戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
二課での緊張感漂うブリーフィングが終了した、まさに直後のことだった。
「海斗くん、お話ししたいことがあります」
口調がいつもと違う響から凄いプレッシャーを放たれながら連れていかれた。
ブリーフィング室を出た廊下で、響と未来の二人に挟まれ、海斗はそのまま逃げ場のない空き部屋へと連行された。
扉が"ガチャン"と閉まると同時に、響がすさまじい圧を放ちながらスマホの画面を海斗の眼前に突きつける。
そこには、昼間のカフェで可愛い女の子二人——調と切歌——に挟まれ、楽しそうにケーキを奢り、笑顔で見送る海斗の姿がバッチリ撮られていた。
「海斗くん……これ、どういうことですか!?」
「弓美ちゃんから送られてきたの。『海斗くんが浮気してる!』って……」
「いや、待て! 誤解だ! てか浮気って俺たち付き合ってないよね!?——」
「そういう問題じゃないですー! 私たちが心配して巡回してる時に、なんで美少女ふたりとケーキ食べて笑顔で見送ってるんですか!?」
詰め寄る響の横で、未来もまた、どこか寂しげで複雑な眼差しを海斗に向けている。
「海斗くん……私にあの通信端末を渡して『安全は保証する』って言ってくれたのに……本当は、私以外の女の子にもあんな風に優しくしてるの……?」
「待ってくれ未来!話を聞いてくれ!これには深〜い事情が——」
「ふんッ! 言い訳は見苦しい!見苦しいぞ、海斗!」
部屋の隅で腕を組み、ぷくーっと頬を膨らませてむくれているのはクリスだ。
響がすごい剣幕だったため海斗が心配で一緒についてきたものの、嫉妬の炎を隠しきれていない。
「アタシたちを差し置いて、どこの馬の骨とも知らんガキ二人にケーキ奢るたぁ、イイ度胸じゃねぇか!ほら、弁明があるなら聞いてやるから吐けッ!」
「クリスまで!? ……分かった、全部話すから落ち着いてくれ!」
海斗は冷や汗を流しながら、必死に弁明を開始した。
「女の子が道で派手に転んでな!買い出しの卵を全部割っちゃって困ってたんだよ! で、お腹の音が凄くて倒れそうだったから、見捨てられなくてたまごを買ってあげて、近くの店でケーキを……それだけだ! 本当に他意はない!」
必死すぎる海斗の様子と、あまりにも彼らしい「天然で放っておけない性格」が出た理由に、響たちは顔を見合わせた。
「……本当に、ただ助けてあげただけなんですか?」
「あぁ、嘘じゃない! 誓ってもいい!」
ふぅ、と溜め息をついた響の表情が緩み、どこか甘えるように海斗の袖をキュッと引っ張った。
「もう……海斗は優しすぎるんだから……心配させないでよねっ……!」
「悪かったよ、響……」
クリスも「チッ……相変わらずお人好し過ぎんだよバカ」と横を向いたものの、その表情からは毒気が抜けていた。
何とか誤解が解け、海斗は隣に立つ未来に向き直る。
「未来も、不安にさせてごめんな。俺が言った言葉に嘘はないから」
「ううん……うそじゃないって、分かってるよ。良かった……」
未来は優しく微笑んだ。
しかし——あのプロポーズ事件以来、海斗を無意識に「一人の男性」として強く意識してしまっている未来の胸の奥には、消えないモヤモヤが渦巻いていた。
(海斗くんの無事は嬉しい……。でも、海斗くんの隣で一緒に戦って、こうやって笑い合えるのは、私じゃないんだ……)
シンフォギア奏者として海斗や響と同じ世界に立つクリスたち。
自分だけが置き去りにされているような無力感と、激しい憧れ、そして嫉妬。
未来の胸中で、その想いはより一層深く、重く沈殿していくのだった。
ーーー
同じ頃。F.I.S.のアジトでは、米軍から奪取した「ソロモンの杖」を手に、マリアたちが動き出していた。
「いくわよ、調、切歌。私たちの正義を示すために」
市街地の上空に、ソロモンの杖の波動が放射される。
空間が歪み、一瞬にして街の真ん中に大量のノイズが召喚された。悲鳴を上げて逃げ惑う人々。
現場へと向かう調と切歌の脳裏には、先ほどケーキを奢ってくれた青年の顔が浮かんでいた。
