戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「ウェル博士……狂っているわ! 月を落とすなんて、世界を崩壊させる気!?」
フロンティアの中枢制御室。
赤く不気味な光を放つメインモニターを見上げ、マリアが怒りに震える声を張り上げた。
ナスターシャも車椅子の手すりを握り締め、鋭い眼光でウェル博士を詰問する。
「博士、私たちの目的は人類の救済だったはずです! このような暴挙、断じて容認できません!」
しかし、ネフィリムの細胞を全身に巡らせ、異形の神経線をフロンティアに張り巡らせたウェル博士は、二人を振り向くことすらなく高笑いを上げた。
「ハハハハハ! 救済? 支配? ナスターシャ、君は根本的な勘違いをしているよ! 救済などという生ぬるい言葉で、この膨大で愚かな人類を御せると思うかね!?」
ウェル博士は血走った目を剥き出し、狂気に満ちた叫びを響かせる。
「多すぎるのだよ、人間は! 何億、何十億もの愚民を統制することなど到底不可能! だからこそ——間引きが必要なのさぁ! 月を落とし、人類の数を私が支配できる『最適な規模』にまで削ぎ落とす! そして、その地獄を生き残った一握りの生存者たちに、救世主として崇められる……! これこそが、私という絶対的な『英雄』が君臨する完璧な世界だぁぁぁっ!!」
「そんな歪んだ世界……絶対に認めない……!」
マリアが拳を握りしめたその時、制御室の背後に位置する巨大格納庫から、空気を激しく振動させる絶叫が響き渡った。
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——『ギョオオオオオオオオオオッ!!』
「くっ……何だ、この気配は!?」
フロンティアの表面を駆け抜けていた海斗と奏の前に、凄まじい衝撃波とともに『それ』が立ちはだかった。
そこにいたのは、かつて戦った姿とは比較にならないほど巨大化し、無数の捕食口と禍々しい生体装甲を成長させた『ネフィリム』だった。
ウェル博士の完全同期によってフロンティアのエネルギーを吸収し、急速な進化を遂げたのだ。
「海斗、来るぞッ!」
「ああッ!!」
海斗は右腕の聖遺物を掲げ、一気に距離を詰めて必殺の一撃を繰り出す。
しかし——。
**——ガキンッ!!**
「なっ……!?」
聖剣の刃がネフィリムの生体装甲に弾かれ、激しい火花を散らした。
手応えが異様に重い。
(おかしい……! 力が入らない……!?)
海斗は知る由もなかった。
これまで彼のアロンダイトが発現させていた力は、響を守りたいという無意識に共鳴し、相互増幅を起こしていたからこそ成し得たアロンダイトの奇跡だったのだ。
今、神獣鏡の光によって響のギアが沈黙し、彼女との『接続』が断たれたことで、海斗のアロンダイトは純粋な彼一人の出力に留まっていた。
どうした海斗、腰が入ってないぞ!」
奏が炎の槍を振りかざし、ネフィリムの追撃を間一髪で弾き返す。
だが、圧倒的な巨体と再生能力を誇るネフィリムの前に、出力の上がらない二人はじわじわと追い詰められていく。
「くそっ……いつもより体が重いッ……!」
焦燥感に駆られ、海斗が右腕のアロンダイトに全身の意識を集中させたその瞬間——。
**——カチリ。**
脳裏で、何かが冷たく噛み合う音が響いた。
周囲の爆音とネフィリムの咆哮が、嘘のように遠のいていく。
海斗の視界は漆黒の闇に包まれ、足元には静まり返った水面のような光の床が広がっていた。
「ここは……何処だ……? 俺は今、戦って……」
『ふふ……相変わらず情けない戦いぶりね、少年』
暗闇の奥から、美しくも冷酷なソプラノの声が響いた。
闇を割り、ゆっくりと歩み出てきたのは、紫の光を纏った一人の女性——かつて世界を破滅へと導こうとした絶対的な存在、**フィーネ**だった。
「フィーネ……!?」
『久しぶりね。あの小娘の放った聖なる光と、あなたの底知れぬ焦燥……それが引き金となって、私の意識は完全に覚醒したわ。』
フィーネは冷徹な眼差しで海斗を見下ろすと、その艶やかな唇を歪めた。
『しかし驚いたわ……私があなたと同化したことで、まさか「これ」とまで意識が繋がってしまうなんてね』
「これ……?」
海斗が不審そうに呟いた直後、水面のような床から青白い光の柱が立ち昇った。
光が収束していくにつれ、そこには一振りの蒼穹の聖剣——アロンダイトの投影とともに、雄々しく凛とした概念的な「意思の脈動」が形を成し始めていた。
『——我が主(マスター)よ。そして、古き魂の影よ』
重厚で澄み渡る声が、精神世界全体に響きわたる。
「アロンダイト……!? お前の意識なのか……!?」
驚愕する海斗、興味深そうに微笑を浮かべるフィーネ、そして意志を宿したアロンダイトの光。
現実世界の危機をよそに、海斗の深層意識の底で、三者による奇妙で緊迫した対話が今、始まろうとしていた。