戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第一章 無印編
第一話 幼馴染


 

 

佐々木海斗には、前世の記憶があった。

 

……とはいっても、すべてを鮮明に覚えているわけではない。

 

自分がどんな人生を歩んでいたのか。

 

家族は誰だったのか。

 

どんな夢を持っていたのか。

 

そのほとんどは、霧の向こうに隠れてしまっている。

 

ただ一つだけ。

 

どうしても忘れられないものがあった。

 

歌。

 

少女たちの叫び。

 

絶望の中でも諦めない姿。

 

そして――世界を救うために戦う、少女たちの物語。

 

その記憶が、後に自分をどれほど苦しめることになるのか。

 

五歳の海斗は、まだ知らなかった。

 

◇

 

佐々木海斗の二度目の人生は、平凡だった。

 

朝起きて。

 

ご飯を食べて。

 

幼稚園へ行って。

 

友達と遊ぶ。

 

そんな当たり前の日々。

 

ただ、周囲の子どもたちと少し違うところがあるとすれば、海斗は妙に落ち着いた性格だったことだ。

 

同年代の子どもたちが走り回る中で、一人静かに本を読む。

 

喧嘩が起きれば、どちらかが悪いと決めつける前に理由を考える。

 

先生からは、

 

「海斗くんは大人しいけど、よく周りを見ているね」

 

と言われることが多かった。

 

本人としては、ただ前世の名残で少し考え方が大人びているだけだった。

 

それでも。

 

海斗は思っていた。

 

(普通に生きたい。)

 

特別なことなんていらない。

 

二度目の人生くらい、穏やかに過ごしたい。

 

そう願っていた。

 

あの日までは。

 

◇

 

春。

 

近所の公園。

 

桜が舞う中、海斗は砂場で一人遊んでいた。

 

別に友達がいないわけではない。

 

ただ、今日はなんとなく一人でいたかった。

 

砂を掘りながら、ぼんやり空を見る。

 

その時だった。

 

「ねえ!」

 

突然、声をかけられた。

 

振り向く。

 

そこにいたのは、一人の少女だった。

 

短い髪。

 

太陽みたいな笑顔。

 

手には泥だらけのスコップ。

 

そして――。

 

「あっ!」

 

少女は勢いよく走ってきたと思ったら、何もない場所で盛大につまずいた。

 

「いたた……」

 

海斗は思わず立ち上がる。

 

「大丈夫?」

 

すると少女は、膝についた砂を払いながら笑った。

 

「うん! 大丈夫!」

 

泣かない。

 

怒らない。

 

むしろ楽しそうだった。

 

そして。

 

泥だらけの手を海斗へ差し出す。

 

「わたし、立花響!」

 

「いっしょに遊ぼう!」

 

海斗は少し戸惑った。

 

初対面の相手に、ここまで自然に近づける人間がいることに驚いたのだ。

 

「……僕は、佐々木海斗。」

 

「かいと!」

 

響は嬉しそうに名前を呼ぶ。

 

「じゃあ、かいとね!」

 

その瞬間。

 

なぜか胸の奥が温かくなった。

 

それが、すべての始まりだった。

 

◇

 

それから響は、毎日のように海斗の前へ現れた。

 

「かいとー!」

 

朝になると迎えに来る。

 

「今日は何する?」

 

「昨日は鬼ごっこだったから……」

 

「じゃあ今日も鬼ごっこ!」

 

「同じじゃない?」

 

「楽しいからいいの!」

 

そんな会話を何度繰り返しただろう。

 

響は本当に太陽のような子だった。

 

転んでも笑う。

 

失敗しても諦めない。

 

誰かが泣いていれば、自分が遊んでいる途中でも駆け寄る。

 

海斗はそんな響を見て、何度も思った。

 

(この子は、すごいな。)

 

自分にはないものを持っている。

 

真っ直ぐで。

 

優しくて。

 

眩しい。

 

だからこそ。

 

海斗は知らなかった。

 

彼女が数年後。

 

世界を救うために戦うことを。

 

そして。

 

その未来が、決して優しいものではないことを。

 

◇

 

夏。

 

響の家。

 

二人でテレビを見ていた。

 

「かいと、これ食べる?」

 

響がポテトチップスを差し出す。

 

「ありがとう。」

 

「えへへ。」

 

何でもない日常。

 

海斗はこの時間が好きだった。

 

テレビではニュース番組が流れている。

 

海斗は何気なく眺めていた。

 

その時。

 

『続いて、認定特異災害ノイズについて――』

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

世界が止まった。

 

「……え?」

 

頭の奥が痛む。

 

知らないはずの記憶が。

 

忘れていたはずの記憶が。

 

一気に蘇る。

 

黒い怪物。

 

崩壊する街。

 

歌いながら戦う少女たち。

 

風鳴翼。

 

天羽奏。

 

そして――。

 

立花響。

 

「……嘘だろ。」

 

声が震える。

 

理解してしまった。

 

ここは。

 

この世界は。

 

「戦姫絶唱シンフォギア」の世界だ。

 

◇

 

海斗は隣を見る。

 

そこには。

 

何も知らずにポテトチップスを食べている少女。

 

立花響。

 

未来では。

 

胸にガングニールの破片を宿し。

 

命を狙われ。

 

傷つき。

 

それでも誰かを救うために戦う少女。

 

「かいと?」

 

響が首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

心配そうに近づいてくる。

 

その小さな手が、海斗の手に触れた。

 

温かかった。

 

生きている。

 

今はまだ。

 

ただの普通の女の子だ。

 

海斗は震える手で、その手を握り返した。

 

「……なんでもない。」

 

嘘だった。

 

全然、なんでもない。

 

「響。」

 

「ん?」

 

海斗は言葉を探す。

 

未来を知っているなんて言えない。

 

怖い運命が待っているなんて言えない。

 

だけど。

 

一つだけ決めた。

 

「……絶対に守る。」

 

「え?」

 

「なんでもない。」

 

響は不思議そうに笑った。

 

その笑顔を見ながら、海斗は拳を握る。

 

未来は変えられないかもしれない。

 

自分には力なんてないかもしれない。

 

それでも。

 

諦める理由にはならない。

 

その夜。

 

誰にも知られず。

 

海斗の決意に呼応するように。

 

遠い場所で眠っていた一つの聖遺物が、かすかに光を放った。

 

白銀の剣。

 

守護の聖遺物。

 

後に海斗の運命を変える存在。

 

――アロンダイト。

 

その目覚めは、まだ小さな始まりに過ぎなかった。

 

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