戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
5人が一堂に会したことで、猛威を振るっていたノイズの大群は文字通り一瞬で霧散した。
しかし、その圧倒的な戦闘の混乱に乗じ、マリア・カデンツァヴナ・イヴは漆黒のガングニールと共に姿を消していた。
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指定された避難所へ逃げ延びた小日向未来は、大勢の避難民の喧騒の中にいた。
だが、その意識はここにはない。
ドームに取り残された立花響、そして海斗のことが頭から離れなかった。
未来はポケットの中で、ひとつの小さな通信端末をギュッと握りしめる。
それは——あの盛大な勘違いプロポーズ(?)の際、海斗から「何があっても君の安全は保証する」と手渡された大切な品だった。
(響、海斗くん……)
人々を守るために命を懸けて戦う姿は誇らしい。
けれど、それ以上に胸を締め付けるのは、同じ「戦場」という特別な世界を共有している2人への激しい嫉妬だった。
特に、響と海斗の間にある、自分には入り込めない強い絆のような空気。
自分は逃げるだけしか出来ない存在――
(私にも……私にも、もしシンフォギアがあったなら……響や海斗くんの隣に立てたのかな……)
握りしめた端末の冷たさが、未来の切ない嫉妬と無力感を静かに際立たせていた。
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同時刻、特異災害対策機動部二課の司令室には、張り詰めた空気が漂っていた。
モニターに映し出されているのは、米軍から奪取されたとされる聖遺物「ソロモンの杖」、そしてマリアが纏っていた「黒いガングニール」の解析データだ。
「なぜ、ガングニールがもう一軸存在するのか……?」
緒川の呟きに、全員が重い沈黙を返す。
さらに謎を深めているのは、彼女が自らを「フィーネ」と名乗った事実だ。
過去の惨劇を思えば、その名がもたらす意味はあまりにも重い。
そんな中、研究員たちの手によって、海斗の纏う「アロンダイト」のデータ分析も進められていた。
「他の聖遺物とは、根本的な波形パターンが異なっています。既存の聖遺物が『兵器』や『ツール』だとすれば、アロンダイトはまるで——」
モニターの波形を追っていたオペレーターが、ふと息をのんだ。
「……待ってください。アロンダイトの出力波形の一部……これ、ノイズのデータ構造と酷似しています!」
「何だと……!?」
弦十郎が目を細める。
アロンダイト——それは単なる強力な聖遺物ではない――
ノイズという存在そのものに酷似したデータを持つ、全く異質な存在。
司令室の空気は、未知の脅威とアロンダイトの謎によって一層重く沈み込んでいった。
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マリアたちの潜伏先を割り出すため、市街地では警戒態勢が敷かれていた。
翼と奏は「ツヴァイウィング」として、今回のドーム襲撃事件に関する記者会見や各種事後処理に追われているため、現場の巡回は海斗、響、クリスの3名が担当することになった。
二手に分かれ、海斗はひとり大型ショッピングモール周辺を歩いていた。
(……ふぅ、手がかりなしか)
ため息をつきかけたその時、海斗の視界に見覚えのある二つの影が映った。
月読調と、暁切歌。
前世の知識がある海斗は、一目で彼女たちが何者であるかを理解した。
そして向こうもまた、前日のドーム戦で記録した戦闘データから、目の前に立つ青年が「アロンダイトの奏者」であることを察知する。
一瞬で走る緊張感。
だが、ここは白昼堂々の市街地だ。
お互いに一般人を巻き込むわけにはいかず、互いに気づかないフリをしてすれ違おうとした。
―——その時だった。
「ひゃうッ!?」
道の段差に足を取られ、切歌は派手に体勢を崩した。
「あっ——」
咄嗟だった。
海斗は思考より先に身体を動かし、倒れそうになった切歌の腕を掴んで抱き止めた。
「……だ、大丈夫か?」
「あ……う……」
至近距離で見つめ合う海斗と切歌。
お互いに「敵の奏者」と分かっているだけに、助けられた側も助けた側もどうしていいか分からず、その場で完全にフリーズしてしまう。
見かねた調が、ちょこんと頭を下げた。
「……ありがとうございます。助かりました。」
「デ、デス! 助かったデス……!」
慌てて切歌も頭を下げる。
しかし、ここで悲劇が発覚した。
買い出し袋を抱えていた切歌の手元から落ちたパックの中で、買ってきたばかりの生卵が見事に全滅していたのだ。
「あうぅ……晩ごはんの材料だった卵が……ドロドロの全滅デス……」
「……今日のお金、これで終わりなのに」
落ち込む二人。
お互いの立場(敵同士)を知っているだけに、海斗としても深く関わるべきではない。
だが——生来の面倒見の良さが災いし、見捨てることができなかった。
「……はぁ。ちょっと待ってろ」
海斗は近くのスーパーに引き返し、新しい生卵のパックを買って戻ってくると、それを切歌に差し出した。
「ほら、これ持って行きな」
「え……? で、でも、私たちは……っ」
事情を知り合っているからこそ、妙な空気が流れる。
助けられた手前、露骨に敵意を向けることもできず、かといって素直に仲良くもなれず、3人の間に気まずくギクシャクした時間が流れた。
―ぐぅううう〜〜〜っ!!
