戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
フィーネがソロモンの杖を使い、大量のノイズを遺して撤退した広場。
「ハァァァァッ!」
海斗の純白に戻った聖剣が最後の一体を一閃で切り裂き、響の拳が空間に残った残滓を完全に粉砕する。翼と奏がクリスを庇いながら周囲を警戒する中、ようやく辺りに静寂が戻った。
激戦の代償は決して軽くはなく、装者たちは一度、二課の指定病院へと搬送される。幸いにも海斗の『聖域治癒』の余波があったおかげで、全員が数時間の処置と検査だけで、動けるまでに回復を果たしていた。
◇
特異災害対策機動部二課、地下ブリーフィング室。
治療を終えた海斗、響、翼、そして奏が集まる中、重々しい足音と共に風鳴弦十郎が入室してきた。その表情はいつになく険しい。
「みんな、身体は大丈夫か。……すまないが、休んでいる暇はなさそうだ。一つ、重大な報告がある」
弦十郎は一同を見回し、深く息を吐き出してから告げた。
「──櫻井了子と、連絡が取れなくなった。彼女の自宅、ラボ、すべてを捜索したが、完全に姿を消している」
「えっ……!? 了子さんが……居なくなった?」
響が驚きで声を上げる。
翼も「まさか、あのネフシュタンの鎧の女に拉致されたとでも……」と険しい表情を浮かべた。
その中で、海斗だけは一人、黙って顎に手を当てて考え込んでいた。
(やっぱり、正体を現して姿をくらましたか……。フィーネの目的が『アロンダイト』、つまり俺の身柄とその特性の奪取にあるなら、次はもっと強硬な手段に出てくるはずだ。二課のシステムをハッキングされる可能性も考慮しないと……。それに、あの時響と放ったエネルギーの正体は──)
眉間にシワを寄せ、ブツブツと限界まで思考の迷宮に潜り込もうとする海斗。その時。
──パコンッ!
「痛っ!?」
小気味いい音と共に、海斗の後頭部に軽い衝撃が走った。振り返ると、奏が呆れたような顔をして拳を引っ込めるところだった。
「あんたさぁ、いっつもそうやって一人で難しく考え込むよね。ここはチームなんだからさ、抱え込まずに言葉にしなよ、頼れる『騎士様』?」
「奏さん……。すみません、少し考え事を」
苦笑いする海斗の様子に、室内の張り詰めた空気がわずかに和らぐ。弦十郎は小さく頷き、ホワイトボードの前に立った。
「奏くんの言う通りだ。今は一人で悩むより、現状を整理して全員で共有するのが先決だ。今回の戦闘で、あまりにも多くの変数が一気に現れたからな」
弦十郎はマーカーを手に取り、ボードに次々と項目を書き出していく。
■ 現状の整理と不可解な点
①櫻井了子の失踪
戦場のど真ん中から忽然と姿を消し、現在も全通信が不通。敵の襲撃タイミングを含め、内通、あるいは『敵そのもの』である疑いが極めて濃厚。
②アロンダイトの『聖域治癒(サンクチュアリ・ヒール)』の特性
海斗の守護の意思に呼応して発動した純白の光。傷の治療だけでなく、周囲の装者の『適合率』を強制的に引き上げる特性があることが判明。
③天羽奏のフォニックゲイン急上昇
聖域治癒の恩恵により、劇薬(LiNKER)なしでガングニールとの適合係数が安定。それどころか、全盛期以上の出力を反動なしで発揮可能に。
④響と海斗のコンビネーション攻撃
互いの想いがシンクロした瞬間、エネルギーが乗算的に膨れ上がり、負荷なしで【絶唱レベル】の破壊力を叩き出した事実。
「──とまぁ、これだけの異常事態が同時に起きたわけだ」
弦十郎がボードを叩く。
「海斗のアロンダイトの力が、あたしたちのギアの可能性を文字通り爆上げしちまったってことだね。あの女が海斗を欲しがった理由も、このへんにありそうだ」
奏が腕を組みながらピシャリと言い放つ。
「しかし、あのネフシュタンの女──フィーネの本当の目的は何なのだ? 単に海斗の身柄を奪うことだけがゴールだとは思えん」
翼の冷静な指摘に、一同は再び沈黙に包まれる。
了子の失踪、そしてフィーネという存在の目的。
それについて本格的な議論を始めようとした、その時だった。
ピピッ、とブリーフィング室の自動ドアのロックが解除される。
「失礼します。……連れてきました」
入ってきたのは、二課の警備兵。
そして、その中央にいたのは──。
私服のままで、両手首に重々しい特殊合金製の手錠をはめられた、雪音クリスだった。
彼女は怯えたように肩をすくめ、居心地悪そうに視線を床へ落としている。その手錠の金属音が、静かな室内に冷たく響き渡った。