戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
カ・ディンギルの最上階。そこに響き渡るのは、世界の破滅を告げる歌声ではなく、絶望の淵から這い上がった三人の装者が紡ぐ、奇跡の旋律だった。
「バカな……これほどまでのっ……っ!?」
フィーネの驚愕の叫びと共に、エクスドライブ化した響、翼、クリスの三人が、文字通り閃光となって戦場を縦横無尽に駆け抜ける。
極限まで高まったフォニックゲインは虹色の光の翼となり、フィーネが放つ超重力の防壁やソロモンの杖からの破壊光線を、紙切れのように次々と切り裂いていく。
三人の超高速の連携の前に、さしものフィーネも防戦一方に追い詰められていた。
「おのれ、おのれぇぇっ! 出来損ないの分際で、このフィーネの、あの御方への愛を邪魔するなァァァッ!!」
カ・ディンギルのエネルギーチャージはすでに90%を超えている。
だが、このままでは砲撃の前に自分が討たれる。
完全に理性を失い、狂気へと狂い咲いたフィーネは、手にした完全聖遺物『デュランダル』と『ソロモンの杖』を、自らの胸──『ネフシュタンの鎧』の心臓部へと、躊躇なく突き立てた。
「ガ、ハ……ッ! ああああああああああああああああッ!!」
三つの聖遺物が一つの肉体の中で交わり、凄絶な拒絶反応の衝撃波が世界を揺るがす。空間がガラスのようにひび割れ、禍々しい黒紫と白銀のエネルギーが噴出した。
だが、フィーネの数千年に及ぶ妄執と超常的な適合組織が、その暴走を強引にねじ伏せていく。黒い鎧の触手が肉体を膨張させ、デュランダルの白銀の刃が骨格を構築し、ソロモンの杖のコアがその眼眸へと埋め込まれる。
それは、原作通りの最悪の怪物──『聖遺物融合形態』。
カ・ディンギルの炉心エネルギーそのものをその巨躯に宿し、世界を震撼させる咆哮を上げながら、怪物化したフィーネは地上のすべてを滅ぼさんと、おびただしい数のノイズと極大の熱線を一斉に撃ち放った。
「──これ以上、好き勝手やらせるかよッ!!」
その絶望の弾雨の前に立ちはだかったのは、第二形態の装甲を纏った海斗だった。
海斗の背部スラスターから、爆発的なフォニックゲインの光が噴き出す。
──ドガァッ!!!
大気を真っ二つに引き裂く大音響と共に、海斗の身体は重力を置き去りにして急加速した。目にも留まらぬ超高速の残像を描き、ジグザグに空中を跳躍するその様は、まさに戦士のそれだった。
迫り来るノイズの群れに対し、両手に展開した星型のビームシールドを構え、海斗は空中を突き進む。
「はああああああああっ!!!」
目視不可能な速度で放たれる、シールドを纏った超高速の拳のラッシュ。
一拳一拳が放つ凄まじい風圧と衝撃波だけで、触れたノイズが文字通り一瞬で数十体同時に消し飛ばされていく。
さらに、怪物化したフィーネの巨躯から放たれた極太の熱線が海斗の軌道を捉えるが、海斗は空中での急制動と直角の超高速移動を連続させ、残像だけを焼き払わせながら懐へと肉薄する。回避不能のタイミングで放たれた一撃に対してのみ、両手の盾を前面で交差し、最大出力の障壁を展開。
──ガキィィィィィン!!!
天を衝くような火花を散らしながら、地球を滅ぼしかねない熱線を強引に上方へと弾き飛ばした。
「海斗、ナイスだ! そのまま抑え込みな!」
海斗が超高速戦闘で敵の攻撃を引きつけ、完璧な盾となっているその隙を、奏が見逃すはずはなかった。
巨大な双槍を構えた奏が、限界を超えたフォニックゲインの炎を纏い、一筋の巨大な光の弾丸と化して突撃する。
「全部、ぶち抜くッ!!」
螺旋の炎を撒き散らしながら放たれた槍の一撃が、カ・ディンギルの下層制御システムとエネルギーラインを文字通り一撃で粉砕した。
「糞どもがあああっ!」
激昂するフィーネ。
「──今だ、みんなッ!!」
海斗の咆哮が響き渡る。
下層を完璧に制圧した海斗と奏が上空へと跳躍し、エクスドライブ状態の三人と同じ高度に並び立つ。
響、翼、クリス、そして奏と海斗。
五人の全フォニックゲインが一つに重なり、眩いばかりの光の奔流となって怪物化したフィーネの核──デュランダルの炉心へと一斉に叩き込まれた。
「ア、アアア……、私は……あの御方の、元へ……ッ!!」
絶叫と共に、聖遺物の強制融合が崩壊していく。
カ・ディンギルの巨塔は内側から光の亀裂を走らせ、大爆発を起こして完全に瓦解。フィーネの巨大な肉体もまた、激しい光の粒子となって吹き飛んだ。
勝った。
誰もがそう確信し、崩落する塔から離脱しようとしたその瞬間。
空間に霧散していくフィーネの残響が、不気味に、そして狂おしく嗤った。
『……フフ……アハハハハ! 勝ったつもり、かしら……? カ・ディンギルの光は……すでに、天へと届いているわ……!』
「何……っ!?」
海斗がハッとして空を見上げる。
カ・ディンギルは破壊した。
しかし、崩壊する直前に完全チャージされていた極大のエネルギーの残滓は、すでに一本の光の柱となって天空を貫いていたのだ。
射出された破滅の光は、寸分の狂いもなく遥か上空の『月』へと直撃する。
直後、夜空に浮かぶ月の一部が、凄まじい光量と共に音もなく爆散した。
そして──。
「嘘……だろ……」
海斗の顔から血の気が引く。
破壊され、剥がれ落ちた巨大な月の欠片。
それが、圧倒的な質量をもって地球へと落下を始めるのが見えた。
フィーネを倒した歓喜は一瞬で吹き飛び、世界は本当の、そして惑星規模の「終わりの秒読み」へと突入した。