それだけ言い残して職員室から退室する。やっぱ学生の身としては職員室って息が詰まるよね。なんか居心地が悪いっていうか。
そんなこんなで足早に昇降口に向かった俺に声をかけてきたのは、数少ない友人たちだった。
「遅かったな、彩斗。噂では授業中にぐっすり眠っていたと聞いたが」
「せっかく三日も休みがあったのに睡眠不足とかさ〜、よっぽど面白い作品でも見つけたの?」
「生憎そういうわけじゃないんだよなぁ……まあ野暮用だよ野暮用」
こちらを心配するような視線をよこしてくる男は、カッチリ着こなした制服にメガネをかけた外見のいかにもなガリ勉優等生である
「てかそもそもこの三日間ボクらの連絡にも一切反応しなかったよね?なんかあった?」
「いやだから野暮用だって」
家にかぐやが来たとかあまりにもオタクの妄言過ぎるし流石に言えねぇ……
「お前がオレたちの連絡を無視せざるをえなかった事態は異常以外のなにものでもないだろう。本当に何があった?」
「……別にガッツリ寝落ちしてただけだって」
「その割には下手な化粧で隈を隠そうとした跡があるけど〜?」
「睡眠時間を
鋭いなこいつら。いやこれ俺の言い訳が下手なだけだな?地味にまだ頭回ってないなこれ。まあここ最近ほぼ寝れてなかったのは事実だけども。
「わざわざ話すようなことでもな……あ?」
「どうした急、に……」
「なになに?二人ともどしたの?……え?」
唐突に硬直した俺たち三人の視線の先。そこには通りすがりの金髪美少女の姿があった。ってあいつ……!
どうする?この意味わからん事態にこの二人を巻き込むわけにもいかない。となるとあいつにはこの場から即座に退散してもらいたいのだが……
「あ!彩斗ー!」
「だよなぁ……」
こっちを見つけるや否や即座に手を振ってアピールをしてくるかぐや。それされた上に名前まで呼ばれたら言い訳もクソもないじゃんね……!
「あの顔にあの声……オレは幻でも見ているのか?」
「いやボクは彩斗の反応的にマジと見たね。と、いうわけで……」
ガシッと肩を組んで、いや掴んで逃られないようにしてくる夢真。その目には詳細を聞くまで絶対に逃さないぞという意思が込もっていた。
「色々聞かせてもらおうか、彩斗クン。
「……はい」
こうして俺は二人にドナドナされていくこととなったのであった。
「このパンケーキ……めちゃくちゃうんまぁあ!」
「そうだろう。ここの名物だからな。ゆっくり食べるといい」
かぐやがパンケーキで買収された中、俺は彼女の目を盗んで二人にここ数日の出来事を説明していく。奇々怪々でフィクションのような現実譚を。
「……他者から聞けば信じられなかっただろうが、他ならぬお前の言葉だからな。信じよう」
「というか目の前にクオリティ高すぎな本物がいる時点で信憑性バク上がりだしね〜。にしても記憶喪失とかベタな展開だね」
「実際に直面すると面倒以外のなにものでもないぞ、それ」
治し方のわからない病みたいなものだらな。おまけに治さないと解釈違いを正面から喰らうってな罰ゲーム付きだ。
「でも実際どうするの?このまあ例のVの募集に応募させちゃうわけ?」
「多分それが最適解だろうからな。諸々の問題はまあ……どうにかなるだろ」
「この短期間で彼女の楽観癖が移ったか?創作物であった存在による現実への侵食など、そうなんとかなる問題でもないだろう」
「それはそうなんだけどさあ、もうここまできたらかぐやのやりたいようにやらせてあげたいなって俺としては思うワケ」
「がっつり親心芽生えてんじゃん。ウケる」
「親心、ねえ」
これが親が子を想う感情なのか、ファンが推しを想う感情なのかはわからない。それでも俺は彼女に少しでも幸せな思い出を作ってほしいと思った。
「……ここにいるかぐやってさ、時系列的には多分一回月に帰って地球に戻ろうとしたところなんだよね」
「『酒寄彩葉』との思い出を保有しているならばそうだろうな」
