戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「海斗くん……私を置いて、他の子を助けるの……? 許さない……絶対に、許さないから……!許さないからぁぁぁぁぁ!!」
神鏡・シェンショウジンを纏った小日向未来は、愛憎の入り混じった異様な眼差しを海斗に向け、一歩、また一歩と地上を滑るように近づいてくる。
その纏う紫色のフォニックゲインは、周囲の空気を歪ませるほどの異常な密度に達していた。
「未来、待て……! その力に溺れるな!」
海斗がアロンダイトの装甲を輝かせながら一歩踏み出すと、未来はぴたりと足を止め、信じられないほど愛おしそうな、それでいて底知れぬ狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
「染められてなんかいないわ。……私、やっとわかったの。ずっと怖かったのよ。海斗くんの隣にいるには、私はあまりにも弱くて、ただ守られるだけの役立たずだってことが……!」
「そんなこと……思ったことは一度も……っ!」
「嘘よ! あの時だって、あの女の子たちを庇って、私を置いていったじゃない……! 私を見ていなかったくせに!」
未来の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
だが、その涙は悲しみによるものではなく、歪んだ独占欲と自己愛が煮詰まったものだった。
「だからね、この力を手に入れたの。これなら、海斗くんはもう私から目をそらせない。他の誰かを見る余裕なんて、少しも残してあげない。私と同じ痛みを知って、私だけを見て、永遠に……私のためにだけに生きてもらえばいいのよ……あは、あははははっ!」
狂気に満ちた未来の嬌笑が、荒涼とした海岸線に響き渡る。
切歌や調のために傷つき、自分を置いていかれたという被害者意識と、圧倒的な聖遺物の力が混ざり合い、彼女の精神は完全に「海斗への依存」という名の呪縛に囚われていた。
「未来、目を覚ませ……! そんなの、お前じゃない……!」
「これ以外に、どうやって私を証明しろって言うの……!?」
未来が絶叫した瞬間、神獣鏡・シェンショウジンが眩い、しかし禍々しいほどの紫光を爆発させた。
「ぐっ……なんだこの波動は……!?」
あまりの重圧に、響がガングニールの拳を押さえて膝をつく。
クリス、翼、そして先ほど海斗たちに保護されたばかりの調と切歌も、全身の自由を奪われるような圧倒的なプレッシャーに息を呑んだ。
「――お前のその歪んだ力で、すべてを従えようとするな!」
奏がガングニールの槍を構え、響たちの前に飛び出す。
だが、神鏡の絶対的な波動は、それを嘲笑うかのようにさらなる高みへと達した。
——パキンッ、バリィィンッ……!
乾いたガラスが割れるような音が、戦場に響き渡る。
響の身体を包んでいたガングニールが砕け散り、光の粒子となって消えていく。
続いて、クリスのアイギス、翼の天羽々斬、そして調のシュルシャガナと切歌のイガリマまでもが、次々と強制的に解除されてしまった。
「うそ……アタシたちのギアが……っ!?」
「そんな……なんで……!」
次々と崩れ落ち、戦闘不能になる仲間たち。
無防備となった響たちが地面に倒れ込む中、なおも紫色の光は猛威を振るい、海斗と奏の方向へと襲い掛かる。
だが次の瞬間、海斗の右腕に装着されたアロンダイトが、青白く、しかし激しい光を放った。
――ズォンッ!
「……っ!?」
未来の放った圧倒的な神鏡の波動が、海斗の身体を直撃したかに見えたその時、アロンダイトから溢れ出た光の障壁が、まるで巨大な盾のように周囲を包み込んだ。
それは攻撃を防ぐだけではない。
「未来を護る」という海斗の強い意志と、アロンダイトに宿る守護の力が共鳴し、容赦なく押し寄せる拒絶の波動を完璧に弾き返したのだ。
そして、その海斗の盾に守られるようにして、隣に立つ奏のガングニールもまた、消えかけることなく眩い光を維持し続けていた。
「……私のギアは、消えてない……?」
奏が目を見張り、隣に立つ海斗を見上げる。
海斗はアロンダイトの輝きを背に受け、冷や汗を流しながらも、まっすぐに未来を見据えた。
「未来……! お前のその力がどれほど絶望に満ちていようと、俺は絶対に、お前をその闇から連れ戻す!」
「……どうして……!」
自分のすべてをかけた圧倒的な力が弾かれたことに、未来の顔に初めて動揺の色が走る。
しかし、それはすぐにさらなる狂気へと塗り替えられた。
「どうして私を見てくれないの……! ならば、力ずくで、私の形に作り替えてあげる……!」
狂気を纏った神鏡の少女が、すべての光を切り裂くようにして、海斗へと突撃の牙を剥き出しにした。