戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~ 作:きりやんやん
「ハハハハハハハッ! 見ろ! これこそが、あらゆる不純物を焼き払い、私という真の英雄だけを遺す神の体だぁぁぁっ!!」
ガングニールの装甲を纏い、禍々しく変異したネフィリムの頭部から、ウェル博士の狂気に満ちた哄笑が響き渡る。
フロンティアの艦上、破壊と混沌の渦巻く戦場で、白銀の装者たちの猛攻が叩きつけられていた。
「くっ……!聖遺物を取り込んだことで、出力がさっきまでの比じゃない……!」
クリスが白銀のイチイバルから銃弾の雨を浴びせるが、ウェル=ネフィリムの周囲を纏う紫黒の生体障壁に弾き飛ばされてしまう。
翼の天羽々斬による一閃も、奏のガングニールの槍撃も、融合体の圧倒的な再生能力の前に浅い傷しか残せない。
「海斗、みんな! 押されてる……このままじゃ……っ!」
響が白銀のガングニールの拳を爆発させ、ネフィリムの爪を受け止める。
その背後で、海斗は左腕のアロンダイト(盾)を構え、全身のフォニックゲインを極限まで高めていた。
「耐えろ……! アロンダイトの出力とみんなの絆があれば、絶対に隙はあるはずだ……!」
しかし、その海斗たちの焦りを嘲笑うかのように、ウェル博士は歪んだ笑みを深め、胸をそらしながら両手を広げた。
「無駄だ無駄だ無駄だぁっ! お前たちの足掻きなど、私の完璧な神話の前には砂上の楼閣に過ぎん! さあ、絶望を知るがいい……ネフィリムよ、その全機能をオーバーロードさせろ! すべてを灰燼に帰す、一兆度の爆発を起こすのだぁぁぁッ!!」
「――なっ……!?」
場にいた全員の動きが凍りついた。
一兆度。
そんなものが地上で、このフロンティアで炸裂すれば、地球上の生物すべてが瞬時に消滅する。
人類の歴史そのものが一瞬で蒸発するのだ。
「ふざけんな……! そんなの、地球ごと全部吹っ飛びやがるじゃねえか!!」
「どうする……!? どうやって止めるんだ、こんな化け物……!」
クリスと奏が青ざめ、仲間たちが冷や汗を流す。
一兆度のカウントダウンが、ネフィリムの巨体の核で恐ろしい速度で進み始める。
熱量が周囲の空間を歪め、空気を焼き焦がしていく。
(どうする……? このままじゃ全員終わりだ。何か方法が……この絶望をひっくり返す手が……っ!)
海斗が頭を回転させる。
その脳裏で、記憶の断片が激しく明滅した。
――そうだ。原作の……あの時、ウェル博士が企てた計画。
そして、この世界がどうして守られたのか――。
「待て……! 『ソロモンの杖』だ……!」
海斗の叫びに、響たちが目を見開く。
「ソロモンの杖って、あのウェルが持ってた……!」
「そうだ! あの杖なら、バビロニアの宝物庫へネフィリムを……この空間ごと、あいつを異次元の宝物庫へ封じ込められるはずだ……!」
しかし、肝心のソロモンの杖は、先ほどまでウェルが握っていたはずだった。
絶望的な状況の中、格納庫の吹き抜けから、まばゆいもう一つの白銀の光が舞い降りた。
「――間に合ったみたいね!」
気高い声とともに降り立ったのは、白銀の装甲『アガートラーム』を纏ったマリアだった。
月での軌道修正を成し遂げた彼女の手には、一本の古めかしい杖が握られている。
「マリア……っ! その杖は……!?」
「ああ。ウェルが焦って逃げる時に、足元に落としていったのよ……! あなたたちの通信を聞いて、これが必要だって分かったから拾ってきたわ!」
マリアが力強く頷き、手に持ったソロモンの杖を掲げる。
状況は一刻の猶予も許さない。
ネフィリムの核から放たれる熱量はすでに臨界点に達しようとしていた。
「時間がない……! みんな、あの化け物を宇宙へ押し上げるわよ!」
「おうっ! 地球ごと吹き飛ばされるなんざ、まっぴらゴメンだぜ!」
奏の合図とともに、海斗、響、翼、クリス、切歌、調、そしてマリアが、それぞれの全フォニックゲインを爆発させる。
白銀の光と黄金の光が織り交ざり、一兆度の熱を放つネフィリムの巨体を、文字通り天空へと押し上げていく。
「おのれ……! おのれ虫けらどもがぁぁぁっ!!」
ウェル博士の狂乱の叫びを置き去りにし、ネフィリムはフロンティアを突き抜け、夜空の彼方、地球の重力圏を離れた宇宙空間へと押し出された。
―――
―宇宙の暗闇の中。
ネフィリムの核が、太陽をも凌駕する一兆度の輝きを放ち、爆発の寸前で禍々しく膨れ上がる。
「今だ……っ! マリア、宝物庫の扉を開いてくれ!」
海斗の叫びに、マリアはソロモンの杖を強く握りしめ、宙へと跳んだ。
「――開け、バビロニアの宝物庫……! 世界を救うための、最後の仕事よっ!」
マリアが杖を振るうと、宇宙の闇が裂け、底知れぬ深淵を湛えた巨大な扉がゆっくりと姿を現した。
その扉の向こうこそが、あらゆる異端を飲み込む絶対の牢獄。
「よし……これで……!」
誰もが勝利の確信を抱いた、その瞬間だった。
**――ギョオオオオオオオッ!!**
爆発寸前のネフィリムから、無数の禍々しい黒紫色の触手が音速を超えて弾け飛んだ。
狙われたのは、まさにバビロニアの宝物庫の扉を開き続けているマリアだった。
「マリア……っ危ない!!」
「っ……!?」
回避する間もない。完全無防備となったマリアの背後へ、死の爪先が迫る。
「くそっ……!」
反射的に、海斗の体が動いていた。
アロンダイトの出力を足に宿し、誰よりも速くマリアの元へと跳躍する。
**——ズシュッ!!**
海斗は迫り来るネフィリムの触手を渾身の盾で弾き飛ばし、その勢いのままマリアを力強く突き飛ばした。
「きゃっ……!……!?」
マリアが弾き出され、難を逃れる。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
「――しまっ……!」
海斗の体勢が崩れた瞬間、ネフィリムの無数の触手が海斗の四肢、そして胴体を容赦なく絡め取った。
さらに、マリアの手から離れ、宇宙空間に放り出されていた『ソロモンの杖』を、海斗の右手が咄嗟に掴み取っていた。
「海斗────っ!!」
遠くで、響の絶叫が真空の宇宙を揺らした。
ネフィリムの巨体と熱量が、海斗を巻き込みながら、開かれたバビロニアの宝物庫の奥底へと引きずり込まれていく。
「はは……ははは……ざまあみろぉぉぉっ!!」
ウェル博士の狂気の笑い声が響く中、海斗はネフィリムの触手に締め付けられながらも、遠ざかる仲間たちを見つめた。
その瞳に後悔の色はない。
――ただ、みんなが無事であることだけを確認し、海斗は静かに微笑んだ。
「みんな……後を……頼む……っ!」
――――バチバチバチッ!!
海斗とネフィリムを飲み込んだ瞬間、バビロニアの宝物庫の巨大な扉が、音もなく重々しく閉じられた。
一兆度の爆発の光は扉の向こうに封じ込められ、宇宙空間には、ただ静寂と、言葉を失った少女たちの姿だけが残されるのだった。