戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
佐々木海斗は、未来を知ってしまった。
それは、決して幸運なことではなかった。
むしろ――呪いに近い。
朝起きれば思い出す。
テレビをつければ不安になる。
街を歩けば、いつノイズが現れるのかと考えてしまう。
「……最悪だな。」
布団の中で、海斗は小さく呟いた。
前世の記憶。
『戦姫絶唱シンフォギア』という物語。
そこに登場する少女たちの運命。
海斗は知っている。
この世界が、ただの平和な日常では終わらないことを。
やがて現れるノイズ。
ツヴァイウィングの悲劇。
そして――立花響が背負うことになる過酷な戦い。
「……でも。」
海斗は拳を握る。
「まだ、何も起きていない。」
そう。
未来はまだ確定していない。
響はまだ、普通の女の子だ。
毎日笑って。
転んで。
遊びに誘ってくる。
なら。
今できることをするしかない。
◇
「かいとー!」
玄関の外から、聞き慣れた声が響く。
海斗が扉を開けると、そこにはいつもの笑顔。
「おはよう!」
「おはよう、響。」
「今日は公園行こう!」
「昨日も行ったよね?」
「楽しいから!」
即答だった。
海斗は思わず笑ってしまう。
本当に変わらない。
未来で世界を救う少女も。
今はただ、遊びが大好きな五歳の女の子だった。
「ほら、早く!」
響に手を引かれる。
その小さな手を見ながら、海斗は思う。
(絶対に、この手を離さない。)
◇
公園。
響はいつものように走り回っていた。
「かいと! 見て!」
「何?」
「大きな葉っぱ!」
「……うん。」
「すごいでしょ!」
「すごいね。」
「もっと驚いて!」
「えぇ……。」
そんな何気ない会話。
前世の記憶を取り戻す前なら、ただ楽しいだけだった。
しかし今は違う。
海斗には、この時間がどれほど貴重なのか分かってしまう。
未来では。
響は何度も泣く。
何度も傷つく。
それでも立ち上がる。
だから。
せめて今だけは。
この笑顔を守りたい。
「ねえ、かいと。」
「ん?」
響が不思議そうに顔を覗き込む。
「最近、ちょっと変。」
海斗の心臓が跳ねる。
「変?」
「うん。」
響は首を傾げる。
「前より、遠くを見る顔してる。」
五歳児とは思えない言葉だった。
海斗は少し驚く。
やっぱり。
響は昔から、人の心を見るのが上手い。
「……ちょっと考え事してただけ。」
「悩み?」
「まあ、そんな感じ。」
すると響は真剣な顔になった。
「じゃあ、私にも言って。」
「え?」
「一人で悩むの、よくないよ。」
その言葉に、海斗は何も返せなかった。
未来で。
響が多くの人を救った理由。
それは、きっとこういうところなのだろう。
誰かの痛みに気づける。
誰かの孤独を放っておけない。
そんな優しさ。
「ありがとう。」
海斗は笑った。
「でも、大丈夫。」
「ほんと?」
「うん。」
そして心の中で続ける。
(響がいるから、大丈夫なんだ。)
◇
その夜。
海斗は自分の部屋で机に向かっていた。
ノートを開く。
そこには大量のメモ。
ノイズ。
聖遺物。
シンフォギア。
装者。
未来の出来事。
自分が覚えている限りを書き出している。
「情報が足りない。」
前世の記憶は完璧ではない。
何もかも覚えているわけではない。
だからこそ。
できることは限られている。
「まずは知ることだ。」
未来を変えるなら。
敵を知る。
味方を知る。
そして――。
自分に何ができるかを知る。
その時だった。
ピキッ。
小さな音。
机の引き出し。
海斗が開ける。
そこには、いつから入っていたのか分からない古びたペンダント。
銀色の装飾。
中央には、欠けた剣のような紋章。
「……これ。」
なぜか知っている。
いや。
知らないはずなのに、理解できる。
これは。
「聖遺物……?」
触れた瞬間。
部屋が青白い光に包まれた。
聞こえるはずのない声。
けれど確かに。
頭の奥へ響いた。
――我は守護の聖剣"アロンダイト"。
――汝。
――何を求める。
海斗は息を飲む。
これは夢じゃない。
アロンダイト。
守護の聖剣。
まだ完全には目覚めていない。
だが。
確かに自分へ反応している。
「……俺は。」
声が震える。
力が欲しい。
そう言えばいいのかもしれない。
でも違う。
海斗が求めているものは。
「守る力が欲しい。」
「誰かを傷つけるためじゃない。」
「響を……守るための力が欲しい。」
沈黙。
数秒。
そして。
かすかな光。
――資格を確認。
海斗は目を見開く。
――契約候補として認識。
光は消える。
残ったのは、静かな部屋だけだった。
「……候補?」
まだ選ばれていない。
まだ力はない。
それでも。
一歩進んだ。
◇
遠く離れた場所。
とある研究施設。
一つの聖遺物が反応を示していた。
研究員が慌てて画面を見る。
「っ!司令!アロンダイトが……」
「反応しています!」
「何!?誰が適合した?」
研究員は首を振る。
「まだ不明です。」
しかし。
画面に表示された反応地点。
そこには一人の少年の名前があった。
佐々木海斗。
守護の聖剣は、まだ眠っている。
だが。
その眠りは、確実に終わりへ向かっていた。
――未来を変えようとする少年。
――世界を救う少女。
二人の運命は、少しずつ重なり始めていた。