「だからさ、このままだとあいつは八千年の日々を過ごす運命なんだよ」
「……そうなるね」
かぐやは八千年の時を経てヤチヨになる。これは決められた運命であり、変えることはできないか、できても容易ではないのだと思われる。何よりそう簡単に変えていいものでもないのだから。
「その前にせめて少しでもいい思い出を作らせてあげたい、なんてのは俺のエゴか?」
縋れるものは多い方がいい。俺との日々がそうなれるだなんて思い上がるつもりはないが、それでも彼女が自分の力で掴み取ったものなら、あるいは。
「いーんじゃない?ハッピーエンドに至るまでの寄り道ってことでしょ?」
「それもまた彼女が好む類のものだろう。たとえそれが番外編であろうとも、ハッピーエンドの幕引きの方が良いに決まっている」
そんな俺の考えを肯定してくれる温かい友人たちの言葉に胸が熱くなる。やはり俺は良い友を持っ「んぐっ!?」
「彩斗!これおいしいよ!」
「勝手に人の口にものを突っ込むな……!特に男子にやるなそんなこと!」
「えー?」
突如強襲したかぐやの手によって口に放り込まれたパンケーキは確かに美味であった。これを奢ってくれた二人には感謝である。だがそれはそれとして。
「いいか?かぐや。男ってのは女に弱い生き物なんだよ。こういうことをされるとすぐに好意を持たれてると勘違いするくらいにな」
「えーっと、つまり?」
「そういうのは好きなやつにだけやれ」
彩葉とかいろPとか酒寄博士とかにな。
しかしそんな正論を放った俺に対し、かぐやが興味はこんな爆弾を持ち出してきた。
「私は彩斗のこと、好きだよ?」
「……っ!?」
それは……反則だろうが……!その顔で言われたら何も言えねえよ……あっ♡ちょっと(本来彩葉がいるはずのかぐやにこういうことを言わせてる自分への罪悪感とか自罰感情で精神が)逝くッ!
「いや、だからそういうセリフは……」
「だってほんとに好きなんだもん。だからこういうことしてもいいでしょ?」
なんでもないような顔で再びパンケーキの刺さったフォークをこちらに向けて突き出すかぐや。いや推しからのあーんは過剰供給すぎて……いやでもこれを断るのもそれはそれで……!
「アムッ……ウン、オイシイヨ……」
「だよね!じゃあ残り食べちゃおっと」
なお、この間我が友二人は殺意の籠った視線でこちらを見ていた。その目曰く、「リア充爆発しろ」とのことである。ちがっ、俺、そんなつもりじゃ……
「……随分と楽しそうだったな、彩斗」
「推しからのあーんをもらった気分はどうだった?なあおい答えろよ」
ドスを効かせるな笑顔で詰め寄るな喉元を狙ってナイフを構えるな。さっき感じた温かい友情はどこ行った。
「……明日への逃亡!」
「逃がすか!」
「せめてお前があーんしてもらった分の代金は支払ってもらう!」
この後普通に捕まった。少なくともお前は
「みんな楽しそうだね!」
これはこの後全力で(店の迷惑にならない程度に)戯れ合う俺たちを見たかぐやの言葉である。
「それじゃ彩斗借りてくね!パンケーキありがと!」
「は?いや俺借りてくってどこ行く気だよ」
「どこって『アマノイワド』が借りてるオーディション会場だけど?」
???
待て、まさかこいつ……!
「さてはお前、俺の分まで勝手に応募したな!?」
「そうだけど?だって一緒に配信するんだし」
「俺の許可を取れせめて!」
「あ、そういえば印鑑借りたよ」
「事後報告!」
いくらなんでも強引すぎるわ。いやでもこれ原作準拠のクソガキ性か。彩葉みたいに貯金が使われてないだけマシか?
「VTuberのオーディションか……応援しているぞ」
「彩斗ならなんかの弾みで受かるんじゃない?まあとりまがんば〜」
「もうちょいその笑顔隠そうぜ!?まだ恨み晴れてなかったのかよ!?」
ものすんごく”いい笑顔”でこちらを見送る姿勢を示す二人に激励(?)を受け、俺は強制的にVTuberのオーディションなんていう場違いな世界に足を踏み入れることとなった。