戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第二十八話 解かれる枷

 

 

手錠の擦れ合う冷たい金属音が、ブリーフィング室の沈黙をさらに重くする。

 

雪音クリスは、パイプ椅子に深く腰掛けたまま、まるで自分の殻に閉じこもるように小さく丸くなっていた。

その瞳には生気がなく、ただ暗く落ち込んでいる。

 

「クリスちゃん……」

 

響がたまらず身を乗り出し、心配そうに声をかける。

しかし、クリスはピクリとも動かず、何も喋ろうとはしない。

 

「おいおい、そんなにカタくなるなって。あたしたちは別に、あんたをいじめようってわけじゃないんだからさ」

 

奏もいつもの調子でフランクに声をかけるが、クリスは頑なに視線を床に落としたまま、完全に心を閉ざしていた。

 

「……いい加減にしろ」

 

その態度に、防人としての厳格さを持つ翼がわずかに眉をひそめ、語気を強める。

 

「お前が犯した罪は消えない。その上で、私たちが聞きたいのは──」

 

「翼さん、そこまでにしてあげてください。彼女も混乱しているんですよ。」

 

一触即発の空気を察し、背後に控えていた緒川慎次がそっと翼の肩に手を置き、彼女を落ち着かせた。

 

室内の誰もがどう接するべきか測りかねる中、海斗が静かにクリスの正面へと歩み出た。

 

そして、彼女の目線に合わせるように、その場に少し腰を落とす。

 

「クリス」

 

海斗の優しく、けれど芯のある声が室内に響いた。

 

「怖かったよな。信じていた人に裏切られて、存在価値すら否定されて……。でも、もう大丈夫だ。あいつはここにはいないし、お前を道具として扱う奴も、ここには一人だっていない」

 

海斗は原作で彼女が背負わされてきた過酷な運命、そして先ほどフィーネから浴びせられた罵詈雑言を思い、胸を痛めながら言葉を紡ぐ。

 

「お前が今までしてきたことは、確かにたくさんの人を巻き込んだ。それはこれから、少しずつ償っていけばいい。だけど……お前が傷ついていい理由にはならないんだ。俺は、お前が『雪音クリス』として、ただ普通に笑えるようになってほしい。……それじゃ、ダメか?」

 

「あ……、う、あ……」

 

海斗の、打算も偽りもない真っ直ぐな言葉。

 

ずっと求めていた、自分という存在を全肯定してくれる温かさ。それがクリスの心の堤防を完全に決壊させた。

 

「う、うあああああーーーッ!」

 

クリスは子供のように顔を覆い、感情を爆発させて激しく泣き出した。

 

「…警備員さん。彼女の手錠を外してやってくれ」

 

海斗が即座に振り返り、警備兵に指示を出す。

 

「えっ!? し、しかし、彼女は特異災害対策支援組織の管轄下にある身で……」

 

 困惑する警備兵だったが、背後からドスの利いた、しかし包容力のある声が割って入った。

 

「構わん、外せ。責任は私が持つ」

 

弦十郎の許可が下り、クリスの両手首を縛っていた特殊合金の手錠がカチャリと外された。

 

自由になった手を抱え、まだ涙が止まらないクリス。

 

海斗はさらに一歩歩み寄り、安心させるように優しく声をかけた。

 

「大丈夫だ、クリス。もう──」

 

──ガタァッ!!

 

「えっ?」

 

海斗が言葉を続けようとした、次の瞬間だった。

 

勢いよく立ち上がったクリスが、猛烈な勢いで海斗の胸へと飛び込んできたのだ。

 

「う、うわあああああん!海斗ォォ!寂しかった…!!」

 

小さな身体で、海斗の腰にしがみつき、胸に顔を埋めて激しく号泣するクリス。

 

「……は!?」

 

まさかそんな行動に出られるとは夢にも思っていなかった海斗は、完全にフリーズし、両手を挙げて大いに焦る。

 

「な、なななな、何やってるのクリスちゃんおまわりさんこっちですーーーッ!?」

 

響がこの世の終わりかのような大声を上げて頭を抱える。

 

「ちょっと待ったぁぁ! そこ、あたしの特等席……じゃなくて! 何ドサクサに紛れて海斗に抱きついてんのさ、このチビすけ!!」

 

奏も目を見開いて絶叫した。

 

「なっ……! 不純、いや、破廉恥な……!」

 翼は顔を真っ赤にして叫び、弦十郎と緒川は「おお……」と呆然と口を開けて固まっている。

 

「待ってくれ、二人とも!引っ張っ……いや、クリス、一回離れよっ!?」

 

焦る海斗の元へ、響と奏が般若のような顔で突っ込み、クリスの脇の下や服を掴んで力任せに引き剥がそうとする。

 

「離すもんかぁぁぁ!この温かいのはあたしの特権だぁぁ!」

 

「なにおう!海斗は私の幼馴染みだよ!」

 

「命の恩人を独り占めすんじゃないよ!」

 

響も奏も必死にクリスを海斗から剥がそうとする。

 

しかし、修羅場をくぐり抜けてきた元・敵装者のホールド力は凄まじかった。響と奏が二人がかりで引っ張るものの、クリスは火事場の馬鹿力で海斗の服に爪を立て、ビクともしない。

 

「うわあああ! 服が、服が破れる!!」

 

 ブリーフィング室は一瞬にして、緊迫した作戦会議からドタバタのラブコメ戦場へと変貌を遂げるのだった。

 

 

──1時間後。

 

 嵐のような騒ぎがようやく収まり、室内には異様な疲労感が漂っていた。

 

「……///」

 

クリスは完全に落ち着きを取り戻したものの、先ほどの猛アタックが急に恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向き、絶対に海斗の顔を見ようとしない。

 

「ハァ……ハァ……。死ぬかと思った……」

 

一方の海斗は、お気に入りの私服の襟元がベロベロに伸びきり、魂が抜けたような顔で椅子にへたり込んでいた。

 

その隣では、同じく体力を使い果たした響と奏が、髪をボサボサにしながら机に突っ伏してハァハァと息を切らせている。

 

「コホンッ……!」

 

これ以上この空気を長引かせるわけにはいかないと、弦十郎がわざとらしいほど大きな咳払いをして、全体の意識を引き締めた。

 

「さて……。色々と突っ込みたいところはあるが、話を本筋に戻そう。……雪音クリス」

 

弦十郎の鋭い眼差しがクリスへと向けられる。クリスはびくりと肩を揺らし、小さく頷いた。

 

「お前を道具として扱い、そして用済みとして切り捨てたあの女の目的は何だ?彼女が何を企んでいるのか、知っていることをすべて教えてほしい」

 

重々しい問いかけに、クリスは俯き、自分の細い指先をじっと見つめながら、静かに口を開き始めた。

 

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