戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
二課本部のゲートを潜った海斗、響、奏の三人が目にしたのは、無惨に破壊された防衛壁と、立ち込める黒煙だった。
通路の奥から、息も絶え絶えに歩いてくる二つの影。
それは、脇腹から血を流す風鳴弦十郎と、彼を必死に肩で支える緒川慎次の姿だった。
「司令! 緒川さん!」
響が悲鳴のような声を上げて駆け寄る。
弦十郎は苦悶に表情を歪めながらも、海斗たちの顔を見るなり、絞り出すように叫んだ。
「俺たちのことはいい……! 最奥部だ……! 翼と雪音が、まだ戦っている……!」
「櫻井了子を……フィーネを止めてくれ!」
「奏さん、司令たちを頼みます! 響、行くぞ!」
「任せろ!」
海斗の言葉に奏が力強く頷き、二人の負傷者を安全な後方へと引き戻す。
海斗と響は、擬態していた残存ノイズの群れをアロンダイトの盾とガングニールの拳で瞬く間に蹴散らしながら、最深部の格納庫へと突き進んだ。
◇
たどり着いたデュランダル保管室。
そこには、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
「がはっ……!」
「う、あ……っ!」
装甲を砕かれ、床に膝をつく翼。そして、纏ったイチイバルのギアを引き裂かれ、血を流して倒れ込むクリス。二人の前には、ソロモンの杖を掲げ、不気味な白銀の輝きを放つ完全聖遺物『デュランダル』をその手に握りしめたフィーネが、勝ち誇った笑みを浮かべて立っていた。
「クリスちゃん! 翼さん!」
傷だらけの仲間たちの姿を目にした瞬間、響の脳内で何かが激しく弾けた。
大切な人をこれ以上傷つけさせない──その純粋すぎる想いが激昂へと変わり、響は獣のような咆哮を上げてフィーネへと突っ込んだ。
「響、待て! 落ち着け!」
海斗の制止も耳に入らない。
迫り来るノイズの防壁を、響はその凄まじい突進力だけで強引に粉砕し、フィーネの懐へと肉薄する。しかし──。
「愚かね、出来損ないが!」
フィーネがデュランダルを無造作に振り下ろす。
絶対的な破壊の力を宿した一撃が響の拳と激突し、その凄まじい衝撃波が格納庫全体を揺るがした。響の突進はその一振りの前に完全に止められ、さらにデュランダルの刃から放たれた高密度のエネルギーが、ガングニールのギアを通じて響の肉体へと逆流し始める。
「あああああ! あ、あぁぁぁぁっ!!!」
処理しきれない莫大な聖遺物のエネルギーに、響が絶叫する。彼女の纏う装甲が黒く変色し始め、瞳から理性が消え失せていく。原作における『暴走』──その不吉な兆候が、牙を剥いた。
「響……! やめろ、自分を失うな!」
「くっ!立花……っ!」
満身創痍のクリスと翼が、響を止めようと必死に手を伸ばし、その身体に飛びつく。
しかし、暴走のエネルギーを放出し始めた響の身体から放たれた衝撃波によって、二人は無惨にも弾き飛ばされ、床へと叩きつけられてしまった。
「無駄よ。その小娘の適合率では、デュランダルの力は受け止めきれない。そのまま狂い狂って、世界を壊しなさい!」
フィーネの高笑いが響く中、海斗は白銀の大盾を前に構え、暴走の衝撃波を正面から受け止めながら、一歩、また一歩と響へと近づいていった。足元のコンクリートが衝撃で砕け、アロンダイトの装甲が激しく火花を散らす。
「響──ッ!!」
海斗は大盾の裏から、魂を振り絞るようにして幼馴染の名を叫んだ。
「思い出せ、響! 俺は約束したんだ……! 街で未来に会った。お前が帰ってこないのを、あいつはすごく心配してた! 『響をよろしくね』って、未来は俺に響を託してくれたんだ!!」
「み……み、く……?」
海斗の口から放たれた『未来』という言葉。その響きが、狂気に飲み込まれかけていた響の胸の奥に、確かな楔となって打ち込まれた。一番大好きな、絶対に悲しませたくない親友の顔が、響の脳裏に蘇る。
「未来の元へ……一緒に帰るんだろ、響!!」
海斗の声が、ついに響の意識を繋ぎ止めた。
「う、あ……あぁぁぁっ!」
響は頭を抱えて激しく悶絶したのち、ドサリと床に膝をついた。彼女を包んでいた黒い霧が霧散し、禍々しい変形が解けていく。響はガタガタと身体を震わせ、荒い息を吐きながらも、自らの意志で暴走の兆候を完全に収めきってみせたのだった。
「チッ……。暴走を自力で押さえ込むなんて、忌々しい。本当に不愉快な出来損ないね」
響が完全に理性を失わなかったことに明らかな退屈とがっかりした様子を見せたフィーネは、ソロモンの杖を軽く振るった。
「まぁいいわ。デュランダルは手に入った。これより、神の力を以て世界を正してあげるわ。精々、残り少ない明日を怯えて過ごしなさい」
勝ち誇った言葉を残し、フィーネは空間を歪め、デュランダルと共にその姿を忽然と消し去った。
◇
静まり返った格納庫。
「響、大丈夫か……!」
海斗が急いで駆け寄り、倒れ込む響の身体を支える。
響は涙を浮かべながら、「海斗……未来、が……」と弱々しく呟いた。
「あぁ、未来は無事だ。よく耐えたな、響」
海斗が優しく声をかけると、背後の通路から足音が響いた。
「みんな、無事かい!?」
残存するノイズを完全に殲滅し、弦十郎と緒川の二人の保護を終えた奏が、格納庫へと合流してきた。奏の肩を借りた弦十郎は、デュランダルが消え去った台座を見つめ、痛みに耐えながらも無念そうに奥歯を噛み締める。
「デュランダルは奪われ、了子……いや、フィーネには逃げられたか……」
翼とクリスも、お互いに肩を貸し合いながら立ち上がる。基地は壊滅的な打撃を受け、完全聖遺物も失われた。状況は最悪と言ってよかった。
しかし、海斗は響を、そして傷だらけの仲間たちの顔を見回し、静かに闘志を燃やしていた。
(原作の展開をなぞりながらも、因果は少しずつ変わっている。奏さんが生きていて、クリスがここにいる。五人の装者が揃えば、絶対にフィーネの野望を叩き潰せるはずだ)
浮上を始めたであろうカ・ディンギル、そして訪れる最終決戦の予感に、海斗はアロンダイトの欠片を強く握りしめ、次なる戦いへの覚悟を決めるのだった。