戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第三十四話 響く歌声

 

 

 理性を焼き切るほどの絶望が、戦場を支配していた。

 

「あ、ああ、あああ……ッ!!」

 

 響の口から、人間のものとは思えない狂おしい咆哮が漏れ出る。ガングニールの装甲は禍々しい黒紫色に染まり、彼女の背中から溢れ出たエネルギーが異形の『触手』となって大気を打ち据える。

 

完全な暴走──クリスを失った悲痛が、彼女を破壊の獣へと変えようとしていた。

 

 そして海斗もまた、自身の無力さと『原作の因果』への激しい憤怒に狂っていた。

 

(俺がいながら……また誰も救えないのか……! そんな歴史、そんな因果、俺が全部叩き潰す……ッ!!)

 

 海斗の意思に呼応し、アロンダイトはかつてないほど不気味な漆黒の輝きを放つ。

 

海斗と響、二人の放つ昏きエネルギーが共鳴し、周囲の空間がミシミシと歪み始めた。

 

「な、何なのよその姿は……気味が悪い!」

 

 勝ち誇っていたはずのフィーネが、その圧倒的な禍々しさに思わず数歩後ずさる。

 

 次の瞬間、暴走した響と黒い聖剣を握る海斗が、まるで弾丸のようにカ・ディンギルへと襲いかかった。

 

防衛線のノイズが一瞬で肉片へと変えられ、理性を失った二人の猛攻が塔の基部を容赦なく破壊していく。

 

しかし、それは自身の命をも削る破滅の足音だった。

 

 

「……このままじゃ、あの二人の身体が持たないッ!」

 

 凄まじい衝撃波に耐えながら、奏がガングニールの槍を地面に突き立てて叫ぶ。

 

「あぁ。世界を守る前に、仲間を失っては防人の名が廃る……!奏、あの大馬鹿者たちを引き戻すぞ!」

 

「賛成!あたしたちの歌で、目を覚まさせなきゃね!」

 

 満身創痍の翼と奏が、破壊の嵐が吹き荒れる中心へと飛び込む。二人は暴走する響と海斗の前に毅然と立ちはだかり、互いの手を固く握り締めた。

 

そして、限界を超えたフォニックゲインの炎を纏い、天をも震わせるデュエットを唄い出す。

 

 二人の魂の歌声が、戦場に吹き荒れる黒い霧を切り裂いていく。

 

「響ッ! 海斗ッ! 戻ってこいッ!!」

 

 

(……あ、れ……? この歌声は……)

 

 暗黒の意識の底で、海斗はハッと我に返った。

 

 耳に届くのは、翼と奏の命懸けの旋律。

 

そしてすぐ隣からは、暴走の苦しみに喘ぎながら「誰も傷つけたくない」と泣いている響の心の声が聞こえてくる。

 

(そうだ……俺は何のためにここにいる? 因果に絶望して、世界を壊すためじゃない。……みんなを……響を護るために盾を取ったんだ!)

 

 海斗の瞳に、確固たる理性の光が戻る。

 

彼は原作で「暴走した響を力づくで止める」展開を思い出し、今自分がすべきことを直感した。

 

「アロンダイト……俺の命を、フォニックゲインを全部持っていけ!その代わり……響の呪いを!!」

 

 海斗は漆黒の聖剣を、あえて暴走する響の胸元へと突き立てた。刃は肉体を傷つけることなく、彼女の装甲に深く沈み込む。

 

響のガングニールに逆流していたエネルギーを、暴走の負荷を、海斗が自身の身体へと全て引き受けたのだ。

 

「が、はっ……あァァァァッ!!」

 

 内臓を焼かれるような激痛が海斗を襲う。

 

しかし、彼は歯を食いしばって響を強く抱きしめた。

 

「大丈夫だ、響……! もう、一人で苦しまなくていい……!」

 

 海斗の無垢な守護の意思が限界突破した瞬間、アロンダイトの黒が、一気に弾けるような『純白の輝き』へと還っていく。眩い聖域の光が響の暴走を強制的に解除し、黒紫色の装甲がパキパキと剥がれ落ちていった。

 

「……か、い、と…………?」

 

 正気を取り戻し、力なく崩れ落ちる響を、海斗はしっかりと腕の中で受け止める。

 

 

「バ、バカな……!ガングニールの暴走を、力づくで抑え込むだと……!?」

 

 あり得ない光景を前に、フィーネの顔が驚愕で引きつる。

 

 負荷を吸い上げ、肩で激しく息をする海斗の元へ、翼と奏が駆け寄った。

 

「よくやった、海斗……!」

 

「ったく、ヒヤヒヤさせないでくれよ……。でも、クリスが……あの子がもう……」

 

 奏が悔しそうに顔を歪め、響の瞳に再び涙が浮かびかける。

 

 だが、海斗は二人を見据え、力強い声で言い放った。

 

「──いや、まだ終わってない! クリスは生きてる!」

 

「えっ……?」

 

「あいつは……雪音クリスは、そんなに簡単にくたばるような珠じゃない!あの深い森のどこかで、絶対に生きて俺たちの帰りを待ってる!だから、ここで俺たちが絶望してる場合じゃないんだ!」

 

 原作の知識に基づいた、揺るぎない確信。

 

その言葉は、絶望に染まりかけていた戦場に、一筋の爆発的な希望の光をもたらした。

 

「……うん! そうだよね……! クリスちゃんは生きてる!」

 

 響が涙を拭い、力強く立ち上がる。

 

その瞳には、さっきまでの濁りは一切ない。

 

翼も、奏も、海斗の言葉に不敵な笑みを浮かべ、再び武器を構え直した。

 

「しぶといネズミどもが……! なら、次の一撃で世界ごと塵に帰してあげるわ!」

 

 フィーネの叫びと共に、カ・ディンギルの炉心が唸りを上げ、デュランダルの光が再び砲身へと集束していく。地球崩壊の秒読み。

 

 しかし、並び立つ4人の装者の心は、今度こそ完全に一つに重なっていた。

 

「いくぞ、みんな! カ・ディンギルの大砲ごと、あの女の野望をブチ砕く!」

 

「「「おおおおおッ!!!」」」

 

 世界を救うための最終決戦へ向け、4人の聖歌が、今、戦場に鳴り響く。

 

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