戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「ああああ、あああああああーーーーーっ!!!」
科学工場の広大な格納庫に、理性を失った立花響の咆哮が木霊する。完全聖遺物『デュランダル』から溢れ出る莫大なエネルギーを吸い上げ、禍々しく変形していくガングニールの装甲。彼女が手にした大剣を無差別に振り下ろすたび、絶対的な破壊の光が全方位へと撒き散らされていた。
「響──っ!!」
海斗は前に飛び出し、聖詠と共に白銀の大盾を限界まで展開する。
「Vox mea fit scutum──!!」
ドゴォォォン!!!
直撃するデュランダルの奔流。世界を切り裂くほどの衝撃が海斗の両腕を襲い、足元のコンクリートが蜘蛛の巣状に激しく砕け散る。アロンダイトの絶対防壁がなければ、一瞬で消滅していてもおかしくない力。海斗は歯を食いしばり、必死に盾を支え続けた。
「チッ、なんて馬鹿げた出力だよ……! おい海斗、あたしも行くよ!」
追いついた天羽奏が、槍型のギア『ガングニール』を構えて前に出ようとする。しかし、海斗は盾の背後から鋭い声でそれを制した。
「ダメだ、奏さん! 下がっていてくれ! あなたの身体はまだ病み上がり……適合係数だって安定していないんだ! これ以上の負荷をかけたら、今度こそ本当に命に関わる!」
「うるさいよ! 仲間が目の前で狂いかけてるんだ、黙って見てられるかってんだよ! 二年前、あんたに拾ってもらったこの命……ここで使わなきゃ、いつ使うんだ!!」
奏は海斗の静止を振り切り、強引にステップを踏み出そうとする。
その瞬間──海斗の胸の奥で、アロンダイトの核がかつてないほどに熱く、激しく明滅した。
(守るんだ……! 暴走する響も、無理をしようとする奏さんも、この場にいる全員を、俺の盾で……絶対に!!)
海斗の強い守護の意思に呼応し、アロンダイトから目も眩むような純白の光が溢れ出した。眩い粒子が、まるで戦場全体を包み込むように優しく拡散していく。
『──聖域治癒(サンクチュアリ・ヒール)──』
それは二年前、奏の命を救った奇跡の力。しかし今回は違った。海斗のフォニックゲインがアロンダイトと同調し、奏の体内へ直接、純粋なエネルギーとして流れ込んでいく。
「なっ……、これは……!?」
奏の瞳が驚愕に見開かれる。彼女の胸の奥から、今までにないほどに澄み渡った歌声──フォニックゲインが爆発的に急上昇を始めたのだ。LiNKERの拒絶反応が完全に消失し、ガングニールの装甲が全盛期以上の輝きを取り戻していく。
「響を助けたい」という奏の激しい想い。
そして「誰も死なせない」という海斗の誓い。
二人の装者の意思がフォニックゲインを通じて完璧にシンクロした瞬間、海斗のアロンダイトにも、かつてない莫大な力が漲った。大盾の表面に、神聖な騎士の紋章が浮かび上がる。
「奏さん、合わせてくれ! 響を、あの剣から引き離す!」
「応よ! 最高の舞台じゃないの、いくよ海斗──っ!!」
光り輝く奏の槍が、デュランダルの光の奔流を真っ二つに切り裂き、最短ルートを抉じ開ける。その直後、海斗がアロンダイトの大盾を構えて突撃し、響の懐へと飛び込んだ。
「響──! 戻ってこい!!」
アロンダイトの守護の波動が、デュランダルを包み込む。溢れ出ていた昏き輝きが、海斗の盾によって強引に抑え込まれ、中和されていく。
やがて、大剣から響の手が離れ、ガングニールの装甲が解けた。
「う、あ……」
理性を常軌を取り戻した響の身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。海斗はそれを優しく受け止め、静かに床へと横たわらせた。
◇
激闘の嵐が去り、静寂を取り戻した科学工場。
二課の救護班が一斉に突入し、倒れていた防衛部隊の搬送が始まっていた。海斗の絶対防壁と聖域治癒の恩恵により、この未曾有の暴走劇における『死者は0人』。奇跡的な収拾を見せた。
安堵の空気が広がる中、格納庫の端で、海斗と風鳴弦十郎は並んでその光景を見つめていた。
弦十郎の視線は、救護活動の指示を出している一人の女性──櫻井了子へと向けられている。その顔は、いつもの豪快な司令のそれではなく、冷徹な武人のものだった。
「……海斗。お前も気づいているな」
弦十郎が、他者に聞こえないほどの低い声で呟く。
「はい、司令。今回の急襲……あまりにも敵の動きに無駄がなさすぎます。移送ルート、そしてデュランダルの封印解除コード。それらを知り得る者は、二課の内部でもごく僅かです」
二人の視線の先で、了子が悲痛な面持ちで負傷者に声をかけている。
しかし、不自然な点が一つだけあった。防衛部隊が壊滅し、装者たちがボロボロになって戦ったこの過酷な戦場において。
櫻井了子、彼女だけが、服の埃一つ汚れず、完全に『無傷』のままそこに立っていた。
(しっぽを出したな、フィーネ。あんたがどれだけ完璧に被害者を演じようと、その不自然さは隠せない)
海斗はアロンダイトの欠片をポケットの中で握りしめ、了子の背中を鋭く睨みつける。弦十郎の拳も、静かに、しかし固く握られていた。
ついに始まった、身内に潜む巨悪への疑念。二課の本当の戦いは、ここから始まろうとしていた。