戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第一話 幼馴染

 

 

佐々木海斗には、前世の記憶があった。

 

……とはいっても、すべてを鮮明に覚えているわけではない。

 

自分がどんな人生を歩んでいたのか。

 

家族は誰だったのか。

 

どんな夢を持っていたのか。

 

そのほとんどは、霧の向こうに隠れてしまっている。

 

ただ一つだけ。

 

どうしても忘れられないものがあった。

 

歌。

 

少女たちの叫び。

 

絶望の中でも諦めない姿。

 

そして――世界を救うために戦う、少女たちの物語。

 

その記憶が、後に自分をどれほど苦しめることになるのか。

 

五歳の海斗は、まだ知らなかった。

 

 

佐々木海斗の二度目の人生は、平凡だった。

 

朝起きて。

 

ご飯を食べて。

 

幼稚園へ行って。

 

友達と遊ぶ。

 

そんな当たり前の日々。

 

ただ、周囲の子どもたちと少し違うところがあるとすれば、海斗は妙に落ち着いた性格だったことだ。

 

同年代の子どもたちが走り回る中で、一人静かに本を読む。

 

喧嘩が起きれば、どちらかが悪いと決めつける前に理由を考える。

 

先生からは、

 

「海斗くんは大人しいけど、よく周りを見ているね」

 

と言われることが多かった。

 

本人としては、ただ前世の名残で少し考え方が大人びているだけだった。

 

それでも。

 

海斗は思っていた。

 

(普通に生きたい。)

 

特別なことなんていらない。

 

二度目の人生くらい、穏やかに過ごしたい。

 

そう願っていた。

 

あの日までは。

 

 

春。

 

近所の公園。

 

桜が舞う中、海斗は砂場で一人遊んでいた。

 

別に友達がいないわけではない。

 

ただ、今日はなんとなく一人でいたかった。

 

砂を掘りながら、ぼんやり空を見る。

 

その時だった。

 

「ねえ!」

 

突然、声をかけられた。

 

振り向く。

 

そこにいたのは、一人の少女だった。

 

短い髪。

 

太陽みたいな笑顔。

 

手には泥だらけのスコップ。

 

そして――。

 

「あっ!」

 

少女は勢いよく走ってきたと思ったら、何もない場所で盛大につまずいた。

 

「いたた……」

 

海斗は思わず立ち上がる。

 

「大丈夫?」

 

すると少女は、膝についた砂を払いながら笑った。

 

「うん! 大丈夫!」

 

泣かない。

 

怒らない。

 

むしろ楽しそうだった。

 

そして。

 

泥だらけの手を海斗へ差し出す。

 

「わたし、立花響!」

 

「いっしょに遊ぼう!」

 

海斗は少し戸惑った。

 

初対面の相手に、ここまで自然に近づける人間がいることに驚いたのだ。

 

「……僕は、佐々木海斗。」

 

「かいと!」

 

響は嬉しそうに名前を呼ぶ。

 

「じゃあ、かいとね!」

 

その瞬間。

 

なぜか胸の奥が温かくなった。

 

それが、すべての始まりだった。

 

 

それから響は、毎日のように海斗の前へ現れた。

 

「かいとー!」

 

朝になると迎えに来る。

 

「今日は何する?」

 

「昨日は鬼ごっこだったから……」

 

「じゃあ今日も鬼ごっこ!」

 

「同じじゃない?」

 

「楽しいからいいの!」

 

そんな会話を何度繰り返しただろう。

 

響は本当に太陽のような子だった。

 

転んでも笑う。

 

失敗しても諦めない。

 

誰かが泣いていれば、自分が遊んでいる途中でも駆け寄る。

 

海斗はそんな響を見て、何度も思った。

 

(この子は、すごいな。)

 

自分にはないものを持っている。

 

真っ直ぐで。

 

優しくて。

 

眩しい。

 

だからこそ。

 

海斗は知らなかった。

 

彼女が数年後。

 

世界を救うために戦うことを。

 

そして。

 

その未来が、決して優しいものではないことを。

 

 

夏。

 

響の家。

 

二人でテレビを見ていた。

 

「かいと、これ食べる?」

 

響がポテトチップスを差し出す。

 

「ありがとう。」

 

「えへへ。」

 

何でもない日常。

 

海斗はこの時間が好きだった。

 

テレビではニュース番組が流れている。

 

最近人気になっている歌手。

 

『ツヴァイウィング』

 

二人の少女が歌う映像。

 

海斗は何気なく眺めていた。

 

その時。

 

『続いて、認定特異災害ノイズについて――』

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

世界が止まった。

 

「……え?」

 

頭の奥が痛む。

 

知らないはずの記憶が。

 

忘れていたはずの記憶が。

 

一気に蘇る。

 

黒い怪物。

 

崩壊する街。

 

歌いながら戦う少女たち。

 

風鳴翼。

 

天羽奏。

 

そして――。

 

立花響。

 

「……嘘だろ。」

 

声が震える。

 

理解してしまった。

 

ここは。

 

この世界は。

 

「戦姫絶唱シンフォギア」の世界だ。

 

 

海斗は隣を見る。

 

そこには。

 

何も知らずにポテトチップスを食べている少女。

 

立花響。

 

未来では。

 

胸にガングニールの破片を宿し。

 

命を狙われ。

 

傷つき。

 

それでも誰かを救うために戦う少女。

 

「かいと?」

 

響が首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

心配そうに近づいてくる。

 

その小さな手が、海斗の手に触れた。

 

温かかった。

 

生きている。

 

今はまだ。

 

ただの普通の女の子だ。

 

海斗は震える手で、その手を握り返した。

 

「……なんでもない。」

 

嘘だった。

 

全然、なんでもない。

 

「響。」

 

「ん?」

 

海斗は言葉を探す。

 

未来を知っているなんて言えない。

 

怖い運命が待っているなんて言えない。

 

だけど。

 

一つだけ決めた。

 

「……絶対に守る。」

 

「え?」

 

「なんでもない。」

 

響は不思議そうに笑った。

 

その笑顔を見ながら、海斗は拳を握る。

 

未来は変えられないかもしれない。

 

自分には力なんてないかもしれない。

 

それでも。

 

諦める理由にはならない。

 

その夜。

 

誰にも知られず。

 

海斗の決意に呼応するように。

 

遠い場所で眠っていた一つの聖遺物が、かすかに光を放った。

 

白銀の剣。

 

守護の聖遺物。

 

後に海斗の運命を変える存在。

 

――アロンダイト。

 

その目覚めは、まだ小さな始まりに過ぎなかった。

 

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