戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
あの夜から、海斗の生活は少しだけ変わった。
学校へ行く。
響と遊ぶ。
家へ帰る。
表面上は何も変わっていない。
しかし、海斗の心の中には一つの存在が増えていた。
アロンダイト。
守護の聖剣。
まだ力を貸してくれるわけではない。
まだシンフォギアとして纏うこともできない。
それでも。
確かに、そこにいる。
「……本当にあるんだな。」
夜。
海斗は机の上に置いたペンダントを見つめていた。
銀色の装飾。
中央に刻まれた剣の紋章。
ただの古びたアクセサリーには見えない。
触れれば分かる。
この中には、何かが眠っている。
「俺に……使えるのか?」
答えはない。
当然だった。
この聖遺物は道具ではない。
"選ぶ側"なのだ。
◇
翌日。
海斗はいつものように響と公園へ向かっていた。
「かいと!」
「ん?」
「今日ね、すごいもの見つけた!」
響は両手を後ろに隠している。
「何?」
「じゃーん!」
取り出したのは、小さな四つ葉のクローバーだった。
「幸運のお守り!」
「見つけたんだ。」
「うん!」
響は嬉しそうに笑う。
「かいとにあげる!」
「僕に?」
「うん!」
「なんで?」
響は少し考える。
そして当たり前のように言った。
「だって、かいと最近ちょっと寂しそうだから。」
海斗は言葉を失った。
まただ。
響はいつもそうだ。
誰よりも周りを見ている。
自分でも気づかない小さな変化に気づく。
「……響。」
「なに?」
「怖くないの?」
「え?」
「知らないこととか。」
「うーん……。」
響は空を見る。
「怖いことはあるよ。」
意外な答えだった。
「でもね。」
響は笑う。
「一人じゃなかったら、頑張れると思う。」
その言葉が胸に刺さった。
(……敵わないな。)
未来でも。
今でも。
響は変わらない。
◇
その日の夜。
海斗は再びアロンダイトへ触れた。
「聞こえるか?」
静かな部屋。
返事はない。
「俺は……本当に、お前を使う資格があるのか?」
力が欲しい。
そう願った。
だが。
もし自分が間違えたら?
もし力に溺れたら?
もし響を守るつもりで、逆に傷つけたら?
前世の記憶があるからこそ分かる。
力を持つ者には責任がある。
ヒーローは、ただ強ければいいわけじゃない。
その時。
ペンダントが光った。
――問い。
頭の中へ声が響く。
海斗は息を止める。
――汝は何故、剣を求める。
海斗は目を閉じる。
答えは決まっていた。
――未来を知っているから。
最初はそう思っていた。
未来を変えたい。
響を救いたい。
でも。
本当は。
「俺は、響が笑っている今が好きなんだ。」
「だから……。」
「その笑顔を奪わせたくない。」
光が強くなる。
――汝は、現在を守ろうとしている。
海斗の周囲に青白い粒子が舞う。
――我が名はアロンダイト。
――守護の意思を確認。
――適合率上昇。
「……!」
初めて。
聖遺物"アロンダイト"の声に感情を感じた。
――汝ならば。
――この剣を託せる。
光が消える。
海斗の手の中には、小さな欠片が残っていた。
聖遺物の一部。
「これは……。」
完全なシンフォギアではない。
だが。
確かな一歩だった。
◇
数日後。
海斗は黒い服の男達に囲まれ、ある場所へ呼ばれていた。
大きな施設。
白い壁。
見慣れない機械。
そして。
目の前にいる大人。
「初めまして。」
鋭い目をした男性が笑う。
「風鳴弦十郎だ。」
海斗は息を飲む。
(風鳴……弦十郎。)
原作でも知っている人物。
いずれ響たちを支える存在。
「君が佐々木海斗くんか。」
「……はい。」
弦十郎は腕を組む。
「すまないが、色々調べさせてもらった。」
「面白いことになっている。」
「君の持っている聖遺物。」
「アロンダイト。」
その名前を聞いた瞬間。
海斗の心臓が跳ねた。
「どうして……。」
なぜこの人は僕が聖遺物を持っている事に気づいたんだ?
弦十郎は真剣な顔になる。
「それはこちらの台詞だ。」
「長年眠っていた研究所の聖遺物が反応した。」
「アロンダイトは少し特殊な聖遺物でね。波長も特殊なんだ。それですぐに君を特定することが出来たと言うわけだ。」
沈黙。
「アロンダイトが何故目覚めたかについては、これから研究を行う。君にも協力をして欲しい。」
海斗は頷く。
「一つ聞きたい…何故君はアロンダイトを持っていたんだ?」
「それに聖遺物が恐ろしい物だと思わなかったのか?」
この人は疑問を持ちながらも僕を心配してくれている。
海斗は迷った。
未来のことは言えない。
転生者だなんて信じてもらえない。
だから。
今言える答えだけを口にする。
「気付いたら持っていました。持ち続けた理由はこれで守りたい人がいるからです。」
弦十郎は目を細める。
「……守りたい人?それは誰の事だ?」
海斗は迷わず答える。
「幼馴染です。」
――その答えを、彼は待っていたのかもしれない。
聞いた瞬間、弦十郎の厳つい面構えが、見る影もなく優しいものへと様変わりした。
「…そうか。」
そして静かに言う。
「ならば覚えておけ!」
「力は、人を救うものにもなる!」
「だが同時に、人を壊すものにもなる。」
海斗は黙って聞く。
「君が本当に守りたいなら。」
「まず、自分自身を守れる強さを持て!」
◇
あの後、いくつか機密保持の書類にサインをさせられた。
施設を出た帰り道。
海斗は空を見る。
まだ何も変わっていない。
まだ響は普通の少女だ。
まだノイズとの戦いは始まっていない。
でも。
確実に未来は動いている。
ポケットの中のアロンダイトの欠片を握る。
「待ってろ。」
小さく呟く。
「絶対に……変えてみせる。」
その時。
遠くで。
誰にも聞こえないほど小さな歌声が響いた。
聖遺物が応える。
まだ未完成の力。
まだ未完成の覚悟。
しかし。
守護の剣は、確かに目覚め始めていた。