戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第五話 運命の日、その前に

 

 

ライブまで、あと一週間。

 

その知らせは、海斗にとってあまりにも突然だった。

 

「かいと!」

 

休日の昼下がり。

 

響はいつものように海斗の家へ遊びに来ると、満面の笑みで一枚のチケットを取り出した。

 

「見て見て!ツヴァイウィングのライブチケット!」

 

海斗の心臓が、一瞬止まる。

 

(……来た。)

 

見覚えのあるデザイン。

 

前世でも何度も見た、あの日のライブチケット。

 

「未来ちゃんのお父さんが抽選で当てたんだって!」

 

「それで、一緒に行こうって誘ってくれたの!」

 

嬉しそうに話す響。

 

その笑顔を見ているだけで胸が痛む。

 

「楽しみだなぁ!」

 

海斗は無理やり笑顔を作った。

 

「……そうか。よかったな。」

 

「うん!」

 

響は本当に嬉しそうだった。

 

その姿を見ていると、とても「行くな」とは言えない。

 

◇

 

その日の夜。

 

海斗は自室で机に向かっていた。

 

ノートを何冊も広げる。

 

前世の記憶を書き留めようとしたものだ。

 

しかし、そのページは空白ばかりだった。

 

「思い出せ……。」

 

シャーペンを握る手に力が入る。

 

「ライブの後、何があった?」

 

「ノイズはどこから現れた?」

 

「奏さんは、どうして……。」

 

思い出せない。

 

断片的な映像しか浮かばない。

 

ライブ。

 

悲鳴。

 

崩れるステージ。

 

—翼。

 

—奏。

 

—響。

 

そして――。

 

思い出せない。

 

「くそっ!」

 

思わず机を叩く。

 

もっと覚えていれば。

 

もっと詳しく知っていれば。

 

救える命があったかもしれない。

 

「なんで……。」

 

「なんで一番大事なところだけ思い出せないんだ……!」

 

静かな部屋に、自分の声だけが空しく響く。

 

◇

 

その夜。

 

ペンダントが淡く光る。

 

『…焦りは判断を鈍らせる。』

 

アロンダイトだった。

 

海斗は苦笑する。

 

「分かってる。」

 

「でも……。」

 

『汝は未来を知っている。』

 

『故に未来を変えようとする。』

 

『しかし。』

 

『未来を知ることと、未来を支配することは違う。』

 

海斗は黙って聞いていた。

 

『今のお前に必要なのは後悔ではない。』

 

『選択だ。』

 

「選択……。」

 

『運命の日は近い。』

 

『お前は何を選ぶ。』

 

光が消える。

 

海斗は一人、窓の外を見つめた。

 

◇

 

ライブ前日。

 

学校帰り。

 

響は楽しそうに話していた。

 

「未来ちゃん、お弁当も作るんだって!」

 

「ライブ終わったら写真も撮りたいなぁ!」

 

「翼さんも奏さんも近くで見られるかな!」

 

海斗は何度も口を開いた。

 

「響。」

 

「ん?」

 

「明日のライブだけど……。」

 

「うん!」

 

「その……。」

 

言え。

 

今なら間に合う。

 

「行くな。」

 

その一言だけでいい。

 

そうすれば。

 

運命は変わるかもしれない。

 

でも。

 

もし何も起きなかったら。

 

未来を奪うのは自分になる。

 

響は一生楽しみにしていたライブへ行けなくなる。

 

未来との思い出も消えてしまう。

 

「……いや。」

 

結局。

 

言えなかった。

 

「楽しんでこい。」

 

響は笑顔になる。

 

「うん!」

 

その笑顔が、海斗の胸を締め付ける。

 

◇

 

そして――。

 

ライブ当日。

 

朝から空は快晴だった。

 

海斗は制服ではなく私服に着替える。

 

机の引き出しを開ける。

 

そこにはアロンダイトの欠片。

 

「行くぞ。」

 

静かに握り締める。

 

『覚悟は決まったか。』

 

「……ああ。」

 

『守るべき者は。』

 

「響だ。」

 

『ならば迷うな。』

 

海斗は静かに家を出た。

 

◇

 

ライブ会場。

 

数え切れないほどの観客。

 

グッズを抱えたファン。

 

笑顔。

 

歓声。

 

期待。

 

その中に海斗はいない。

 

チケットは持っていない。

 

だから会場の外。

 

人目につかない場所で、じっと建物を見つめていた。

 

(ここでいい。)

 

中へ入れなくてもいい。

 

事件が起きれば分かる。

 

その瞬間だけを待つ。

 

時間だけが過ぎていく。

 

午後一時。

 

午後二時。

 

午後三時。

 

ライブ開始。

 

会場の中から、歓声が聞こえてくる。

 

(頼む。)

 

(何も起きないでくれ。)

 

そう願う自分と。

 

(もし何も起きなければ、未来は変わった証拠だ。)

 

そう期待する自分がいた。

 

矛盾した感情。

 

願いと恐怖。

 

どちらが本心なのか、自分でも分からない。

 

その時だった。

 

――キィィィィィィン!!

 

突然、耳をつんざくような警報音が街に鳴り響く。

 

周囲の人々がざわめく。

 

「なんだ?」

 

「事故か?」

 

空気が変わる。

 

海斗はゆっくりと顔を上げた。

 

見上げた空が、黒く歪んでいく。

 

「……始まった。」

 

喜ぶべきなのか。

 

それとも絶望すべきなのか。

 

その答えは、自分でも分からない。

 

ただ一つだけ確かなことがある。

 

立花響の運命は、今この瞬間から動き始めた。

 

海斗は胸元のアロンダイトを強く握り締め、ライブ会場へ向かって駆け出した。

 

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