超リアルかぐや姫! 作:超作者
はい、やってきましたは「アマノイワド」本社のクソデカビルです。今からここでオーディションをするらしいです。いややっぱ俺如きがここに足を踏み入れるのは無理じゃね?
「てかそもそもなんで昨日の今日でオーディションをするって話になったんだよ」
「なんか応募したら今日中に来れますかって言われたからオーケーって返したの。そしたらここに来てって」
何もかものスピードが早すぎんだろ。これが令和の速度ってことか?
「……まあかぐやはともかく俺は受からんだろうし気楽に行くか」
「ええー!?なんで!?一緒に合格しようよー!」
「しようと思ってできるもんじゃないんだよなぁ……」
ただの凡人にエンターテイメント性を求めるな。一人よがりな楽しみ方しかできんぞ俺は。
「まあもうこの際だ。面接だけは受けてやるよ」
だから頼むからとっとと落としてくれ、天岩運営。
「絶対一緒に配信するんだからね!」
「はいはい。まあ二人で合格するとかいう無理難題がまかり通ったら、な」
そんなこと絶対起こらんだろうけど。
「それでは面接を始めさせて頂きます。まずはお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「酒巻彩斗です」
なんで
「では何故今回は弊社の企画にご応募を?」
まあ聞かれるよな、応募動機なんてありきたりなもん。何故を問われたら「居候の月人に勝手に応募された」がアンサーなんだが、それを正直に言うわけにもいかない。となるとオールアドリブでいくしかないわけだ。
「……私はこの事務所のライバーに何度も救われてきました。配信を見るだけで自然と笑顔になれて、苦しい時には楽しいという感情を思い出させてくれて、これほどまでに自分の人生を支えてくれた推しという存在は、これまでもこの先も現れないと思います。だから自分もそんな誰かを救う側になってみたかった……なんてのがまあ、
「では、その心は?」
渾身の冗談がさらっと流されたんだが。いい感じにボケようとしたらこれだよ。やっぱ向いてないって。
「ハッピーエンドに誘われたから、ですかね。有り体に言えば推しと同じ場所に立ちたかったってだけです。不特定多数の誰かのためじゃなくて、特定の個人の幸せを支えたい。そんな不純な動機ですよ」
もし仮にVTuberになったとして、万人のための配信なんて俺にはできないだろう。俺にできるのは精々あいつの隣で少しだけ手を添えることだけ。まあそれもすら彩葉に比べれば何もできてないに等しいとしても、な。
「……お答え頂きありがとうございます。それでは続いてVTuberとしての活動内で活用できる特技についてお聞きしたいのですが……酒巻さん」
「はい」
「今から女声を出してもらえませんか?」
「……はい?」
話の緩急って知ってます?なんで急にそんなぶっ飛んだ話題になったんだよ。
「これは真剣な話です。とりあえずでいいので挑戦してみてください」
「わ、わかりました。……んん゛っ、あーあー、あー……」
社長の気迫がすごくて逆らえる気がしないので、大人しく喉のコンディションを整える。感覚的にはカラオケで高温のボカロ曲を原キーで歌った時のあの感じで……
「こ、これでいいですかね……?」
あれこれ試行錯誤した結果、放たれたのは俺の声とは思えない程可愛らしい女の子の声。少し気弱な印象を受けるがそれもまた守護りたくなるようなヒロイン感を高めており、ソシャゲとかで言うなら涙目差分の多そうな娘という感じだ。
いやほんとにこの声俺が出してんの?
「……やはり私の目に狂いはなかったですね。酒巻さん、これからあなたには『
「?」
「後別室で面接をしている妹さんと二人のコンビチャンネルとして配信をしてもらいます」
「??」
「初期設定は『月の光の下でのみ活動できる陰キャ吸血鬼系男の娘』として売り出していきましょう」
「???」
なんだこれは……何もわからん……ハッ!これが宇宙を背負うという感覚……無領空処を喰らった時の脳内……!情報がいつまで経っても完結しない……!いや待て、ここで二三箇所ツッコまないと絶対面倒なことになる!