その沈黙を破ったのは、切歌の盛大な腹の虫の音だった。
「っ〜〜〜〜〜〜〜!? 違うのデス! これは風の音デス!!」
顔を真っ赤にしてお腹を押さえる切歌。
調が無表情でボソッと呟く。
「……切歌、朝から何も食べてないもんね」
「調! 余計なこと言わないでデス!」
やり取りを見かねた海斗は、少し苦笑いを浮かべて提案した。
「……なぁ。減るもんでもないし、少し話さないか?」
助けてもらった恩もあり、何よりお腹が空きすぎていた切歌は、その誘いを断ることができなかった。
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近くの落ち着いた喫茶店に入り、海斗は二人にケーキセットを奢った。
「ほ、本当に良いのデスか……!? 敵の……じゃなくて、知らない人にこんな……っ」
葛藤しながらもケーキから目を離せない切歌に対し、調はすでにフォークを手に取り、ショートケーキを一口パクリ。
「……ん。美味しい」
「調ェェェ!? 警戒感がゼロデス!……モグッ、……ッ!? 美味しいデース……!」
一口食べた瞬間、切歌の葛藤は幸福感によって綺麗に吹き飛んだ。
そこからは、お互いの素性を深く掘り下げない当たり障りのない会話が続いた。
好きな食べ物の話、最近の流行りの話、お互いのドジな失敗談。
他愛もない言葉を交わすうちに、少しずつ緊張が解け、3人の間には柔らかで和やかな時間が流れていった。
「ふぅ……ごちそうさまでした。海斗さん、でしたっけ。……ありがとうございました。」
「感謝するデース! 今日はこれで見逃して……じゃなくて、ありがとなのデース!」
店を出たところで、お互いに少しだけ心が通じ合ったことを感じながら、それぞれの帰路につく。
海斗は笑顔で手を振り、二人を見送った。
——だが。
その道のすぐ陰から、鋭い視線を向ける人物が一人。
「……撮ったわよ!!」
響の同級生である"板場 弓美"が、物陰からスマホのカメラレンズを海斗に向けていた。
液晶画面には、海斗が可愛い女の子二人(調と切歌)と楽しそうに話し、笑顔で見送るバッチリな構図の写真。
『海斗くんが美少女二人と浮気デート中!?』
そんな物騒なメッセージと共に、その写真は即座に"響と未来のスマホへと同時送信"された。
送信完了の通知を見届け、弓美は「ビッキー、未来、仇は取るわ……!」と謎の正義感に燃えるのだった。
(当然、その写真を受け取った響と未来の二人が、激しい嫉妬と謎の怒りに炎上したのは言うまでもない)
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場所は変わり、特異災害対策機動部二課のブリーフィング室。
召集された響、クリス、そして戻ってきた海斗に対し、司令の風鳴弦十郎が重々しい口調で切り出した。
「3人とも揃ったな。……まずは、昨日の惨劇をもたらした『黒いガングニール』についてだ」
弦十郎はモニターにマリアの映像を映し出す。
「結論から言えば、あのガングニールは本物だ。かつて立花が適合した聖遺物の破片とは別に、世界にはもう一つの『ガングニールの完全体』が存在していた。F.I.S.の手によってそれが持ち出され、マリア・カデンツァヴナ・イヴの手に渡ったと見られる」
響が息を呑み、己の拳を握りしめる。
「そして……もう一つ、最悪の報告がある」
弦十郎の顔が一段と険しくなった。
「米軍の厳重な保管庫から、空間を歪めノイズを制御する聖遺物——**『ソロモンの杖』が盗み出された**。犯行ラインから見て、マリアたちの仕業とみて間違いない」
「ソロモンの杖……ノイズを自在に操る聖遺物か」
クリスが苦々しく吐き捨てる。
黒いガングニール、自らをフィーネと名乗る少女、そしてソロモンの杖の紛失。
静まり返るブリーフィング室の中で、奏者たちはこれから訪れるであろう、さらに巨大な戦いの予感に表情を引き締めるのだった。