戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
特異災害対策機動部二課のブリーフィング室は、広木防衛大臣殺害という最悪の凶報により、かつてない重圧に包まれていた。
メインモニターに映し出された凄惨な現場の映像を前に、風鳴弦十郎は腕を組み、険しい表情で沈黙を守っていた。その胸中は激しく波立っている。政府の最高機密である大臣の動静がこれほど正確に狙われた。それは、二課の内部、あるいは政府中枢に『内通者』が潜んでいることを明確に示していた。
だが、弦十郎はその疑念を今は決して表には出さない。
ここで組織を揺るがせば、敵の思うツボだからだ。
了子が痛ましげな表情を作るのを、海斗は密かに冷ややかな目で見つめていた。
「皆、動揺するな。敵の真の狙いはすでに判明している」
弦十郎は声を絞り出すようにして、画面を切り替えた。
そこに表示されたのは、厳重に封印された巨大な大剣
──完全聖遺物『デュランダル』。
「奴らの目的はこのデュランダルの強奪だ。本部に保管しておくのは危険と判断し、これより指定の秘密格納庫への緊急移送計画を開始する」
原作のタイムラインであれば、この場にいる装者は翼と響の二人だけだった。しかし、海斗の『聖域治癒』によって一命を取り留めた天羽奏がここにいる。
今回の移送作戦は、翼、響、奏、そして海斗を入れた『四名体制』、さらに複数のダミーを含む護衛車列を伴う厳重な布陣で執り行われることとなった。
◇
「まさか、あたしまで前線任務に駆り出されるとはねぇ」
装甲を施された護衛車の一台。助手席に座る奏が、退屈そうに窓の外を眺めながら不敵に笑う。
「奏さん、まだ病み上がりなんですから大人しくしていてください。今回はあくまで警戒任務です」
後部座席に座る海斗は、周囲の警戒を怠らずに苦笑した。この車には二人の他に、数名の二課のエージェントが同乗している。
車列が山間の寂しい防衛専用道路に差し掛かった、その時だった。
──ドゴォォォン!!!
「なっ……!?」
激しい爆発音と共に、海斗たちの乗る護衛車の下部から凄まじい炎が噴き上がった。仕掛けられていた地雷。衝撃で車体が大きく宙に浮き、車内が激しく潰れかける。
「みんな!!」
咄嗟に海斗は叫び、白銀の聖遺物『アロンダイト』の欠片を掲げた。
「Vox mea fit scutum──!!」
瞬間、車内に展開された白銀のエネルギーシールドが、押し寄せる爆風と引き裂かれた鉄板を完璧に遮断する。海斗の絶対防壁により、同乗していた二課のエージェントたちは奇跡的に全員無傷で守られた。
「チッ、待ち伏せかよ!」
奏が即座にドアを蹴り開け、外へ飛び出す。通信機からは、先行していた響の焦燥した声が響いた。
『海斗! 奏さん! 大丈夫!? 今すぐそっちに──』
「響、来るな! 俺たちは無事だ! だけど、他の護衛車も一斉に襲われてる。敵の狙いは本命のデュランダルだ、お前たちは先に行け!」
海斗はエージェントたちを安全な路肩へ誘導しながら、インカムに向かって鋭く指示を飛ばす。
『でも……!』
『立花、海斗の言う通りだ! 私たちが遅れれば奴らの思う壺になる、急ぐぞ!』
翼の厳しい声に押され、響は『お願い、無事でいて……!』と祈るように叫びながら、デュランダルを積んだ本隊と共に加速していった。
◇
襲撃してきたノイズの残党を奏と共に迅速に処理した海斗は、遅れを取り戻すべく、エネルギーの残滓を追って激しく駆けた。
たどり着いたのは、移送ルートの先にある、不気味に静まり返った広大な科学工場だった。
「響……! 翼さん!」
工場の巨大な格納庫の扉を押し開けた海斗は、その場に広がっていた光景に息を呑んだ。
周囲には、叩き伏せられた二課の防衛部隊。そして中央には、本来なら厳重に封印されているはずの、目も眩むような輝きを放つ大剣──デュランダルが。
それを、小さな両手で固く握りしめているのは、
立花響だった。
「ああああ、あああああああーーーーーっ!!!』
響の口から、人間のものとは思えない、狂気的な咆哮が轟く。
彼女の纏うガングニールの装甲は、デュランダルから溢れ出る莫大な、そして制御不能なエネルギーを吸収し、禍々しく変形を始めていた。瞳からは理性が消え失せ、ただ破壊の衝動だけが彼女の身体を突き動かしている。
「響……! 嘘だろ、もう暴走が……!?」
原作の知識を持つ海斗の目から見ても、そのエネルギーの暴風は凄まじかった。聖遺物との過剰適合が引き起こした力の暴走。手にしたデュランダルを振り回し、全方位へ破壊の光を撒き散らす幼馴染の姿を前に、海斗はアロンダイトの盾を強く握り締め、覚悟を決めるように一歩を踏み出した。