戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第十五話 守る理由

 

 

「……つまり、私の身体の中には、今もガングニールの欠片があるってことですか?」

 

響は自分の胸へそっと手を当てた。

 

二年前。

 

ツヴァイウィングのライブ会場。

 

あの時、胸に突き刺さった破片が、自分の人生を変えていた。

 

櫻井了子は静かに頷く。

 

「ええ。」

 

「検査の結果、ガングニールの欠片はあなたの身体と融合していることが分かったわ。」

 

「融合……。」

 

「だから、あの時シンフォギアを纏えたんですか?」

 

「その可能性が極めて高いわ。」

 

了子はモニターに映る検査結果を切り替えながら続ける。

 

「普通の人なら、聖遺物の破片を体内に取り込めば命を落としてもおかしくない。」

 

「でも、響ちゃんは二年間、その欠片と共存してきた。」

 

「そして今回のノイズとの遭遇をきっかけに、ガングニールが完全に起動したの。」

 

響は黙って話を聞いていた。

 

少しして、小さく口を開く。

 

「……じゃあ。」

 

「普通には戻れないんですか?」

 

その問いに、部屋の空気が重くなる。

 

了子は申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「……ごめんなさい。」

 

「今の私たちには、まだ分からないの。」

 

「そんな……。」

 

響は俯き、拳を握り締める。

 

高校へ入学したばかり。

 

これから始まると思っていた普通の日常。

 

それが、一日で大きく変わってしまった。

 

海斗はそんな響を見つめながら、胸が締め付けられる思いだった。

 

(やっぱり……。)

 

(この瞬間は変えられなかったか。)

 

しかし。

 

ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 

「立花響君。」

 

弦十郎が静かに口を開く。

 

「君にお願いがある。」

 

響は顔を上げた。

 

「お願い……ですか?」

 

「ああ。」

 

「君の力を貸してほしい。」

 

「え……?」

 

「ノイズはこれからも現れる。」

 

「そして現在、ガングニールを扱えるのは君しかいない。」

 

その言葉に、響は目を見開いた。

 

「む、無理です!」

 

立ち上がる。

 

「私、今日まで普通の高校生だったんですよ!?」

 

「戦うなんて……!」

 

「人を殴ることだってほとんどしたことないのに!」

 

「そんな私が戦うなんて、絶対無理です!」

 

震える声。

 

当然だった。

 

ほんの数十分前まで、ごく普通の女子高生だったのだから。

 

翼が静かに前へ出る。

 

「立花響。」

 

「戦え。」

 

響は思わず一歩後ろへ下がる。

 

「でも……!」

 

「逃げてもノイズは現れる。」

 

翼の声は冷静だった。

 

「君にしか救えない命がある。」

 

「それが現実だ。」

 

「そんなこと急に言われても!」

 

響の目に涙が浮かぶ。

 

「私は……。」

 

「私は……。」

 

その時だった。

 

「翼さん。」

 

海斗が二人の間へ入る。

 

「海斗君?」

 

翼が驚く。

 

海斗は静かに首を振った。

 

「これ以上はやめてください。」

 

「……何?」

 

「響は今日、初めて戦ったんです。」

 

「戦うことの意味も。」

 

「この力が何なのかも。」

 

「何一つ分かっていない。」

 

海斗は響を振り返る。

 

震えている。

 

無理もない。

 

「今、この場で答えを出せるわけがありません。」

 

部屋が静まり返る。

 

翼も反論しなかった。

 

海斗の言葉が間違っていないことは、彼女にも分かっていたからだ。

 

海斗は響の前へ歩み寄る。

 

「響。」

 

「……。」

 

「断ってもいい。」

 

その一言に、その場の全員が驚いた。

 

「海斗君?」

 

了子が目を丸くする。

 

弦十郎も腕を組んだまま黙っていた。

 

海斗はゆっくり続ける。

 

「戦うかどうかは、響が決めることだ。」

 

「誰かに言われて戦うものじゃない。」

 

「自分で決めなきゃ、きっと後悔する。」

 

