戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
最近、海斗には一つの習慣ができていた。
放課後になると、自然と街へ足を向ける。
理由は単純だった。
「……遅い」
待ち合わせをした覚えなどない場所で、少女はいつものように待っていた。
白い髪、鋭い目つき、近寄りがたい雰囲気。
しかし、以前とは違う。
その表情には、わずかに柔らかさがあった。
「待ってたのか?」
海斗が聞くと、クリスはすぐに顔を背ける。
「……違う、偶然だ」
「偶然ねぇ?」
「そうだ!」
「じゃあ帰るかな」
「……」
沈黙。
数秒後。
「……飯」
小さな声。
海斗は思わず笑った。
「やっぱり待ってたんじゃないk「うるさい!」」
クリスは少しだけ頬を赤くする。
「腹が減ってただけだ!」
「はいはい」
そんなやり取りができるようになったこと。
それだけで、海斗には十分だった。
以前の雪音クリスなら。
誰かに頼ることなど絶対にしなかった。
自分一人で抱え込んで。
自分一人で傷ついて。
それでも強がっていた。
だけど今は。
少しだけ違う。
海斗といる時だけは。
ほんの少しだけ、普通の少女でいられる。
「これ、取れた」
ゲームセンターから出たクリスが、小さなぬいぐるみを持っていた。
「クリス、そういうのが好きなのか?」
「違う!」
即答。
「たまたま取れたんだ!!」
「でも他にも取れそうなのあるじゃん」
「……」
クリスはぬいぐるみを見る。
捨てる理由もない。
でも、持っていることを認めるのは少し恥ずかしい。
「……悪いかよ」
「悪くないだろ」
海斗は笑った。
「俺は似合ってると思うぞ」
「……」
クリスは一瞬固まる。
そして。
「だから、そういうこと、普通に言うな」
「え?」
「……本当に変な奴」
そう言いながら。
クリスは少しだけ笑っていた。
海斗はその笑顔を見るたびに思う。
この時間を守りたい。
でも。
同時に分かっている。
この少女が。
近い未来、敵として現れることを。
(原作では……クリスは一人だった)
(誰にも頼れなくて)
(誰にも本当の気持ちを見せられなかった)
だからこそ。
海斗は決めていた。
もう同じ未来にはしない。
---
その日の夜。
クリスは一人、暗い部屋にいた。
机の上には、昼間取ったぬいぐるみ。
「……」
こんなもの。
自分には必要ないと思っていた。
戦うためなら。
感情なんて邪魔だった。
でも。
「……」
海斗といる時間だけは。
何も考えなくてよかった。
戦士でもなく。
道具でもなく。
ただの雪音クリスでいられた。
その時。
通信機が鳴る。
「……」
クリスの表情が変わる。
分かっていた。
この時間が永遠ではないことを。
『雪音クリス』
機械越しの声。
「……はい」
『任務を伝えるわ』
クリスは目を伏せる。
嫌な予感がした。
『シンフォギア装者への攻撃よ』
その言葉に。
手が止まる。
「……」
『返答は?』
クリスは拳を握った。
「……了解」
そう答えるしかなかった。
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翌日。
二課本部。
警報が鳴り響く。
《未確認シンフォギア反応を確認!》
「シンフォギア反応?」
響が立ち上がる。
翼もすぐに表情を変えた。
「新たな装者……」
櫻井了子がモニターを見る。
「反応地点は市街地」
その瞬間。
海斗の胸元。
アロンダイトの欠片が淡く光った。
『対象反応を確認』
機械的な声。
『過去接触した生命体と一致』
海斗の表情が固まる。
響が振り返る。
「海斗?大丈夫?」
響の問い。
海斗は答えなかった。
---
市街地。
そこに少女はいた。
「……」
クリスは黙って立っている。
その姿を見た瞬間。
海斗の胸が痛んだ。
昨日まで。
一緒に笑っていた少女。
今は。
敵として立っている。
「クリス…」
翼が構える。
「お前は何者だ」
クリスは答えない。
響も警戒する。
「どうして……」
その声に。
クリスの目が揺れる。
「……海斗か」
小さな声。
「なんで」
「なんでお前がここにいる」
海斗は一歩前へ出る。
「クリス」
名前を呼ぶ。
「俺は……」
言葉を選ぶ。
未来を知っている。
そんなことは言えない。
だから。
今、自分が感じていることを伝える。
「なぜ、お前がこんなことをしているかは分からない」
「だけど!」
「お前が、本当はこんなことをしたい奴じゃないって知ってる」
クリスの表情が歪む。
「……」
「何も知らないくせに…」
「分かったようなこと言うな!」
海斗は首を振る。
「分からない」
「でも」
「俺は見てきた」
「一緒に飯を食べて」
「笑って」
「普通に話した」
「そのクリスが、誰かを傷つけることだけを望んでるとは思えない」
「……馬鹿だな」
小さく呟く。
「お前……本当に馬鹿だ…」
---
次の瞬間。
クリスから肩部より伸張する鞭が放たれる。
「ッ!アロンダイト!」
海斗はペンダントを握る。
白銀の光が広がる。
「Vox mea fit scutum, cor meum fit custos――」
白銀の装甲。
左腕に展開される盾。
「Arondight」
巨大な衝撃が盾を打つ。
しかし。
海斗は一歩も下がらない。
「……なんで」
クリスが呟く。
「なんで防ぐんだよ。反撃してこいよ。」
海斗は盾を構えたまま答える。
「守るって決めたから」
「…お前は敵じゃない」
アロンダイトが静かに反応する。
『防御行動を確認』
『対象生命への敵意なし』
---
クリスの動きが止まる。
「……」
「なんで」
「なんで私なんかを」
海斗は答える。
「それはお前が雪音クリスだからだよ」
その言葉に。
少女の瞳が揺れる。
「……」
「そんなこと言う奴…初めてだ」
---
その時。
通信が入る。
『雪音クリス』
『撤退しろ』
クリスは拳を握る。
「……」
最後に海斗を見る。
「お前、本当に変な奴だな」
そして。
クリスはその場から姿を消した。
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戦闘終了後。
響は海斗を見る。
「海斗」
「…」
「どうして?」
「…」
海斗は少し黙る。
そして。
「知り合いなんだ。」
「でも」
「助けたいと思ったから」
響はその答えを聞いて。
少しだけ笑う。
「……海斗らしい」
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夜。
海斗はアロンダイトの欠片を見る。
「……」
『理由を求める』
海斗は答える。
「敵だからって、クリスを助けない理由にはならない」
『……』
「俺は後悔したくないんだ」
アロンダイトは静かに光る。
『記録』
『契約者の判断を保存』
海斗は空を見る。
まだ終わっていない。
クリスを救う戦いは。
これから始まる。