戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
特務潜水艦が静かに深海を渡る中、艦内の医務室は異様な熱気に包まれていた。
変身を解除され、命に別状がないと確認された小日向未来は、清潔なベッドの上で目を覚ましていた。
……のだが、その状態が少し、いや、大いに異常だった。
「……う、うううぅぅぅ…………っ!!」
ベッドの掛け布団が、芋虫のようにモゾモゾと蠢いている。
未来は布団を頭まですっぽりと被り、顔を完全に隠したまま、絶え間なく震えていた。その横には、心配そうにパイプ椅子に座る海斗の姿があった。
「未来……? 体調は大丈夫か? どこか痛むところでもあるなら、すぐに医者を……」
「来ないでー! 見ないで海斗くん! 今の私は見ちゃダメなのーーーっ!」
布団の中から、裏返った叫び声が飛び出す。
聖遺物『神獣鏡・シェンショウジン』の呪縛から解き放たれた未来だったが、暴走していた間の自分の言動——あの、ドロドロとした愛と執着に満ちた「メンヘラ全開の告白」の記憶が、鮮明な映像として脳裏に焼き付いていたのだ。
「私……私……『世界ごと壊して二人きりになりましょうあははは』って……! 『私だけを見て愛して』って……! 何を言ってるの私!? どの口が言ってるのーーーっ!?」
「あ、あれは、ほら、聖遺物に狂わされていただけで、未来の本心じゃないって分かってるから……」
海斗が気遣わしくフォローしようと手を差し伸べると、未来は布団の中からバッと顔だけを覗かせた。
その顔は、茹で上がったタコのように真っ赤に染まっている。
「ち、違うの! 違わないけど違うの! いや半分くらいは本心かもしれないけど、あんな狂気的なベクトルじゃないの! 私はただ、海斗くんが他の女の子と仲良くしてるのを見て、ちょっとだけ胸がチクチクして、もっと私を見てほしいなって思ってただけで……って、何言わせてるの海斗くんのバカーーーッ!」
「お、俺のせい!?」
パニックを起こした未来は、勢い余って枕を海斗の顔面に投げつけた。
「うぅ……もう海斗くんに顔向けできない……。『私だけのものにしてあげる』だなんて、まるで愛の重い怪獣じゃない……! 私、海斗くんの中で『恐ろしい重い女』ってカテゴリーに入っちゃったんだ……終わった……私の青春が爆破散華した……っ」
「そんなこと思ってないって! 無事でいてくれて、本当に良かったと思ってるんだから!」
「やめて! その優しい声が今の私には劇薬なの! 恥ずかしすぎてフォニックゲインが自爆しそうだから、お願いだから一回出ていってぇぇぇっ!」
ジタバタとベッドの上で暴れる未来に押し出されるようにして、海斗はほうほうの体で医務室を叩き出されるのだった。
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一方その頃——。
艦内の娯楽室には、不穏な空気が漂っていた。
海斗を医務室から締め出した直後、女子たちが一堂に会していたのだ。
参加者は立花響、天羽奏、風鳴翼、雪音クリス。そして、二課に保護され、少し身なりを整えたF.I.S.の暁切歌と月読調の二人だった。
「さて……みんな、集まってもらった理由は分かっているね?」
テーブルの端で、響が腕を組みながら真剣な表情で口を開く。
「あいつの無自覚天然たらしっぷりが、ついに未来を『世界滅亡レベルのメンヘラ』にまで覚醒させた件についてだな」
奏が呆れたように溜息をつきながら補足すると、周囲から一斉に頷く気配が上がった。
「デス! 正直、未来さんのあの叫びは怖すぎたデス……!」
切歌が顔を青くしながらも、ふと頬を朱に染めてモジモジとし始めた。
「でも……でもデス! あんな風に一直線に海斗に迫られると思うと……ちょっと胸がキュンとしちゃう気持ちも、分からなくはないデス……///」
「き、切ちゃん!?」
調が驚いて切歌を見るが、調自身もすぐに顔を真っ赤にして視線を泳がせた。
「う、ううん……でも、確かに海斗さんは……敵だった私たちにも優しく接してくれたし……窮地の時に守ってくれた顔、すごくかっこよかったから……その……ちょっとだけ、好きになっちゃう気持ちは……分かるかも……」
「お前らまで毒されてんじゃねーか!!」
クリスが激しいツッコミを入れ、頭を抱えた。
「ったく、あの男はどこに行ってもこれだ! 敵だろーが味方だろーがが無自覚に優しくして、フラグを乱立させやがって! 未来があんな風になったのも、半分くらいあの鈍感男のせいだろ!」
「むぅ……海斗の周囲に対する境界線の緩さは以前から懸念していたが、よもやF.I.S.の少女たちまで魅了していたとはな……」
翼もどこか納得いかないといった様子で不機嫌そうに眉をひそめる。
「というわけで!」
響がテーブルをバンッと叩いて立ち上がった。
「海斗くんには、自分のしでかした『無自覚な罪』の重さをしっかりと自覚してもらう必要があります! 調ちゃん、切歌ちゃんも、言いたいことがあったらハッキリ言っていいからね!」
「「はいデス!!/はいっ!」」
こうして、医務室の前で未来の体調を心配しながら呆然と立っていた海斗のもとへ、怒りと少々の情念を燃やした少女たちの集団が、ズカズカと足音を立てて迫っていくのであった。
「……え、なに? みんな、そんな怖い顔してどうしたの……?」
何も分かっていない海斗の、悲痛な取り調べの時間が始まろうとしていた。