戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第五話 運命の日、その前に

 

 

ライブまで、あと一週間。

 

その知らせは、海斗にとってあまりにも突然だった。

 

「かいと!」

 

休日の昼下がり。

 

響はいつものように海斗の家へ遊びに来ると、満面の笑みで一枚のチケットを取り出した。

 

「見て見て!ツヴァイウィングのライブチケット!」

 

海斗の心臓が、一瞬止まる。

 

(……来た。)

 

見覚えのあるデザイン。

 

前世でも何度も見た、あの日のライブチケット。

 

「未来ちゃんのお父さんが抽選で当てたんだって!」

 

「それで、一緒に行こうって誘ってくれたの!」

 

嬉しそうに話す響。

 

その笑顔を見ているだけで胸が痛む。

 

「楽しみだなぁ!」

 

海斗は無理やり笑顔を作った。

 

「……そうか。よかったな。」

 

「うん!」

 

響は本当に嬉しそうだった。

 

その姿を見ていると、とても「行くな」とは言えない。

 

 

その日の夜。

 

海斗は自室で机に向かっていた。

 

ノートを何冊も広げる。

 

前世の記憶を書き留めようとしたものだ。

 

しかし、そのページは空白ばかりだった。

 

「思い出せ……。」

 

シャーペンを握る手に力が入る。

 

「ライブの後、何があった?」

 

「ノイズはどこから現れた?」

 

「奏さんは、どうして……。」

 

思い出せない。

 

断片的な映像しか浮かばない。

 

ライブ。

 

悲鳴。

 

崩れるステージ。

 

—翼。

 

—奏。

 

—響。

 

そして――。

 

思い出せない。

 

「くそっ!」

 

思わず机を叩く。

 

もっと覚えていれば。

 

もっと詳しく知っていれば。

 

救える命があったかもしれない。

 

「なんで……。」

 

「なんで一番大事なところだけ思い出せないんだ……!」

 

静かな部屋に、自分の声だけが空しく響く。

 

 

その夜。

 

ペンダントが淡く光る。

 

『…焦りは判断を鈍らせる。』

 

アロンダイトだった。

 

海斗は苦笑する。

 

「分かってる。」

 

「でも……。」

 

『汝は未来を知っている。』

 

『故に未来を変えようとする。』

 

『しかし。』

 

『未来を知ることと、未来を支配することは違う。』

 

海斗は黙って聞いていた。

 

『今のお前に必要なのは後悔ではない。』

 

『選択だ。』

 

「選択……。」

 

『運命の日は近い。』

 

『お前は何を選ぶ。』

 

光が消える。

 

海斗は一人、窓の外を見つめた。

 

 

ライブ前日。

 

学校帰り。

 

響は楽しそうに話していた。

 

「未来ちゃん、お弁当も作るんだって!」

 

「ライブ終わったら写真も撮りたいなぁ!」

 

「翼さんも奏さんも近くで見られるかな!」

 

海斗は何度も口を開いた。

 

「響。」

 

「ん?」

 

「明日のライブだけど……。」

 

「うん!」

 

「その……。」

 

言え。

 

今なら間に合う。

 

「行くな。」

 

その一言だけでいい。

 

そうすれば。

 

運命は変わるかもしれない。

 

でも。

 

もし何も起きなかったら。

 

未来を奪うのは自分になる。

 

響は一生楽しみにしていたライブへ行けなくなる。

 

未来との思い出も消えてしまう。

 

「……いや。」

 

結局。

 

言えなかった。

 

「楽しんでこい。」

 

響は笑顔になる。

 

「うん!」

 

その笑顔が、海斗の胸を締め付ける。

 

 

そして――。

 

ライブ当日。

 

朝から空は快晴だった。

 

海斗は制服ではなく私服に着替える。

 

机の引き出しを開ける。

 

そこにはアロンダイトの欠片。

 

「行くぞ。」

 

静かに握り締める。

 

『覚悟は決まったか。』

 

「……ああ。」

 

『守るべき者は。』

 

「響だ。」

 

『ならば迷うな。』

 

海斗は静かに家を出た。

 

 

ライブ会場。

 

数え切れないほどの観客。

 

グッズを抱えたファン。

 

笑顔。

 

歓声。

 

期待。

 

その中に海斗はいない。

 

チケットは持っていない。

 

だから会場の外。

 

人目につかない場所で、じっと建物を見つめていた。

 

(ここでいい。)

 

中へ入れなくてもいい。

 

事件が起きれば分かる。

 

その瞬間だけを待つ。

 

時間だけが過ぎていく。

 

午後一時。

 

午後二時。

 

午後三時。

 

ライブ開始。

 

会場の中から、歓声が聞こえてくる。

 

(頼む。)

 

(何も起きないでくれ。)

 

そう願う自分と。

 

(もし何も起きなければ、未来は変わった証拠だ。)

 

そう期待する自分がいた。

 

矛盾した感情。

 

願いと恐怖。

 

どちらが本心なのか、自分でも分からない。

 

その時だった。

 

――キィィィィィィン!!

 

突然、耳をつんざくような警報音が街に鳴り響く。

 

周囲の人々がざわめく。

 

「なんだ?」

 

「事故か?」

 

空気が変わる。

 

海斗はゆっくりと顔を上げた。

 

見上げた空が、黒く歪んでいく。

 

「……始まった。」

 

喜ぶべきなのか。

 

それとも絶望すべきなのか。

 

その答えは、自分でも分からない。

 

ただ一つだけ確かなことがある。

 

立花響の運命は、今この瞬間から動き始めた。

 

海斗は胸元のアロンダイトを強く握り締め、ライブ会場へ向かって駆け出した。

 

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