「一色社長、いくつか質問よろしいでしょうか」
「なんでしょうか」
「まずそもそも俺って合格なんですか?」
「はい。あなたたちは名の売れるVTuberになれると確信しているので」
「男の娘系両声類萌え声VTuberとしてですか?」
「男の娘系両声類萌え声VTuberとしてです」
「というかなんで俺がこんな声出せるってわかったんです?」
「……私は耳がいいので」
「妹ってかぐやのことですよね?」
「彼女以外に妹がいたとは書類に記載されていませんでしたが」
「スゥー……はい、大体わかりました。この後はどうすればいいですか?」
「この後は今後の活動に当たってのお話をさせて頂きたいので、妹さんと一緒にお待ちください」
怒涛の質疑応答を経て、一旦の自由時間をもらった俺は考える。
……なんでこんなことになったんだろうな。
彩斗が一色社長と面接をしている頃、かぐやもまた別室でとある人物と会話に花を咲かせていた。
「なるほど〜……つまりかぐっちはそのアヤアヤにぞんざいな扱いを受けちゃってるわけっすね?」
「そうなんだよ!私が勝手に応募しなかったらここに来る気もなかったみたいだしさあ……」
「こーんな美少女に言い寄られてるっていうのに罪な男っすね〜」
もはや面接という体すら成していないその風景は、言うならば女子会でしかなかった。緊張感に包まれた隣の部屋とは雲泥の差である。
「あ、というか
「あー、その話なら端から合格っすよ。もう私レベルになると書類読んだだけでその人のライバー適正がわかっちゃうんすよね〜。その点かぐっちは百点満点っすよ」
「ほんと!?あ、じゃあ彩斗は?」
かぐやが気にかけたのは、この世界における唯一と言っていい知り合いにして大切な人である彩斗のこと。一緒に配信をすると言ったのに、自分だけ合格してしまっては意味がない。そう思って問いかけるも、その相手は何でもないことのようにこう返した。
「アヤアヤももち合格っすよ?というかそうじゃなかったらかぐっちはウチの事務所のお誘い受ける気なかったっすよね?」
「まあね〜」
彼女は何も、わずかに記憶の中に残る景色を一人で見たいわけではない。大切な人と共にその光景を目にしたいのだ。
「でもいいんすか?」
「ん?なにが?」
「かぐっちにはもっと他にやらなきゃいけないことがあるんじゃないんすかって話っすよ。わざわざこんなことしてていいんすか?」
こちらを見透かすような視線を受けて、かぐやはしばし考える。確かに彼女の第一目標は記憶を取り戻すことであって、VTuberのトップに立つことではない。ましてや彼と共に活動をしていくことは必須条件などではない。
それを理解してもなお、彼女の心は揺るがない。
「……いいの。だってこれは私がやりたいことだから」
「大事な人に会うのが遅くなるかもっすよ?」
「だとしてもいいの!私は彩斗をハッピーエンドまで連れてくって決めたんだから!だからステージで待っててよね、天羽さん!私たちがそこに行くから」
「へー……いいっすよ。ちゃーんと温めて待ってるっす。だからそっちも、ここまで来てくれるっすよね?」
「もちろん。絶対勝ち上がってあなたと一緒にライブするから」
「楽しみにしてるっすよ、かぐっち。アヤアヤと会うのもね」
二人は互いに顔を見合わせてニヤリと笑う。そこに二人にしかわからない何かを込めて。
「それじゃあ後は業務連絡があるんで一旦退出時間っすよ。面倒な話があるから覚悟しておくっす」
「えー?楽しくない話とか嫌なんだけど」
「そこはガマンガマンっすよ。まあアヤアヤがそういうところはカバーしてくれると思うっすけど」
「そっか!彩斗に頼めばいっか!じゃあまた会おうね!天羽さん」
「次会う時はいい感じのあだ名で頼むっす。せっかくのコラボ相手と距離間なんて感じたくないっすからね」
部屋から出ていくかぐやが最後に聞いたのは、そんな少し変わった激励の言葉だった。
「そっちは終わったか」
「うん!合格だって!そっちは?」
「俺も合格だってよ。今思えばさっきの発言は完全にフラグだったな……」
現実にフラグとかいらんだろ……かぐやがいる時点でこの世界にもフラグ理論が適応されているこちに気付いておくべきだったか。
「……!それじゃあ二人で配信できるってこと!?」
「まあそうだな」
「やったー!」
「ちょっ!?おま音量!ここ会社ん中だぞ!?」
嬉しいのはわかったから声量抑えろ!てか後ろに社長いるんだけど!?
「……酒巻彩斗さん、かぐやさん。どうぞこちらへ」
「アッハイ」
「はーい」
今ヌルッと後ろから出てきたんですけど、いつからいたんです?
「では今から配信機材や配信の方法、デビュー日時のスケジュールなんかの事前説明を始めますね」
「はい、お願いします」
「そこまで固くならなくても大丈夫ですよ。簡単な説明だけですので」
実際社長の言う通りわかりやすい説明だった。配信に必要な機材の扱いなんかは正直VTuber見る専だった俺にとって未知の領域。ここでしっかり覚えておかなければ。
「んー……なんか大変そう……」
なおかぐやはこのレベルの説明で既に若干辟易していた。まあツクヨミがあるとないとじゃ配信の楽さもだいぶ変わってそうだから多少はね?
「これで説明は以上になります。何かご不明な点はありますか?」
「ひとまずは大丈夫です」
「そうですか。もし何か問題が生じた際にはこちらに連絡を。私が応対しますので」
「……社長が?」
「はい。お二人のマネージャーは私ですので」
「……はい?」
この人マネージャー業もやってんの?多忙すぎない?
「お二人の、というよりかは今期のライバーの担当が私と言った方が正しいですかね。とにかくよろしくお願いしますね」
「は、はい……」
「よろしくおねがいしまーす!」
ははーん、さてはこの人どっかイカれてんな?何かしらあって
「それでは機材は後日郵送させて頂きますので。それまでに設定を固めておいてください」
「わかりました!」
「……ちなみに俺のやつは」
「こちらで用意しておきます」
あ、そうっすか。まあ俺にそういうのを考える才能も気力もないからいいけど。多分俺がやると開き直ってヤチヨライクの設定とか付け加えそうだし。
「そんじゃ帰るぞ、かぐや」
「うん!」
かぐや姫の提示した無理難題はまかり通り、俺は新たな試練に挑むこととなってしまった。VTuberとかほんとにできる気がしないんだけどなあ……。まあ、できるだけ足掻いてみますかね。
この決断(というにはやや無理矢理選ばされた感がないわけでもないが)が俺の人生を大きく変えていくことを、この時の俺はまだ知らない。
(書き溜めが尽きたので続きは)ないです
自分にこういうのを書くための文才がないのがわかっちゃってェ……モチベも上がらなくってェ……
なので誰かこういうの代わりに書いてください(遺言)