戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
特異災害対策機動部二課の司令室へと帰還した海斗と響を待っていたのは、重苦しい沈黙だった。クリスがネフシュタンの鎧を纏う敵であったこと、そして海斗が彼女と私的に接触していたこと――その事実は、二課の面々にも大きな衝撃を与えていた。
「……海斗君。君が彼女――雪音クリスと知り合いだったというのは本当かね?」
風鳴弦十郎の厳格な声が、司令室に響く。
海斗は真っ直ぐに弦十郎を見つめ、迷うことなく頷いた。
「はい。偶然街で出会って、何度か言葉を交わしました。彼女は……利用されているだけです。」
「しかし、彼女がノイズを操り、多くの人々を危険に晒した事実は変わらん。それに、ネフシュタンを奪った主犯の可能性も高いのだぞ」
「それでもです!」
海斗の声が自然と大きくなる。原作の知識があるからではない。実際にクリスと触れ合い、その不器用な優しさに触れたからこそ、彼女を救いたいと心から願っていた。
「俺は、彼女の目を覚まさせます。」
その強い言葉に、弦十郎は一つ溜息をつき、それ以上の追及を止めた。少年の瞳に宿る覚悟が、かつての高潔な騎士たちのそれと同じだと感じ取ったからだ。
二課からの帰り道、海斗と響の間には、今までにない奇妙な壁ができていた。
いつもなら「海斗、お腹空いたよー!」と無邪気に笑いかけてくる響が、俯いたままトボトボと歩いている。
「響、どうかしたか?」
海斗が声をかけると、響はビクッと肩を揺らし、無理に作ったような笑顔を浮かべた。
「え? あ、ううん! なんでもないよ! ちょっと今日の戦いで疲れちゃっただけ、かな……」
「そうか? 無理はするなよ」
「うん……。ねえ、海斗」
響は歩みを止め、海斗の背中に向かって問いかけた。その声は小さく、今にも消え入りそうだった。
「海斗にとって、あの……クリスちゃん、だっけ。彼女は、そんなに大切な人、なの?」
海斗は振り返り、響の不安げな瞳を見つめる。
「ああ。俺にとっては、お前たちと同じくらい、放っておけない存在だ。あいつは、一人で傷つく必要のないことで、ずっと苦しんできたんだから」
「……そっか」
響はそれ以上、何も言わなかった。
海斗の言葉はどこまでも正しく、そして優しい。
けれど、その「優しさ」が自分だけのものではなく、新しく現れた敵の少女にも向けられているという事実に、響の胸は激しく締め付けられていた。
(海斗の一番近くにいるのは私だと思ってたのに……)
自覚のない独占欲と、海斗を信じきれない自分への嫌悪感が、響の心の中で黒く渦巻いていく。
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一方、二課の監視の目をかいくぐった地下アジトでは、ネフシュタンの呪縛から解放されたクリスが、冷たい床に膝をついていた。
激しい息の乱れと共に、彼女の脳裏には海斗の真っ直ぐな言葉が何度もリフレインしていた。
『お前が、本当はこんなことをしたい奴じゃないって知ってる』
「あいつ……なんなんだよ……。あたしは、敵なんだぞ……。優しくなんか、するなよ……!」
膝を抱え、涙を堪えるように身を震わせるクリス。
その背後に、コツコツと不気味な足音が近づいてくる。
「おやおや、随分とセンチメンタルになっているのね、クリス」
闇の中から現れたのは、妖艶な笑みを浮かべる女――フィーネだった。
「フィーネ……っ」
「まさか、あの白銀の騎士に心を奪われたわけではあるまい? 彼は私たちの計画を阻む、忌むべき光の残滓。次に出会った時は、その手で確実に葬り去りなさい」
「う、うるさい! あたしに命令するな!」
クリスは言い返そうとするが、フィーネの瞳が怪しく光った瞬間、ネフシュタンの鎧を通じて激しい激痛が彼女の身体を襲った。
「うあああぁぁぁっ!?」
「忘れないことだ、クリス。お前には帰る場所も、愛してくれる者もいない。私だけが、お前の主(あるじ)なのだから」
冷酷な言葉がクリスの心を蝕んでいく。
海斗が差し伸べてくれた温かい手の記憶が、フィーネの闇によって塗りつぶされようとしていた。
運命の歯車は、少年と少女たちの想いを置き去りにしたまま、さらに加速していく――。