戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
突如として街中に溢れ出したノイズの群れ。逃げ惑う人々の悲鳴が響き渡る中、広場の中心に、一人の女性が空間を歪めながら姿を現した。
「本当に使えない子ね、クリス」
──櫻井了子。いや、その肉体を完全に主導する先史文明の意志──フィーネだった。
彼女はいつもの白衣ではなく、禍々しい輝きを放つ完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』をその身に纏っていた。
「フィーネ……?」
海斗の傍らで、クリスが呆然と声を漏らす。
フィーネはクリスを一瞥すら見ようとせず、冷酷な眼差しを海斗へと固定したまま、苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。
「ちんたらちんたらと……。命令したはずよ、さっさとその少年(海斗)を私の元へ連れてきなさいと。まさか、おままごとのデートに現を抜かしているとは思わなかったわ。……もういいわ、クリス。あなたには失望した。──お前みたいな出来損ない、もういらないのよ」
「え……」
クリスの身体が、目に見えて凍りついた。
『もういらない』──かつて両親を亡くし、過酷な戦場を彷徨い、ようやく手に入れたはずの居場所。それが、ただの使い捨ての道具として完全に否定された瞬間だった。クリスの瞳から光が消え、大粒の涙が頬を伝って零れ落ちる。
しかし、フィーネの容赦ない罵詈雑言は止まらない。
「所詮は拾い物の野良犬ね。親の顔が見てみたいわ。あぁ、そういえば親は、とっくに無駄死にしていたかしら? 愚かで無価値な──」
「──黙れ」
地を這うような、低い声だった。
フィーネの言葉を遮ったのは、佐々木海斗だった。
彼の全身から、これまでに見せたことのないほどに濃密で、圧倒的なフォニックゲインが ── 怒りのエネルギーが立ち上っていた。
「……海斗?」
涙を流したまま、クリスが顔を上げる。
海斗の拳からは、あまりの怒りの強さに血が滲んでいた。原作を知る彼だからこそ、クリスの過去も、その心の傷もすべて知っている。それを、この目の前の狂信者は、ただの道具として踏みにじった。
「他人の痛みを踏み躙り、その孤独を利用し……挙句の果てに、その心をオモチャのように切り裂く。了子……いや、フィーネ!! アンタだけは、絶対に許さないっ!!!」
海斗の逆鱗が、世界の理を震わせる。ポケットから取り出した白銀の欠片が、彼の咆哮に呼応して眩い光を放った。
「──Vox mea fit scutum, cor meum fit gladius──Arondight──ッ!!」
聖詠と共に、白銀の気高き装甲と蒼いマントが海斗の身体を包み込む。左手には守護の盾、右手には、これまでは召喚していなかった黒く輝く『聖剣アロンダイト』が握りしめられていた。
「クリスは……俺が守る! これ以上、お前の好きにはさせない!」
海斗は左手の大盾を構えて突撃し、右手の剣を真っ直ぐにフィーネへと向け、大地を爆砕しながら駆け出した。
「ノイズども!あの不遜な騎士を止めなさい!」
フィーネの合図で、無数のノイズが海斗へと群がる。しかし、ブチ切れた海斗の突進は止まらない。迫り来るノイズを聖剣の一閃で消滅させ、大盾で弾き飛ばしながら、ネフシュタンの鎧を纏うフィーネへと猛烈な交戦を仕掛けた。
ドゴォォォン!!! ズバァァァン!!!
激しい衝撃波が広場を破壊していく。そこへ、遅れてアラートを聞きつけた二人の装者が駆け込んできた。
「海斗ー! クリスちゃ──って、えええええ!?」
現場に到着した立花響は、目の前の光景に思わず足を止めて声を裏返らせた。
そこには、いつも冷静で、自分を優しく守ってくれていた幼馴染の海斗が、文字通り鬼神のような形相で、凄まじい怒気を放ちながら敵を圧倒している姿があった。
「ひ、海斗……? 怖いよ……あんな海斗、見たことない……!」
響は、その圧倒的な怒りの圧力に、本能的な恐怖を覚えて身を竦ませる。
「立花、怯むな! ……しかし、これは一体どういう状況だ!?」
同じく到着した風鳴翼もまた、剣を構えたまま驚愕していた。
戦場の中央でブチ切れている海斗。ネフシュタンの鎧を纏う謎の女性。そして何より──。
「あの少女(クリス)は……なぜ私服のままで、泣いている……?」
シンフォギアを纏うこともせず、地面にへたり込み、ただ傷ついた子供のように涙を流し続けている雪音クリス。
あまりにも混沌とした戦場の図式に、翼は困惑を隠せず、剣の切っ先をどこへ向けるべきか一瞬立ち尽くしてしまうのだった。