戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
海斗と響が出会ってから七年。
季節は巡り、二人は中学二年生になっていた。
子どもの頃と変わらず仲の良い二人だったが、進学先だけは別々だった。
立花響は、私立リディアン音楽院中等科。
そして佐々木海斗は、自宅からほど近い共学校――**イオニアン学園中等部**へ進学していた。
学校は違っても、二人の日常は何も変わらない。
「かいとー!」
朝七時半。
今日も元気な声が住宅街に響く。
玄関を開けると、制服姿の響が満面の笑みで立っていた。
「おはよう!」
「おはよう、響。」
「今日も迎えに来たよ!」
「毎日ありがとう。」
「えへへ♪」
子どもの頃から続く朝の習慣。
二人は並んで歩き始める。
途中までは同じ道。
交差点で進路が分かれる。
「じゃあ、また放課後ね!」
「ああ。」
響はリディアンへ。
海斗はイオニアン学園へ。
別々の制服が、それぞれの学校へ向かって歩き出した。
◇
放課後。
海斗が駅前へ着くと、響が嬉しそうに手を振っていた。
「かいとー!」
その隣には、一人の少女が立っている。
肩まで伸びた黒髪。
落ち着いた雰囲気。
どこか優しそうな笑顔。
海斗はその姿を見た瞬間、胸が小さく高鳴った。
(……小日向未来。)
前世で何度も見た顔。
響の親友。
そして、誰よりも響を大切に想う少女。
「紹介するね!」
響が嬉しそうに少女の肩へ手を置く。
「この子、小日向未来!」
「私の親友なの!」
未来は少し緊張した様子で頭を下げた。
「はじめまして。」
「小日向未来です。」
「いつも響ちゃんから、お話を聞いています。」
海斗も頭を下げる。
「佐々木海斗です。」
「よろしく。」
未来は優しく微笑む。
「響ちゃん、本当に毎日のように海斗くんのお話をするんですよ。」
「え?」
海斗が響を見る。
響は顔を真っ赤にして慌て始めた。
「ち、違うよ!」
「違わないよ?」
未来がくすっと笑う。
「今日は海斗くんがね。」
「昨日は海斗くんがね。」
「小さい頃は海斗くんがね。」
「って、ずっと話してるもん。」
「み、未来ー!」
響は恥ずかしそうに未来の肩を揺する。
その様子を見て、海斗は思わず笑ってしまった。
「そんなに話してたんだ。」
「だって幼馴染だもん!」
赤面しつつも、響は胸を張る。
「海斗は家族みたいな存在だから!」
その言葉に、未来の笑顔が一瞬だけ止まる。
(……家族。)
響ちゃんにとって、一番近い存在。
七年間、一緒に過ごしてきた人。
私はまだ、出会って一年も経っていない。
知らない思い出が、二人にはたくさんある。
「未来?」
「えっ?」
響が心配そうに覗き込む。
「大丈夫?」
「う、うん!」
未来は慌てて笑顔を作る。
「何でもないよ。」
その笑顔はいつも通りだった。
けれど胸の奥には、小さな痛みが残っていた。
(私も……。)
(もっと響ちゃんのことを知りたい。)
(もっと、一緒にいたい。)
その気持ちは、まだ未来自身も名前を付けられなかった。
◇
三人は駅前の喫茶店へ入る。
他愛もない話。
学校生活。
テスト。
好きな食べ物。
響が話し、海斗がツッコミを入れ、未来が笑う。
初めて会ったとは思えないほど自然な空気が流れていた。
別れ際。
未来は小さく頭を下げる。
「今日はありがとうございました。」
「またお話ししてください。」
「もちろん。」
海斗が笑って答える。
響も元気よく手を振った。
「また三人で遊ぼうね!」
「うん。」
未来も笑顔で頷く。
その笑顔の裏で、小さな決意が芽生えていた。
(私も……。)
(もっと響ちゃんの隣にいたい。)
◇
夜。
海斗は自室の机へ向かった。
引き出しから、小さなペンダントを取り出す。
白銀の欠片。
アロンダイト。
七年間、誰にも知られることなく共鳴を続けてきた聖遺物。
海斗は静かに呼び掛ける。
「……アロンダイト。」
欠片が淡く輝く。
部屋の空気が変わる。
そして、低く落ち着いた声が響いた。
——契約者よ。
海斗は目を見開く。
「やっと話せるようになったか。」
『フォニックゲインが一定値へ達した。』
『よって対話を開始する。』
「随分と堅いな。」
『我は剣。』
『感情に流されることはない。』
海斗は苦笑する。
「いかにも騎士らしい。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて海斗は真剣な表情になった。
「聞きたいことがある。」
『問え。』
「俺は、本当に未来を変えられるのか?」
光が静かに揺れる。
『未来は決定されたものではない。』
『選択の積み重ねが運命となる。』
「なら。」
「天羽奏さんも。」
「響も。」
「救えるのか。」
長い沈黙。
そして。
『救いたいと願うだけでは足りない。』
『守る覚悟。』
『失う覚悟。』
『そのすべてを受け入れた時、守護の聖剣”アロンダイト”は真の力を解放する。』
海斗は拳を握る。
「俺は響を守る。」
『……。』
「絶対に。」
『その誓いを忘れるな。』
『守護の剣は、守るべき者への想いによって強くなる。』
『だが、その想いは時として、契約者自身を蝕む。』
海斗は静かに頷いた。
「それでもいい。」
「俺は後悔したくない。」
その答えを聞き、アロンダイトは静かに輝きを増す。
『ならば共に歩もう。』
『契約者――佐々木海斗よ。』
光はゆっくりと消えていった。
部屋には再び静寂が戻る。
海斗はペンダントを胸元へ握り締め、窓の外に浮かぶ月を見上げた。
ライブの日まで、あとわずか。
運命の日は、確実に近づいていた。