戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
特務潜水艦のブリッジに、重苦しい緊張が走っていた。
スクリーンに映し出されているのは、浮上した古代遺跡『フロンティア』の解析データと、メンバー全員のシンフォギアのバイタルグラフだった。
「……信じられないが、事実だ」
弦十郎司令が腕を組み、深く重い溜息をついた。
未来の纏っていた『神獣鏡・シェンショウジン』——あらゆる聖遺物のエネルギーを分解・消去する「浄化の光」。
先ほどの戦闘で放たれたその光と反射の余波線を浴びたことで、響のガングニール、翼の天羽々斬、クリスのイチイバル、そして切歌と調のシュルシャガナとイガリマの聖遺物結晶は、破壊され、完全に消失してしまっていた。
「そんな……私のガングニールが……」
響が自分の胸元を強く握りしめるが、かつて感じられた聖遺物の鼓動は綺麗に絶えていた。
翼もクリスも、歯噛みをしながら自分の装者としての力を失った拳を見つめるしかない。
だが、その壊滅的な状況の中で、奇跡的に無傷の聖遺物が二つだけ存在していた。
「海斗のアロンダイトは、神獣鏡の光をその身で受けて跳ね返したことで無事……そして私のガングニールは、海斗のアロンダイトが展開した障壁の影に入っていたおかげで、光の直撃を免れたってわけだ」
奏が自身の胸元で光るペンダントを握りしめ、静かに言い放った。
「つまり……今、フロンティアへ突入してウェル博士の暴走を止められるのは、俺と奏さんの二人だけってことだな」
海斗の言葉に、響や翼たちが立ち上がる。
「ダメだよ海斗! 二人だけで行くなんて危険すぎる! ウェル博士が何を仕掛けてくるか……!」
「そうだぞ! あたしたちだって、ギアが使えなくたって……!」
「落ち着け、お前たち」
弦十郎の厳格な声が室内に響いた。
「気持ちは分かるが、相手は未知の古代遺跡だ。聖遺物の護りなしで足を踏み入れれば、ノイズの脅威以前にフロンティアの防衛機構に削り取られる。……海斗、奏。世界の命運を二人だけに託すことになってすまん」
「気にしないでください、司令」
海斗は力強く頷き、アロンダイトを装着した右腕を見つめた。
「未来を……そしてみんなを護るために、俺は行きます。響、未来のことは頼んだぞ」
「海斗……っ! うん……! 絶対に、未来を守るから……! だから、二人とも絶対に帰ってきてね!」
響の涙ぐんだ笑顔に見送られ、海斗と奏は二人のみでのフロンティア突入作戦へと出撃していった。
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一方その頃——。
荒波を割り、海底から浮上した巨大構造物『フロンティア』の中枢制御室。
不気味な紫と緑の結晶が蠢く空間で、ウェル博士は狂気の笑みを浮かべながら、ガラス瓶に入った『何か』を掲げていた。
それは、凄まじい生命力で鼓動を続ける、あの超常の獣——「ネフィリムの細胞組織」だった。
「クハ……クハハハハハっ! 素晴らしい! これぞ神が私に与えし最高の鍵だ!」
「博士……何をなさるつもりですか!?」
車椅子に揺られるナスターシャが制止の声を上げる。
その傍らでマリアもまた、あまりの異常さに息を呑んでいた。
「フロンティアはあまりにも巨大すぎる……! 私の脳と神経だけでは、この遺跡の真の機能を完全同期(リンク)させるには処理能力が足りないのだよ! だから……こいつを私の体に『移植』するのさぁ!」
「正気じゃないわ、ウェル博士! ネフィリムの細胞を人体に直接取り込むなんて、即座に肉体が崩壊するわ!」
マリアが叫ぶが、ウェル博士は聞く耳を持たなかった。
「英雄になるための試練としては、安いものさねぇぇぇっ!!」
——ズスッ!!
ウェル博士は躊躇なく、ネフィリムの組織が入った極太の注射器を自らの首筋へと突き刺した。
「ギ……ガァァァァァァァァァァァァッ!?」
けたたましい悲鳴が制御室に響き渡る。
ウェル博士の皮膚の下を、ドロドロとした黒紫色の血管が浮き上がり、細胞が異様に脈打ち始めた。眼球は血に染まり、肉体が内側からネフィリムの侵食を受けて軋み声を上げる。
「痛い……痛いぞぉぉぉ! だが……足りない! 脳細胞が拡張していく! フロンティアの全システムが……私と一つになっていく感覚だぁぁぁっ!!」
狂気と激痛の果てに、ウェル博士の背中から異形の触手のような神経線が大量に噴出し、フロンティアの中枢コンソールへと直接突き刺さった。
——ゴーッ!!
フロンティア全体が震動し、古代の回路が一斉に眩い光を放ち始める。
完全な同期を果たしたウェル博士は、両手を広げて高らかに笑い声を上げた。
「見たかナスターシャ! 見たかマリア! 私はフロンティアの真の機能を解放した! これより、世界の再構築を始める!」
ウェル博士がフロンティアの核へと命令を打ち込むと、遺跡の頂点から天に向けて、極太の光の柱が照射された。
その光は雲を突き抜け、はるか上空——「月」へと到達する。
「な……何をするつもりなの……!?」
マリアが天空を見上げて青ざめた。
夜空に浮かぶ月が、怪しく歪み始めていた。
フロンティアから放たれた力は、重力バランスを狂わせ、その膨大な質量の軌道を強制的に書き換えていく。
「クハハハハハッ! さあ見よ、愚かな人類ども! 月をこの地球へと落下させ、世界の因果を一度すべて叩き潰す! そしてこの私こそが、滅びた世界の上に立つ唯一の『英雄』となるのだぁぁぁぁっ!!」
漆黒の夜空で、不気味な赤紫色の光を放ちながら、月がゆっくりと……しかし確実に、地球へと向かって落ち始めようとしていた。