戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
査問室での「好きなタイプ暴露事件」から数日後。
海斗は放課後の無人の教室に、小日向未来を呼び出していた。
目的は、あの決戦の最中、自分がなぜ『アロンダイト』を纏って戦っていたのかを、一般人である彼女に説明するためだ。
響を「普通の日常」で支える未来だからこそ隠し事はしたくなかったし、事前に司令である弦十郎に**「響の親友である未来には、俺の口からきちんとすべてを話しておきたいんです」**と筋を通し、「お前がそう決めたなら、私から二課の連中には口止めしておこう。しっかり話してやりなさい」と、自然に許可も取り付けておいた。
だが──その教室の引き戸のわずかな隙間、前回の事件に引き続き『彼女たち』が潜んでいることまでは、さすがの弦十郎も予測できていなかった。
「(……おい、本当にいいのかよ、こんなことして)」
「(し、仕方ないよクリスちゃん! 未来が海斗に呼び出されたんだよ!? )」
「(ふふ、海斗のタイプが未来ちゃんド直球なのは確定だしねぇ。ちょっと様子を見守ってあげようじゃないか。)」
響、クリス、奏の三人が、息を殺して盗み聞き(尾行)を敢行していた。
ちなみに翼は「私はもう二度と防人の風上に──」と涙目で二課のトレーニングルームに引きこもり、緒川は静かに胃薬を飲んでいる。
◇
教室の中。海斗と未来は、机を挟んで向かい合っていた。
響たちのいる廊下側は風の通り道で、窓のガタつく音や風の音のせいで、会話がポツポツとしか外に聞こえない。
「……というわけなんだ。響には内緒にしておいて欲しくてね」
「そう、だったんだ……。海斗くんも、響のためにそこまで……」
未来は、海斗が響の暴走の呪いを身代わりに引き受け、命懸けで戦っていた真実を知り、胸を打たれていた。
「俺としては、これからも響の隣には未来にいて欲しいと思ってる」
海斗の「(響を支える日常の象徴として)隣にいて欲しい」という純粋な言葉。
だが、外の盗み聞き組の耳には、風の悪戯で**致命的な部分だけ**が拡大されて届いた。
『──これからも……未来に、隣にいて欲しい──』
「「「ッ!!???」」」
廊下の三人の背中に電撃が走る。
(な、ななな、今、告白した!? いきなり将来の約束まで取り付けにかかったぞこの男ーーー!!)とクリスが白目を剥きかける。
さらに教室内では、未来が少し顔を赤らめて俯いていた。
「傷だらけになって、司令にも許可をもらってまで私に話してくれたんだもんね……。でも、私なんかでいいのかな……。海斗くんの言ってること、私にとってはすごく重いというか、責任重大だし……」
「そんなことないよ。未来にしか頼めないんだ。未来が作る料理も、きっと響の助けになるさ。すごく温かくて好きだと思う」
これも「(響の心のケアも含めて)家庭的な未来にしか頼めない」という意味だったのだが、外のフィルターを通るとこうなる。
『──未来にしか頼めない……未来……すごく温かくて好きだと思う──』
「(……完全に告白だ……!)」
響の魂が口から半分飛び出す。
そしてトドメの一撃。
海斗は話を締めくくろうと、未来の手元に、万が一の時のための二課の緊急連絡用通信端末(お守り代わり)を差し出した。
「だから、これを受け取ってほしい。これから先、何があっても、俺が必ず未来の身の安全は保証するから。一生、大事にしてくれ」
──「(通信端末を)一生、大事にしてくれ(無くさないでね)」。
しかし、廊下の生耳には、完全にこう翻訳された。
『──これを受け取ってほしい……一生、大事にしてくれ──』
「「(指輪だアアアアアアアアアアアアア!!!)」」
響の魂は天に召され、クリスは心の中で絶叫し、奏は両手で頬を押さえて完全に思考停止した。
◇
「……う、うん。わかった。ちゃんと受け取るね。私、精一杯がんばるから!」
「ありがとう、未来。そう言ってくれると助かるよ」
二人の間で綺麗に「響サポート同盟」の契約が成立した、
その瞬間だった。
**ガララララララッ!!!!バンッ!!!!**
凄まじい勢いで教室の引き戸が開け放たれ、号泣した響とクリスがなだれ込んできた。
「み、未来ううううううう!!! おめでとううううううううううう!!!!!」(号泣)
「う、うわあああああん! コンチクショー! お前らお似合いだよちくしょう! 末長く爆発しろおおおおお!!!」(号泣)
「ひ、響!? クリスちゃん!?」
「ええっ!? なんでみんなここに!?」
あまりの勢いに、海斗と未来は完全にフリーズした。
響はボロボロと滝のような涙を流しながら、未来の両手を握りしめる。
「海斗が……『一生、大事にする』って……! 未来のこと、好きだって……! 私、ショックだけど、でも! 大好きな未来と、海斗が結ばれるなら、私、泣きながら祝福するよおおおおお!」(大号泣)
「そうだぞ未来! この男、なんか司令に許可まで取って、めちゃくちゃ手慣れたセリフでプロポーズしてきやがったけど、もし泣かせるようなことがあったら、あたしがイチイバルでハチの巣にしてやるからなああああああ!」(大号泣)
「あ、あらら、若いねぇ……。まさか高校の教室で婚約発表に立ち会うことになるとはねぇ」
後ろでハンカチを噛み締めながら見守る奏まで加わり、教室内は完全に「感動の結婚式(二次会)」のボルテージに達していた。
「……。……え?」
未来は、顔を真っ赤に染め上げたまま、ロボットのようにギギギと首を回して海斗を見た。
「……。……は?」
海斗は、差し出した通信端末を持ったまま、完全に思考が停止していた。
(何がどうしてそうなった??? プロポーズ?? 一生大事にする?? 違う、俺は通信端末の話をーーー)
必死に誤解を解こうとするも、あまりにも完璧すぎる「勘違いのパズル」と、装者たちのピュアな号泣の前に、言葉が一切出てこない。
夕暮れの教室。
わんわん泣きながら拍手を送る響たちと、石像のように固まったまま、真っ赤になって煙を吹きそうな未来、あるいは人生最大の冤罪に頭を抱える海斗の、あまりにも噛み合わない放課後が過ぎていくのだった。