戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
剥がれ落ちた巨大な月の欠片が、大気圏を揺るがしながら地球へと迫りつつあった。
地上が天変地異の予兆に揺れる中、五人の装者たちは残された全てのエネルギーを振り絞り、燃え盛る空へと跳躍した。
だが、崩壊したカ・ディンギルの瓦解跡──煙の立ち込めるその中心に、海斗はある『光』を見つける。
「……フィーネ……!?」
そこにいたのは、さっきまでの怪物ではない。聖遺物の融合が解け、肉体を維持できなくなった彼女が、不気味なほど静かに光の粒子へと変わりかけている姿だった。
「ああ……あの御方……。私は、また……届かなかった……」
薄れゆく意識の中で、なおも届かぬ神への孤独を呟くフィーネ。その頼りない身体へ、響がまっすぐに駆け寄り、その「手」を力強く握り締めた。
「な、何を……する……。離し、なさい……ッ!」
「離さない、絶対に離さないよ!だって、こんなに泣いてるのに、放っておけるわけないじゃないですか!」
響のガングニール──人と人を繋ぐ力が、二人の意識を精神世界へとシンクロさせる。
響たちの『繋がりたい』と願う純粋なフォニックゲインの温もりが、数千年に及ぶフィーネの呪いと孤独を、急速に溶かしていく。
フィーネの脳裏に、偽りの日々だったはずの「櫻井了子」としての記憶が蘇る。
不器用ながらも自分を頼ってきたクリスの姿、人間として過ごした温かな日常。
そのすべてが、数千年の妄執を優しく包み込んだ。
「手と手を繋ぐ……。フフ、そんな簡単なことに、私は数千年も気づけなかったのね……」
狂気から解放されたその顔は、恐ろしい宿命の象徴ではなく、ただの一人の穏やかな「人間」のものだった。
彼女はゆっくりと空を見上げ、迫り来る月の欠片を見て切なげに微笑む。
「最後に、少しだけ私にもお節介を焼かせなさい、立花響。……クリス、大人を困らせるんじゃないわよ。」
フィーネは最後の力を振り絞り、自らの肉体を構成していたネフシュタンの鎧、そして手元に残されたソロモンの杖の全エネルギーを解放した。
それは禍々しい呪いの光ではなく、眩い純白のフォニックゲインとなって、海斗たち五人のギアへと注ぎ込まれる。
実質的な、エクスドライブの再充填。
「さあ、行きなさい。私の愛した、この世界を
──守って見せなさい」
響たちに看取られながら、満足そうな笑みを浮かべたフィーネの身体は、サラサラと綺麗な光の粒子となって、空へと消えていった。
「……うん、行ってきます!ありがとう、了子さん!!」
響の叫びと共に、五人の装者が再び天へと駆ける。
受け継いだフィーネの想い、そして自分たちの未来を守るための願い。
五人の歌声が重なり合い、限界を突破したフォニックゲインが満天の星空を黄金色に染め上げていく。
「いくぞみんな!これで、本当に最後だッ!!」
海斗の掲げたアロンダイトが、五人の力を束ねる巨大な光の盾と化す。
「「「「おおおおおおおおッ!!!!」」」」
響の拳が、翼の剣が、クリスの魔弓が、奏の双槍が、そして海斗の聖盾が、一丸となって巨大な月の欠片へと激突した。
──ドォォォォォォォン!!!
空間全体が真っ白に染まるほどの、圧倒的な大爆発。
次の瞬間、世界を滅ぼすはずだった月の欠片は跡形もなく粉砕され、燃え盛る炎はすべて、夜空を彩る美しい光の雨
──無数の流れ星へと姿を変えて地平線へと降り注いだ。
◇
数時間後。
パチパチと音を立てて燃えるカ・ディンギルの残骸の向こうから、一筋の美しい朝日が昇ってくる。
満身創痍になりながらも、丘の上に立ち並ぶ五人の姿があった。
ギアを解除し、互いの無事を確認し合うように顔を見合わせる。クリスは照れくさそうに顔を背け、翼は静かに微笑み、奏は海斗の肩を小突いて笑っている。そして響は、満面の笑みで海斗に手を差し出した。
「やったね、海斗!」
「ああ、やったな。俺たちの勝ちだ」
海斗はその手をしっかりと握り返す。
朝日に照らされながら、五人は手を取り合い、光り輝く未来へと向かって一歩を踏み出した。