戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「さて、容疑者・海斗。弁明があるなら聞いてあげてもいいけど……どうせ『俺はただ助けたかっただけだ』とか言うつもりでしょ!?」
潜水艦の打合せ室を丸ごと占拠して設置された『特設・海斗おしおき取り調べ室』。
パイプ椅子にちょこんと座らされた海斗を、響が指を突きつけながら鋭い眼光で睨みつけていた。
「いや、本当に俺はただ……!」
「ほら言ったーーーっ!」
「自供完了だな! 罪状は『無自覚な天然たらしによる被害拡大罪』および『小日向未来のメンヘラ覚醒誘発罪』だ!」
クリスがパイプ椅子をバンバンと叩きながら叫ぶ。
横に並ぶ翼も、腕を組んで深く頷いていた。
「海斗……お前の『誰にでも手を差し伸べる善性』は評価するが、今回はそれが裏目に出すぎた。未来のあの狂気的なまでの執着心、あれはお前の無防備な優しさが育んだものと言っても過言ではない」
「翼さんまでそんな……!か、奏さん、助けてくれよ!」
助けを求めるように視線を向けた海斗だったが、奏は呆れたように肩をすくめるだけだった。
「無駄だ。私だって擁護しきれん。……で、そっちの二人はどうなんだ?」
奏が視線を向けた先にいたのは、縮こまりながら打合せ室の端に座っていた切歌と調の二人だった。
切歌は顔を真っ赤にしながら、海斗から視線を逸らしてモジモジと指をあわせている。
「な、なにを聞くデスか! 私はただ……海斗が助けてくれた時の手がすごく温かかったとか……『大丈夫か』って覗き込んできた顔がちょっとカッコよくてドキッとしたとか……そんなこと全然思ってないデス!」
「思ってるじゃないデスか!!」
口調がおかしくなったクリスが即座に突っ込む。
調もまた、湯気が出そうなほど顔を赤くしながら、ぼそぼそと呟いた。
「う……海斗さんは、敵だった私たちにもお弁当を分けてくれたり……優しくしてくれました……。その……『君たちを傷つけたくない』って言われた時、私、胸がキュッて……」
「完全に落ちかけてんじゃねーか!!」
「ち、違う! 俺はただ、二人にも戦ってほしくなかっただけで……っ!」
汗だくで弁明する海斗だったが、女子たちの追求の目はさらに厳しさを増していく。
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その頃、医務室——。
「うぅ……うううぅぅぅ…………っ!」
ベッドの上で、未来はシーツを限界まで引っ張り上げ、顔を真っ赤にして転がっていた。
頭の中では、先ほど自分が海斗に言い放ったセリフの数々が無限ループで再生されていた。
『私だけを見て!』
『私の名前だけを呼んで!』
『私以外の世界なんて全部消し去ってあげる!』
「死ぬ……! 恥ずかしすぎて私が概念として消滅しそう……っ!」
ジタバタと足をバタつかせ、枕に顔を埋めて悶絶する未来。
鏡を見るまでもなく、自分の顔が熟し切ったトマトのようになっているのが分かった。
「どうしよう……海斗くん、絶対引いてるよね……? 『小日向さんって、実はすごく重くて怖い人だったんだ』って思われてるよね……! あんなこと言われたら、もう普通に『おはよう』なんて言えないよぉ……っ!」
自分のやらかした失言のスケールがあまりにも「世界規模」すぎて、未来の少女心は完全にキャパシティをオーバーしていた。
だが、ずっとこうして逃げているわけにもいかない。
「う、ううん……! 私がちゃんと謝らなきゃ……! 『あれは聖遺物のせいで、私はあんなヤバい奴じゃありません』って、ちゃんと……!」
未来は意を決すると、真っ赤な顔のままガバッと布団を跳ね上げ、震える足で立ち上がった。
海斗に直接会って、誤解を解く(ついでに記憶から消去してもらう)ために。
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「……というわけで! 海斗くんには今後、女子に対する『無自覚な優しさ』を禁止します!」
響が腕を組んで宣言したその瞬間。
―——打合せ室のドアが、おずおずと開いた。
「あ……あの……海斗くん……」
そこに立っていたのは、顔を真っ赤にし、目元をうるませた未来だった。
部屋の中の殺伐とした空気と、一斉に向けられた視線に、未来は「ひゃいっ!?」と変な声を上げる。
「み、未来!? 体はもう大丈夫なのか!?」
海斗が心配して立ち上がろうとしたその時、打合せ室のテーブルの上に並べられた『罪状:無自覚たらし』と書かれた紙や、切歌と調の真っ赤な顔が未来の視界に飛び込んできた。
「あ、あのね……海斗くん……さっきは……私……すごく変なこと言って……っ!」
「未来、気にするな! あれは神獣鏡のせいだって分かってるから!」
海斗が慌ててフォローしようと近づくと、未来はぽんっと音がしそうなほどさらに顔を赤くし、カッと目を見開いた。
「ち、違うの! 完全に聖遺物のせいってわけじゃなくて……! 私の……私のなかの……『海斗くんが好き』っていう気持ちが……変な風に膨らみすぎちゃって……っ!!」
「「「「「……え”!?」」」」」
部屋にいた全員の動きが止まった。
未来は自分が口にした言葉の破壊力に気づき、「あ」と口を押さえる。
「……あ、今……自爆した……?」
未来の顔面が、いよいよ限界突破の朱色に染まる。
「ち、ちがーーーーうっ! 今のは不可抗力! 忘れてぇぇぇぇっ!!」
パニックを起こした未来は、悲鳴を上げながら来た道を全力で逆走して逃げ去っていった。
廊下の奥から「もー嫌だぁぁぁぁっ!」という絶叫と、派手に転ぶ音が響き渡る。
嵐のような去り際に、残された打合せ室には沈黙が流れた。
そして——。
「「「「「……海斗……(くん/さん)。」」」」」
全員の冷ややかな、しかし殺気立った視線が、再び海斗へと一斉に向けられた。
「お前……そこまで言わせておいて……まさか『無実です』で済ますつもりじゃないだろうな……?」
奏が拳をゴリゴリと鳴らす。
「な、なんで俺が責められるんだよぉぉぉっ!?」
深海を進む潜水艦の中に、海斗の悲痛な叫び声が虚しく響き渡るのだった。