響は海斗を見つめた。

 

幼い頃から変わらない。

 

海斗はいつだって、自分の意思を尊重してくれる。

 

「今日はもう帰ろう。」

 

「ゆっくり考えればいい。」

 

弦十郎も静かに頷いた。

 

「……そうだな。」

 

「今日一日で決めろとは言わん。」

 

「答えが出たら、いつでも連絡してくれ。」

 

 

二課本部を出る頃には、すっかり夜になっていた。

 

街灯が静かに道を照らしている。

 

響は俯いたまま歩いていた。

 

海斗も何も言わず隣を歩く。

 

しばらくして。

 

響がぽつりと呟いた。

 

「……怖い。」

 

海斗は歩みを止める。

 

「うん。」

 

「怖いよ。」

 

「私、今日まで普通だったのに。」

 

「急に戦えって言われても。」

 

「人を守れって言われても。」

 

「どうしたらいいのか分からない。」

 

涙が零れる。

 

海斗は静かに笑った。

 

「俺も怖い。」

 

「……え?」

 

響が驚いて顔を上げる。

 

「二年前からずっと怖い。」

 

海斗は夜空を見上げた。

 

「ライブの日。」

 

「お前が死ぬかもしれないって思った。」

 

「それからずっと。」

 

「またお前を失うんじゃないかって怖かった。」

 

響は何も言えなかった。

 

海斗がそんなことを考えていたなんて知らなかった。

 

「だから。」

 

海斗は優しく笑う。

 

「戦うって決めても。」

 

「戦わないって決めても。」

 

「俺はお前の味方だ。」

 

「……海斗。」

 

「それだけは絶対に変わらない。」

 

響の目から涙が溢れた。

 

「ありがとう……。」

 

 

帰り道。

 

二人は自然と、幼い頃によく遊んだ公園へ足を運んでいた。

 

砂場。

 

ブランコ。

 

あの日と変わらない景色。

 

響は砂場を見つめながら、小さく笑う。

 

「ここで初めて会ったんだよね。」

 

「ああ。」

 

「私、泥団子作ってた。」

 

「服まで泥だらけだったな。」

 

「もう!」

 

二人は少しだけ笑った。

 

沈んでいた空気が少しだけ軽くなる。

 

やがて。

 

響が真剣な表情になる。

 

「……ライブの日。」

 

「私、小さい女の子を助けたんだ。」

 

海斗は静かに頷く。

 

「覚えてる。」

 

「怖かった。」

 

「でも。」

 

「助けられて良かったって思った。」

 

夜風が二人の間を吹き抜ける。

 

「もし。」

 

「また誰かが泣いていたら。」

 

「また誰かが助けを求めていたら。」

 

響は胸へ手を当てた。

 

「私は……。」

 

「助けたい。」

 

海斗は優しく笑った。

 

「それでいい。」

 

「守りたいって気持ちだけは忘れるな。」

 

響は大きく頷く。

 

「うん。」

 

その瞳から迷いが少しずつ消えていく。

 

 

その夜。

 

自宅へ戻った響は、自室で携帯電話を握り締めていた。

 

画面には、一枚の名刺。

 

**風鳴弦十郎**

 

深呼吸を一つ。

 

そして、電話を掛ける。

 

『風鳴だ。』

 

「立花響です。」

 

少しだけ間が空く。

 

響は胸に手を当て、小さく息を吸った。

 

「私……。」

 

「まだ怖いです。」

 

「でも。」

 

「誰かを守れる力なら。」

 

「逃げたくありません。」

 

「私にできることがあるなら……。」

 

「戦わせてください。」

 

電話の向こうで、弦十郎は静かに微笑んだ。

 

『――ありがとう。』

 

その一言が、新たな奏者としての第一歩となった。

 

そして海斗もまた、自室で夜空を見上げながら静かに呟く。

 

「これからが、本当の始まりだ。」

 

守護の剣と、歌姫。

 

二人の運命は、ここから本格的に交わり始めるのだった。

 

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