戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
上空から舞い降りた紫色の装甲——シェンショウジンを纏った小日向未来は、静かに地面へと着地した。
その周囲を包むフォニックゲインは、これまでの優しい彼女の面影を完全に掻き消し、冷徹で禍々しい威圧感を放っている。荒涼とした海辺に、未来の紡ぐ冷たい聖詠が響き渡る。
「未来……っ! 本当に、未来なの……!?」
響がガングニールの拳を降ろし、震える声で呼びかける。
しかし、未来の視線は響には一瞥も向けられず、ただまっすぐに——目の前に立ち尽くす海斗へと向けられていた。
「……見つけたわ、海斗くん」
冷たく、それでいてドロドロとした熱を帯びた未来の声が、海斗の胸を抉る。
その瞳に宿るのは、かつての温かな愛情ではなく、すべてを縛り付けようとする狂気的な執着だった。
「私を置いていかないでって、言ったのに……。でも、もう大丈夫よ。私にも、この強さがあるから。もう誰も、私を『守られるだけの一般人』なんて扱えないわ……!」
「未来、何を言ってるんだ……! そんな力に頼らなくても……!」
海斗が歩み出そうとした瞬間、未来の足元から放たれた紫色の衝撃波が、激しく地面を抉り飛ばした。
「来ないで……! 私の名前を呼んで、私だけを見てくれるだけでいいのよ……! あは、あははははっ!」
歪みきった笑い声を上げる未来の姿に、戦場にいた全員が息を呑んだ。
その時、頭上の雲を切り裂くようにして、超大型航空移動要塞エアキャリアが巨大な影を落とした。
艦首の遥か前方には、世界を揺るがす聖域——沈みゆく『フロンティア』の姿が、ついにその不気味な全貌を現そうとしていた。目的地への到着は、もう目前に迫っている。
―――
―エアキャリアの艦首デッキ。
風が吹き荒れる高所から、ウェル博士が狂喜に満ちた笑みを浮かべて地上を見下ろしていた。
その傍らには、ナスターシャとマリアが静かに立っている。
『クハハハハハハッ! 見事だ! 我が最高傑作の御霊が完全に覚醒したぞ!』
スピーカーを通じて響くウェル博士の声に、地上で戦っていた暁切歌と月読調は顔色を失った。
「博士……! 私たちの役目はまだ……!」
『よくやってくれたよ、小娘ども。だが、もうお前たちに用はない』
「なっ……何を言ってるのデス!?」
『フロンティアの起動と神鏡の完成に、これ以上の駒は不要だ。ナスターシャ、そしてマリア。私に残る忠実な同志よ、彼女たち足手まといをここで切り捨てます。異論はないですね?』
ウェル博士の冷酷な宣告に、切歌と調は息を呑んだ。
しかし、その冷酷な提案に対し、マリアは静かに一歩前へ出た。その表情には、苦渋と、そして強い決意の色が浮かんでいた。
「……ええ、博士の言う通りだわ。彼女たちはここで役目を終えたのよ」
「ま、マリア……!? なんでそんなこと言うのデス!?」
切歌が絶望と怒りの入り混じった声を上げる。
調もまた、信じられないものを見る目でマリアを見上げた。
しかし、マリアの内心は激しく波立っていた。
(——ごめんね、切歌、調。……あなたたちをこれ以上、この狂気の計画に巻き込むわけにはいかない)
ナスターシャの体調も限界に近く、ウェル博士の暴走はもはや止められない。このままフロンティアへ行けば、彼女たちは本当の意味で破滅する。
だからこそ、マリアはあえてウェル博士の切り捨てに賛同するフリをし、切歌と調をこの戦場から引き離す道を選んだのだ。そして、よく切歌と調から話を聞いていた、あの誠実な少年——海斗のいる二課なら、きっと彼女たちを保護し、守ってくれると信じて。
「消えなさい、用済みの失敗作ども!」
ウェル博士の合図で、マリアのガングニールが切歌と調の足元へと容赦ない攻撃を浴びせかけた。
「きゃあぁぁっ!?」
「うそ……っ!」
爆風が吹き荒れ、切歌と調が地面に叩きつけられる。
エアキャリアはそのままフロンティアへ向けて加速を続け、ウェル博士たちと共に空の彼方へと去ろうとする。
「待て……! お前たち、仲間を……!」
海斗がアロンダイトを構えて飛び込もうとしたが、その目の前に、傷だらけの切歌と調が放り出されるように倒れ込んだ。
そして、その背後から、未来が狂気を孕んだ瞳で海斗を見つめながら一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
「海斗くん……私を置いて、他の子を助けるの……? 許さない……絶対に、許さないから……!」
フロンティアの影が空を覆う中、切り捨てられた少女たちと、狂気に囚われた未来の狭間で、海斗たちの新たな戦いが始まろうとしていた。