戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

51 / 79
第五十話 独占欲

 

 

「ぐっ……!」

 

神鏡・シェンショウジンの圧倒的な波動の前にガングニールを砕かれ、響、クリス、翼、そして切歌と調の体が地面に崩れ落ちる。

 

無防備となった彼女たちに、未来から放たれた余波の衝撃が容赦なく襲い掛かる。

 

「させるかよっ……!」

 

だが、その場に踏み止まった天羽奏が、光を放つガングニールの槍を大きく振るった。

 

迸るフォニックゲインが障壁となり、倒れた響たちをすっぽりと覆い隠す。

 

「奏さん……っ!」

 

「安心しろ、ここは私と海斗が抑えてる。お前たちは下がってろ!」

 

奏が前線を死守する背後で、海斗はアロンダイトを構え、紫色の装甲を纏った小日向未来と対峙していた。

 

「未来、頼むから目を覚ましてくれ……! その力はおかしい、お前が望んだものじゃないはずだ!」

 

「おかしくないわ!」

 

未来の鋭い叫びが、潮騒を切り裂く。

 

彼女は紫の光線を放ちながら、一歩、また一歩と海斗との距離を詰めていく。

 

「ずっと私を見てくれなかったくせに……! 私が弱くて、守られるだけの足手まといだったから、あの女の人たちを優先して……私を置いていったんでしょう!? だから、こうして同じ力を手に入れたのよ!」

 

アロンダイトの盾が未来の攻撃を受け止める。

 

凄まじい火花が散る中、未来は潤んだ瞳をさらに見開き、情念の籠った声でまくし立てた。

 

「ねえ、海斗くん……私を愛して! 私だけを見て! 他の誰にも優しくしないで、私の名前だけを呼んでよ! あなたの頭の中を私だけで埋め尽くして、永遠に、永遠に私のものにしてあげるから……っ!」

 

激しい戦闘の最中でありながら、未来の口から次々と飛び出すのは、あまりにも重く、歪みきった「愛の告白」そのものだった。

 

「み、未来……っ!?」

 

その言葉に、海斗は大きく息を呑み、動揺のあまり一瞬だけ動きを止めてしまった。

 

目の前にいるのは、かつて共に穏やかな日常を過ごし、優しく微笑んでくれたはずの小日向未来だ。

 

だが、今の彼女から放たれるのは、すべてを焼き尽くし、縛り付けるようなドロドロとした独占欲と狂気。

 

あまりの変貌ぶりと、自分に向けられた歪んだ愛の重圧に、海斗の精神は激しくかき乱される。

 

(嘘だろ……? 俺が……俺のせいで、未来をこんな風にしてしまったのか……?)

 

「どうしてそんな顔をするの……! 私を見てよ、私だけを愛してよ……っ!」

 

背後で奏の防壁を支えつつ、そのやり取りを漏れなく聞いていた響たちは、思わず動きを止めて言葉を失った。

 

(……え? 今戦闘中、だよね……? なんか、こう、すごい重い愛の告白を聞かされているような……?)

 

切歌や調も顔を赤くし、冷や汗を流しながら「なんだか空気がすごいことになってるデス……」と気まずそうに身を縮こまらせる。

 

しかし、戦場の緊迫感などお構いなしに、未来の狂気はさらに加速していく。

 

海斗が動揺から立ち直ろうとしたその瞬間、未来の心の闇と神獣鏡・シェンショウジンの暴走が最高潮に達した。

 

同時に海斗の脳裏を激しい頭痛が貫く。

 

(っ……なんだ、これ……?)

 

未来の放つ波動と、アロンダイトの護る力が激しく衝突した瞬間、海斗の深層意識の奥底で、何かが「カチリ」と音を立てて外れた。

 

——『ふっ……愚かしい。愛欲に溺れる小娘のなんと滑稽なことか』

 

頭の中に響いたのは、海斗自身のものではない、冷徹で、あまりにも高慢な女性の声。

 

それは、かつて世界を揺るがせた人類の敵――**「フィーネ」**の意識だった。

 

未来の狂気的な神鏡の共鳴が触媒となり、海斗の中に眠っていたフィーネの魂が、新たな「依代」として目覚め始めてしまったのだ。

 

「ぐあぁっ……!」

 

「海斗……!? どうしたの!?」

 

海斗が頭を押さえて膝をつきかけたその隙に、未来は両手を突き出し、すべての感情を乗せた最強の一撃を放った。

 

「私だけを見てよ――!!」

 

轟音と共に放たれたのは、周囲の空間すら歪めるほどの、極太の紫色のエネルギー波だった。それは海斗の存在を丸ごと飲み込み、永遠に自分だけのものにするための、神鏡の最大出力。

 

「海斗っ……!」

 

奏が叫び、響たちが目を見張る。圧倒的な光の奔流が海斗へと直撃しようとしたその瞬間——。

 

海斗の右腕に嵌まったアロンダイトが、眩暈がするほどの神々しい青白い光を爆発させた。

 

それは海斗の「護る意志」と、無理やり覚醒しかけたフィーネの絶対的な力が混ざり合い、臨界点を超えた瞬間だった。

 

——ズオォォォンッ!!

 

未来の放った極太の攻撃が、海斗の前方に展開されたアロンダイトの障壁に激突する。

 

しかし、今回は防ぐだけではなかった。

 

アロンダイトの強烈な「守護の力」が、未来の全エネルギーをまるごと包み込み、そっくりそのまま荒れ狂う海面へと跳ね返したのだ。

 

「なっ……!?」

 

未来が目を見開く。

 

反射された極太の光の奔流は、地上を離れ、荒波を切り裂きながら一直線に海中へと突き刺さった。

 

そして——。

 

海底深くで沈黙を守っていた、人類の歴史を揺るがす聖域**『フロンティア』**の核心部を、その光が完璧に直撃した。

 

——バァァァァンッ!!

 

海面が大きく割れ、これまで海底に眠っていたフロンティアが、禍々しくも巨大な光を放ちながら、目覚めの咆哮を海中から轟かせたのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。