「……あのお兄さん、絶対二課の奏者デスよね。戦うことになっちゃうデスか……?」
「……迷っちゃダメ、切歌。ウェル博士も言ってた。私たちは世界を救うために……戦わなきゃいけないんだから」
葛藤を振り払うように、二人は聖遺物の欠片を掲げ、ギアを身に纏う。
『市街地C地区にノイズの多重発生を確認! 奏者全員、直ちに出撃してください!』
二課に緊急アラートが響き渡る。
海斗、響、クリス、そして怪我から復帰した翼と奏を加えた5名が現場へと急行した。
惨状と化した街で対峙する両陣営。
「……やっぱり、来たデスね!」
切歌は鎌を構え、海斗を睨みつける。
その瞳には葛藤の色が隠しきれていない。
「あの時のお兄さん……助けてくれたのは感謝してるデス! でも……やっぱり敵だったデスッ!」
「……ごめんなさい、お兄さん!」
調と切歌が海斗に襲いかかる。
海斗は二人を傷つけないよう、盾で巧みに攻撃を受け流し、最小限の動きであしらっていく。
「くっ……二人とも、話を聞け!」
しかし、戦況は芳しくなかった。
マリアが纏う「黒いガングニール」の圧倒的な破壊力に加え、彼女の手にある「ソロモンの杖」が自在にノイズの群れを指揮し、響やクリスたちを分断・後退させていく。
「ハハハ!どうだね、二課の奏者諸君!ソロモンの杖の前には、君たちの力など無力なんだよっ!」
通信越しに高笑いを上げるウェル博士。
「響!クリス!」
ノイズの猛攻を受け、防戦一方になる響とクリス。その危機を目にした瞬間、海斗の胸の中で熱い何かが爆発した。
「仲間は……傷つけさせないッ!!」
海斗がアロンダイトを強く握り締め、滾らせたその時——
——ズゥウンッ!!
空間そのものが震えるような、聞いたこともない異質な概念波形がアロンダイトから放射された。
「……え!?」
その波が広がった瞬間、信じられない光景が広がる。
ソロモンの杖によって制御され、凶悪に蠢いていたノイズの大群が、まるで「上位の絶対権限」にひれ伏すかのように、一瞬で動きを完全に沈黙させたのだ。
それどころか、ソロモンの杖から発せられて行使されていた命令シグナルそのものが強制的に塗り替えられ、消滅していく。
「な……何が起きたノーデス!?」
「ノイズが……命令を聞かない……!?」
マリアと切歌たちが目を見開く。通信の向こうでウェル博士が狂ったように叫んだ。
「馬鹿なッッ!?なんだあのギアはッ!?ソロモンの杖の制御システムを……いや、ノイズという存在のプログラムそのものを『上書き』して無効化しているだと!??あり得ない、そんなものは存在しないはずだ!!」
「くっ……全員、一度撤退するわよ!」
予想外すぎるアロンダイトの「異常現象」に戦慄したマリアは、ソロモンの杖の制御が乱れた隙を突き、調と切歌を引き連れて即座に戦場から離脱していった。
敵が去り、静けさが戻った街。
「はぁ……はぁ……」
ノイズは消え去り、被害は最小限に食い止められた。
しかし、奏者たちの間にあったのは勝利の歓喜ではなく、困惑と息をのむような静寂だった。
「海斗……今の力は……?」
全員が息を呑んで海斗の手にあるアロンダイトを見つめている。
ノイズを滅ぼすのではなく、「無力化し、システムごと従わせた」かのような異質すぎる波動。
「俺も……分からない……」
海斗自身、困惑を隠せずにいた。
前世の知識をいくら探っても、原作『戦姫絶唱シンフォギア』の中にこんな聖遺物は存在しない。
アロンダイトとは一体何なのか。
なぜノイズに対してこれほど絶対的な力を持つのか。深い謎だけが海斗の心に重くのしかかる。
そして——。
特異災害対策機動部のモニター越しに、その戦闘の一部始終を見つめていた小日向未来。
画面の中で輝く海斗の姿。そして、彼を取り囲む響たちの姿。
圧倒的な「世界の違い」を見せつけられた未来は、握りしめた通信端末を胸に抱きしめた。
(海斗くん……響……。私、いつまでも守られるだけの存在でいたくない……。
私にも……二人と同じ『力』があれば……)
――私にもシンフォギアがあれば。
未来の瞳に宿る、切なくも確固たる「決意」の光。
それは、これから訪れるさらなる波乱の幕開けを静かに告げていた。