戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
弦十郎の問いかけに対し、クリスは膝の上で固く握りしめた自分の手をじっと見つめながら、ぽつり、ぽつりと記憶の断片を紡ぎ始めた。
「……あたしも、あいつの目的のすべてを知ってるわけじゃない。あの女は、フィーネは、あたしに何も教えてくれなかったからな。」
自嘲気味に呟くクリスを、海斗は静かに見守る。
「ただ……分かってることもある。まず、あたしがノイズを自在に操れたり、制御できていたのは、あいつから持たされていた『ソロモンの杖』のおかげだ。あれがなきゃ、ノイズの制御なんてできっこない」
クリスの言葉に、弦十郎が深く頷く。
「それと……作戦の変更についてだ。最初は、ガングニールの装者である立花響を最優先で確保するか、あるいは排除しろって命令されてた。だけど、途中から急に命令が変わったんだ。最優先で『アロンダイトと海斗』を無傷で生け捕りにしろって……」
クリスはここで初めて、チラリと恥ずかしそうに海斗の方へ視線を向け、すぐにまた俯いた。
「……ちんたらして奪えないあたしに、あいつは業を煮やしてた。それからもう一つ。あいつ、二課が管理してるもう一つの完全聖遺物……『デュランダル』を使って、何か大きなことをやらかそうとしてた。それだけは間違いない」
◇
「ソロモンの杖、アロンダイトの強奪、そしてデュランダル、か……」
弦十郎がホワイトボードの項目に×や矢印を書き加えながら、険しい表情で腕を組む。
その時、海斗の脳内に『原作知識』のピースが次々と組み上がっていった。
(フィーネの真の目的は、ルナアタックによる月への攻撃、そしてカ・ディンギルの起動。そのためのエネルギー源として、本来なら響のガングニールの暴走やデュランダルを利用するはずだった。だが、俺のアロンダイトという規格外の聖遺物が現れたことで、計画の修正を図ったんだ。そして、デュランダルを奪うために、奴が次に打ってくる手は──)
ハッと目を見開いた海斗は、椅子から立ち上がり、真っ直ぐに弦十郎を見据えた。
「司令。今、上層部……あるいは政府の技術部あたりから、この二課の基地に対する『緊急の設備改修命令』、もしくはそれに類する査察の通達は届いていませんか?」
「ん? 改修命令だと?」
弦十郎は怪訝な顔をしたが、隣にいた緒川が手元のタブレットを確認し、息を呑んだ。
「──あります。今朝方、櫻井了子博士の失踪に伴う『セキュリティシステムの緊急再構築および設備改修』の命令書が、防衛省の特務窓口経由で発行されています。数日中には、外部の作業班がこの基地の最深部に入る予定です」
「な、なんだって!?」
翼が驚愕の声を上げる。
「やっぱりだ……。その改修のどさくさに紛れて、奴は基地の防衛システムを掌握し、『デュランダルの保管室』へ一気に攻め込んでくる気です」
海斗の確信に満ちた言葉に、ブリーフィング室に緊張が走る。
「海斗、どうしてそこまで分かるの……?」
響が不安そうに尋ねるが、海斗は言葉を濁しつつも、弦十郎に向かって不敵な笑みを浮かべた。
「敵の狙いとタイミングが完全に読めているなら、こちらから手を打つべきです。……司令、敵を確実に引きずり出すために、ここで一つ『大芝居』を打ちませんか?」
「ほう……大芝居、とな」
弦十郎の鋭い瞳がギラリと光る。
原作の運命を知る騎士と、二課の最高責任者による、フィーネをハメ返すための極秘の作戦会議が、ここに幕を開けようとしていた。