戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「――Balwisyall Nescell Gungnir tron」
少女の歌声が戦場に響き渡る。
響の胸元から溢れ出した眩い光が、その身体を優しく包み込んだ。
「きゃあっ……!」
思わず目を閉じる。
身体の奥が熱い。
胸に埋め込まれた何かが鼓動と共鳴し、全身へ力が駆け巡っていく。
「な、なに……これ……?」
制服が光の粒子となってほどけていく。
眩い閃光が収まると、そこに立っていたのは、見たこともない姿の自分だった。
**鮮やかなオレンジを基調とした装甲。**
**白と黒(ダークグレー)のインナー。**
両腕には拳を覆うようなガントレットが装着されている。
脚部にもオレンジの装甲が展開され、その姿はまさに戦うための鎧だった。
「え……?」
響は震える両手を見つめる。
「私……どうなっちゃったの?」
身体の奥から、知らない知識が流れ込んでくる。
歌。
戦い方。
身体の動かし方。
何も教わっていないはずなのに、すべてを知っているような感覚。
けれど、心は追いつかない。
「響!」
海斗の声が響いた。
響が顔を上げる。
白銀の装甲を纏った海斗が、アロンダイトを構えながらノイズと対峙していた。
「海斗……!」
「落ち着け!」
海斗は盾でノイズの一撃を受け止めながら叫ぶ。
「俺がいる!」
その一言だけで、不思議と胸の震えが少しだけ収まる。
幼い頃からそうだった。
転んだ時。
泣いた時。
怖い思いをした時。
海斗はいつも自分の前に立ってくれた。
「でも……!」
響の瞳には涙が浮かぶ。
「私……何が起きてるの?」
「こんなの……知らない!」
海斗はノイズを斬り払いながら叫ぶ。
「今は考えるな!」
「まずは生き残ることだけ考えろ!」
その瞬間。
四方からノイズが襲い掛かる。
「来る!」
ガギィィィン!!
白銀の盾が衝撃を受け止める。
一体。
二体。
三体。
次々と攻撃が降り注ぐ。
「くっ……!」
『契約者。』
アロンダイトが冷静に告げる。
『敵影、十二。』
『防御を優先せよ。』
「分かってる!」
海斗は盾を巧みに操りながら響の前へ立ち続ける。
剣は最小限。
徹底して守る戦い。
それが守護の剣、アロンダイトの戦い方だった。
「響!」
「俺の後ろから離れるな!」
「う、うん……!」
響は動けない。
身体は力に満ちている。
それなのに、心が拒絶していた。
(怖い……。)
(この力……怖い。)
その時。
一体のノイズが海斗の死角から飛び掛かった。
「海斗!」
響が叫ぶ。
海斗も気付く。
だが、正面のノイズを防いでいるため盾が間に合わない。
「しまっ――」
次の瞬間。
響の身体が勝手に動いた。
「え……?」
考えるより先に地面を蹴る。
拳が自然と振り抜かれる。
ドォォォォォン!!
オレンジ色の装甲に包まれた拳が、ノイズを一撃で吹き飛ばした。
「……え?」
響自身が一番驚いていた。
「私が……?」
ノイズを倒した。
何も分からないまま。
海斗は安堵したように笑う。
「ナイスだ、響。」
「違う!」
響は慌てて首を振る。
「私じゃない!」
「身体が勝手に動いたの!」
「それでもいい!」
海斗は再び迫るノイズを迎え撃ちながら叫ぶ。
「怖いなら怖いままでいい!」
「分からないなら分からないままでいい!」
「でも!」
「その力は、お前を傷つけるためのものじゃない!」
「誰かを守るための力だ!」
その言葉に。
響は自分の拳を見る。
オレンジ色のガントレット。
不思議と。
その拳は温かかった。
(守るため……。)
その時だった。
再びノイズが海斗へ襲い掛かる。
「海斗!」
響は迷わず駆け出した。
「やあぁぁぁぁっ!!」
拳が閃く。
一体。
二体。
三体。
次々とノイズが吹き飛んでいく。
響自身も驚いていた。
怖い。
それでも。
海斗を守りたい。
その気持ちだけで身体が動いていた。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
戦いが一瞬だけ途切れる。
響は息を切らしながら海斗を見る。
「私……。」
「戦ってる……。」
海斗は静かに頷いた。
「ああ。」
「でも無理はするな。」
「俺がお前を守る。」
その言葉に。
響は少しだけ笑った。
「……うん。」
幼い頃から変わらない。
海斗は、また自分を守ってくれた。
しかし今は違う。
自分にも、誰かを守れる力がある。
その時。
鋭い斬撃が空を切り裂いた。
キィィィン――!!
迫っていたノイズが一刀のもとに両断される。
「そこまでだ。」
凛とした女性の声。
青いシンフォギアを纏った一人の少女が、高台から静かに降り立った。
「翼さん……。」
海斗が小さく呟く。
ライブ事件以来、二年ぶりの再会だった。
翼は周囲のノイズを見渡し、そしてオレンジのシンフォギアを纏う響へ視線を向ける。
「……ガングニール。」
続いて、その隣に立つ白銀の騎士を見る。
「海斗君も来ていたのか。」
「司令から要請を受けました。」
海斗は短く答える。
翼は静かに頷いた。
「話は後だ。」
剣を構える。
「まずはこの場のノイズを殲滅する。」
白銀の守護騎士。
天を翔ける剣姫。
そして、目覚めたばかりのガングニール。
三人が並び立った時、新たな戦いの幕が静かに上がろうとしていた。