戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
特異災害対策機動部二課の地下基地から地上へと這い出た装者たちの目に飛び込んできたのは、世界の終わりを予感させる地獄の光景だった。
遥か上空へと聳え立つ異形の巨塔
──『カ・ディンギル』。
炉心の中心に据えられた完全聖遺物『デュランダル』からは、世界の理を書き換えるほどの無尽蔵かつ高質量のエネルギーが抽出され、不気味な光となって渦巻いていた。
塔の頂に立つフィーネの狂気的な叫びと共に、カ・ディンギルの砲身が天空の『月』へと照準を合わせる。それは月を穿ち、完全に破壊せしめるための破滅の兵器。
もし月が破壊されれば、地球には惑星規模の天変地異が巻き起こり、人類は滅亡する。
「なに!?あの塔!まるで月を狙ってるみたい!!」
あまりに常軌を逸した光景に、響が驚愕と戦慄を隠せず叫ぶ。
原作の知識を持ち、彼女の目的が『ルナアタック』であることを知っている海斗はともかく、響たちにはフィーネがなぜ月を襲うのか、その理由など知る由もなかった。
装者たちの動揺を買い、見下ろすフィーネの口から、傲慢な高笑いが響き渡る。
「無知なる出来損ないどもに教えてあげるわ!かつて人類の言語を奪い、相互理解を拒んだ神の呪い──『バラルの呪詛』。その呪いを維持するための自律統制型端末こそが、あの空に浮かぶ月なのよ!月を破壊し、『バラルの呪詛』から解放されてこそ、私は再びあの御方の言葉を、愛の紡ぎを、この胸に受け止めることができるのよ!」
狂信的な愛を語るフィーネ。
しかし、響はその独善的な言い分を激しく突っぱねた。
「だからって……そんなの、ただの自分勝手だよ!関係のない他の人たちを巻き込んで、犠牲にするやり方は絶対に間違ってる!!」
響はギアを震わせ、フィーネに向かって弾かれんばかりに突っ込んでいく。
しかし、度重なる襲撃と連戦の連続だった響たちは、すでに肉体も精神も満身創痍の限界を迎えていた。
その刹那、無情にもカ・ディンギルの第一射が発射される。
最悪のタイミングで放たれた破滅の閃光。
その直線上には──クリスの姿があった。
敵の攻撃パターンを熟知していた海斗もまた、それを防ぐべくアロンダイトの大盾を構えて同時に飛び出す。
「──Gatrandis vali fatted love-song……ッ!!」
海斗の盾が光線に触れるより一瞬早く、クリスが生命の燃焼、魂の輝きそのものである『絶唱』の旋律を響かせた。
極限まで巨大化した魔弓イチイバルから放たれた絶大なエネルギーが、カ・ディンギルの一撃と正面から衝突する。
海斗は即座に彼女へ『聖域治癒』を施そうとしたが、あまりに苛烈な戦闘の連続で自身のフォニックゲインも枯渇しかけており、フォローの展開がコンマ数秒、どうしても間に合わなかった。
凄まじい大爆発。クリスの決死の絶唱によって月への直撃を逸らすことには成功したものの、イチイバルの装甲は粉々に砕け散り、ボロボロになった彼女の身体は遥か遠くの深い森の中へと真っ逆様に落ちていった。
「クリスちゃん……!? 嘘、嘘だよ……ッ!!」
目の前で起きたあまりに悲痛な自己犠牲に、響はその場にがっくりと膝を落とし、絶望に瞳を曇らせた。
しかし、戦場は彼らの悲しみを待ってはくれない。
カ・ディンギルの炉心は、クリスの決死の防衛を嘲笑うかのように、速やかに『次なる砲撃の準備』へと移行しつつあった。デュランダルの光が、再び砲身へと集束していく。
「しぶといネズミが一匹消えたところで、このフィーネの凶行は止まらないわ!」
次の砲撃を許せば、今度こそ月は砕け、地球は終わりを迎える。
惑星規模の滅亡が秒読み段階というなおも続く絶望的な状況。
しかし、その圧倒的な終焉を前にしても、風鳴翼の瞳から光は消えていなかった。
「戦場で命を散らすは防人の不徳……! だが、ここで退けば未来はない!」
翼は傷だらけの身体でなおも不敵に天羽々斬の剣を構え、天へと届く戦歌を唄おうとする。
「そうだよ! あたしたちが諦めたら、あの子の覚悟が、クリスの命が、全部無駄になっちまうだろ!」
奏もまた、ガングニールの槍を固く握り締め、限界を超えたフォニックゲインの炎を纏ってフィーネの立つ巨塔へと鋭い眼差しを向けた。
だが──。
その前線に並び立つはずの響と海斗の胸の内には、これまでとは全く異なる、抗いきれない『昏い衝動』が急速に広がっていた。
「どうして……どうしてこんなに、守りたいだけなのに、みんな傷ついて……いなくなっちゃうの……?」
響のガングニールの装甲が、彼女の底知れない絶望と悲嘆を吸い上げ、先ほどよりも遥かに濃い、禍々しい黒紫色のエネルギーへと変色を始めていく。その瞳からは、ついに光が消えかけ、破壊の衝動が理性を蝕みつつあった。
そして海斗もまた、自身の無力さに、シナリオを捻じ曲げようとしても襲いかかってくる『原作の因果』の圧倒的な修正力の前に、激しい怒りと暗い感情に囚われていた。クリスを救えなかった。俺がここにいながら、彼女の絶唱と崩落をただ見届けることしかできなかった──。
(守るための盾が……、俺の選んだ選択が、これなのか……!?)
海斗の持つアロンダイトの聖剣が、彼の激しい悔恨と怒りのフォニックゲインに呼応し、かつてないほどに不気味な『漆黒の輝き』を放ち始める。
前を向き、希望の歌を唄おうとする翼と奏。
その後ろで、あまりの絶望に心を塗り潰され、昏き衝動に身を任せようとしている響と海斗。
世界崩壊のカウントダウンが響く中、装者たちの絆は、かつてない危うさで引き裂かれようとしていた。