戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第二十四話 引き裂かれる心

 

 

 特異災害対策機動部二課のラボ。深夜、誰もいない室内に、モニターの冷たい光だけが明々と灯っていた。

 

 画面に映し出されているのは、先日の科学工場での戦闘データ。特に、佐々木海斗の纏う『アロンダイト』が放った、あの純白の光──『聖域治癒(サンクチュアリ・ヒール)』の波形データだった。

 

「ふふ……、あはははは! 素晴らしい、素晴らしいわ、アロンダイト……!まさかここまでとは思わなかったわ!」

 

 誰もいない室内で、櫻井了子──フィーネは狂気的な歓喜の声を漏らし、狂おしそうに画面を指でなぞった。

 

データが示していたのは、驚くべき真実。

 

アロンダイトの放った守護の波動は、天羽奏のフォニックゲインを爆発的に上昇させ、LiNKER(リンカー)による肉体への拒絶反応を完全に無効化していた。

 

(この力があれば……劇薬(LiNKER)など使わずとも、あらゆる聖遺物の適合率を無制限に引き上げ、都合のいい人形として機能させられる可能性がある。何より、あの気高き『騎士の盾』の特性……私だけのものにしたいわ……!)

 

 フィーネの肉体に刻まれた先史文明の情動が、海斗の持つイレギュラーな力、そして彼そのものへの歪んだ執着へと変貌していく。

 

 了子は即座に通信を開き、潜伏先にいる雪音クリスへ冷徹な、しかしどこか弾んだ声で命じた。

 

「クリス。次の作戦だけど、ガングニールの出来損ないや風鳴翼は放っておきなさい。……『佐々木海斗』、あの少年を、生かしたまま私の元へ攫ってきなさい。傷一つ、つけてはダメよ?」

「……は? あいつを……?」

 

 通信の向こうで、クリスは呆然とした声を上げた。

 

 画面越しでもわかるほど、海斗のデータを見てお熱になっているフィーネの姿。それを見たクリスの胸の奥に、言葉にできない不快感──そして激しい嫉妬の炎がチリチリと燃え上がった。

 

(なんなんだよ、あいつばっかり……!フィーネがあんな顔するなんて……。だけど……)

 

 クリスの脳裏に、「お前を一人にしない」と叫び、自分を文字通り命懸けで守ろうとした海斗の必死な眼差しが過る。

 

(あいつは、あたしを『雪音クリス』として見てくれた。そんなあいつを、本当に攫って、フィーネの実験体にさせなきゃいけないのか……?)

 

 心に生じた小さな疑問の楔が、クリスの引き金を重くさせていた。

 

 

 翌日の午後。

 

 フィーネの命令に葛藤を抱えたまま、クリスは素顔を隠すようにフードを深く被り、賑わう町中を目的もなく歩いていた。行き交う幸せそうな人々が、孤独な自分の心をさらに締め付ける。

 

「あ……」

 

 雑踏の向こうから歩いてくる人影を見て、クリスは思わず足を止めた。

 

 白の私服に身を包んだ、佐々木海斗だった。二人の視線が、不意に真っ直ぐ交錯する。

 

「──ッ!?」

 

 クリスは全身の血が逆流するほどの衝撃に動揺し、咄嗟に魔弓『イチイバル』のペンダントに手をかけようとした。

 

しかし、海斗は慌てて両手を挙げ、穏やかな苦笑いを浮かべて首を振った。

 

「待ってくれ、クリス。ここは町中だ。見ての通り、俺は戦うつもりなんてないよ。……少し、話さないか?」

 

 海斗の落ち着いたトーンに、クリスは毒気を抜かれたように腕を下ろした。周囲は一般の買い物客で溢れている。ここでシンフォギアを纏えば、大惨事になるのは目に見えていた。

 

「……チッ。一時停戦だ。変な真似したら、ぶち殺すからな」

 

 フンと顔を背けるクリスを連れて、海斗は少し開けた広場のベンチへと移動した。

 

「……何だよ。あたしはテロリストなんだぞ。捕まえるなら今なんじゃないのか?」

 

 並んでベンチに座りながら、クリスは膝の上の拳を握りしめ、突っぱねるように言った。海斗は静かに、彼女の横顔を見つめる。

 

「俺は、お前を捕まえるために戦ってるんじゃない。……クリス、もうこんなことは止めろ。町中でノイズを呼び出して、罪のない人たちを巻き込むのも、響たちと傷つけ合うのも、もう終わりにするんだ」

 

「うるさいッ……! あんたに何がわかるんだよ!」

 

 クリスは悲痛な声を絞り出す。

 

「あたしには……こうするしか、居場所がないんだ! あいつの言う通りに動かなきゃ、あたしは……!」

 

「居場所なら、俺が作る。お前が一人で泣かなくていい場所を、絶対に。だから──」

 海斗の真っ直ぐな言葉が、クリスの頑なな心を激しく揺さぶる。

 

 了子への恐怖と依存、海斗が差し伸べてくれる温かい手。その狭間で、クリスは激しく悩み、どうしても納得の答えを出せずに唇を噛み締めて俯いた。

 ──その時、二人のいる広場の空間が、不気味に歪んだ。

 

「──え?」

 

 けたたましい警報音が町中に響き渡るのと同時に、空間の裂け目から、あの赤く禍々しい『認定特異災害ノイズ』の群れが、突如として町中に出現した。悲鳴を上げて逃げ惑う人々。

 

「ノイズ……!? クソ、どうしてこんなタイミングで……!」

 

 海斗が即座に立ち上がる。

 

クリスもまた、驚愕に目を見開いていた。このノイズの出現は、彼女の意志ではない。すなわち、櫻井了子が仕組んだ『強制的な強襲』であることを意味していた。

 

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