戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
**——轟っ!!**
フロンティアの巨大格納庫に、ネフィリムの放った凄まじい衝撃波が狂乱する。
海斗と奏は背中合わせになり、絶え間なく押し寄せる異形の爪とエネルギー弾をアロンダイトの障壁で防ぎ止めていた。
「くっ……! まだ落ちないか、しぶとい野郎だ!」
「耐えるんだ、奏さん……来ますよ、みんなが……っ!」
海斗が確信に満ちた声を上げた、その瞬間——。
格納庫の強固な天井が、眩い白銀の光束によって外側から豪快にぶち抜かれた。
**——バシィィィィンッ!!**
降り注ぐ瓦礫の雨を切り裂き、天から降り立ったのは、神々しい白銀の光彩を纏った5人の装者たちだった。
「待たせたね、海斗、奏さん!」
白銀の胸元から放たれる圧倒的なフォニックゲイン。
響を先頭に、翼、クリス、切歌、調が力強く大地を踏みしめる。
そのギアの各部には、アロンダイトの加護を証明するかのように、美しくも洗練された白銀のラインが鮮やかに奔っていた。
「へっ……遅ぇんだよ、主役ども!」
奏が不敵に口元を歪め、ガングニールの槍を回転させる。
ネフィリムが怒りに満ちた咆哮を上げ、巨体を震わせて白銀の少女たちへ襲い掛かった。だが——。
「私たちの絆……アロンダイトが繋いでくれたこの命、そう簡単に散らせはしない!」
**『——Gungnir zizzl——!!』**
響が踏み込んだ一歩が、格納庫の床を砕く。
白銀のペンダントから溢れ出た聖遺物の光は、かつてない高密度で響の拳を包み込んでいた。
放たれた一撃は、ネフィリムの巨大な爪を正面から粉砕し、その巨躯を容易く吹き飛ばす!
「アロンダイトの『守護と再生』の波長が、あたしたちのギアと完璧にアンプ(増幅)し合ってやがる……! これなら行けるぜ!」
クリスが白銀に輝くイチイバルを構え、空中から怒涛の全弾発射を叩き込む。
「調、合わせるデス!」
「了解、 白銀の双輪、受けてみて!」
シュルシャガナとイガリマが交差し、ネフィリムの無数の触手を瞬時に切り刻んでいく。
その時、海斗の右腕のアロンダイトが、これまでにないほどの熱量で脈打ち始めた。
(な……なんだこの出力は……!? さっきまでの不調が嘘みたいに、力が湧き上がってくる……!)
海斗の深層意識の中で、フィーネが感嘆とも呆れともつかない溜息を漏らす。
『ふふ……そういうことね。アロンダイトの真の出力(ブラックボックス)を開放する鍵……それは、あの立花響という少女そのものだったのよ。守りたい者が側にいることで、今のお前の出力は……100%を超えているわ!』
「海斗! 一気に決めよう!」
「ああ……! みんなの歌で、この狂気を叩き潰す!」
海斗は響の手を強く握り返し、右腕のアロンダイトを突き出した。
「「うおぉぉぉぉぉぁぁぁぁっ!!」」
海斗のアロンダイトから放たれる白銀の聖光と、響のガングニールから放たれる金色のフォニックゲインが融合し、超巨大な光の聖剣となってネフィリムの胸郭を貫いた。
**——ズガァァァァァァァンッ!!**
ネフィリムが内側から白銀の光を溢れさせ、悲鳴を上げる暇もなく粒子となって完璧に霧散していった。
---
だが、勝利の余韻に浸る隙などなかった。
崩落する格納庫を突破し、海斗、奏、そして白銀の装者たちがフロンティアの中枢制御室へと雪崩れ込む。
「そこまでだ、ウェル博士——!?」
響の叫びが止まった。
制御室の中央では、車椅子に乗ったナスターシャ教授が、自身の生命維持装置の警告音を甲高く鳴らしながら、必死の思いでコンソールへ血の混じった手指を走らせていた。
「ハァ……ハァ……! これ以上、あなたの好きにはさせない……! 月の推進システムを逆噴射させ……地球への落下軌道を外す……!」
「マム……ッ!?」
切歌と調が目を見張る。
ナスターシャは己の命を摩耗させながら、ウェル博士が組んだ死のプログラムを力ずくで上書きしようとしていたのだ。
モニターに表示された月の接近カウントダウンが、ナスターシャの操作によってわずかに遅延し、軌道修正のシミュレーションが始まっていく。
「……何をやっているんだい……?」
それまで狂乱していたウェル博士の顔から、すっと表情が消えた。
血走った瞳が、ナスターシャの動かす指先をじっと見つめる。
そして——額に青筋を浮かべ、爆発的な苛立ちとともに顔を歪ませた。
「何をやっているんだと言っているんだぁぁぁぁぁッ!!」
**——ドガァンッ!!**
ウェル博士は叫びながら、ナスターシャの車椅子の横のサブコンソールを思い切り蹴り飛ばした。
「邪魔だ! 邪魔だ邪魔だ邪魔だぁぁぁッ!! 私は英雄だぞ!? 世界を救い、歴史の頂点に立つ愛されるべき救世主なんだ! なのにどうして……どうして誰も彼も私の美しいシナリオを汚そうとするんだよぉぉぉっ!!」
ナスターシャに向かって怒号を撒き散らし、胸を激しく上下させるウェル博士。激昂の末、彼の歪んだ唇が、狂気に満ちた笑みを形作った。
「ふ……ふふふ……あはははは! いいさ、邪魔な要素はすべて切り離せばいい……! お前も、お前のやろうとしたことも、全部だぁぁぁッ!」
「ウェル、何を——!?」
海斗が叫んで踏み込もうとした瞬間、ウェル博士は中枢コンソールの緊急パージ・ボタンを叩きつけた。
**——ガシャンッ!!**
「っ……!? 防護隔壁!?」
海斗たちの足元とナスターシャのいる中央制御ユニットの間に、超高重力の防衛障壁と極厚の特殊合金製隔壁が瞬時に叩き降ろされた。
海斗や響たちがいくら叩いても、隔壁はびくともしない。
「海斗くん! 切歌! 調! 下がりなさい!」
隔壁の向こう側から、ナスターシャの覚悟に満ちた声が響く。
「マム! マムーーッ!!」
切歌と調が叫び、爪を立てて隔壁を擦る。
「クハハハハ! さようならだお愚かな諸君! 軌道修正のデータを持ったこの中央制御室ごと、月へ突っ込ませて破壊してあげるよぁぁぁッ!!」
フロンティア全体が大きく揺れ動く。
ナスターシャとウェル博士を乗せた中央制御ブロックだけが、フロンティア本体から完全に切り離されていく!
「マムッ! マムぇぇぇぇぇっ!!」
「切歌、調……マリア……生きなさい……! 世界を……頼みましたよ……!」
ナスターシャの最後の言葉を残し、制御ブロックの底面に配置された超大型推進ロケットが一斉に爆音を上げて点火された。
**——ドガァァァァァァァンッ!!**
フロンティアに残された海斗や響たちの頭上を突き破り、ナスターシャを乗せた制御ブロックだけが、白熱の火柱を撒き散らしながら、上空に迫る漆黒の「月」を目がけて、一直線に弾丸のごとく射出されていった。
「マム……マぁぁぁぁぁぁムっ!!」
夜空へ遠ざかっていく一筋の光を見上げ、切歌と調の哭泣(こっきゅう)が、荒れ狂う海底フロンティアに虚しく響き渡っていた。