戦姫絶唱シンフォギア ~守護の剣は幼馴染を救いたい~   作:きりやんやん

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第六十一話 託された未来、果てなき光

 

 

閉ざされた空間。

 

黄金の扉が重々しい音を立てて完全に閉じられた瞬間、周囲は異次元の虚無と、ネフィリムが撒き散らす狂乱の熱量に満たされた。

 

「クハ……ハハハ……終わりだ……! 私の……完璧な神話がぁぁぁっ!!」

 

ガングニールの装甲と完全に歪んで融合したネフィリムの巨体が、絶叫とともに急速に熱量を高めていく。

 

核で進行する一兆度の爆発カウントダウン。すでに限界を超えた熱気が周りの超空間すら歪め、触手となって締め付けてくる。

 

海斗の右手には、死に瀕したマリアから引き継いだ『ソロモンの杖』が握られていた。

 

(……ダメだ。一人じゃ、どうやっても逃げられない)

 

―海斗は冷静に己の現状を理解していた。

 

ソロモンの杖を使ってバビロニアの扉を開くことはできる。

 

だが、自分が扉を開けて脱出しようとすれば、この中で膨れ上がるネフィリムの一兆度の爆発も同時に外へ溢れ出し、地球を……みんなを焼き尽くしてしまう。

 

扉を開けたまま自分が逃げ切ることは不可能なのだ。

 

海斗は力強く口元を結び、覚悟を決めた。

 

(後悔なんて……欠片もないさ)

 

本来、自分はこの『シンフォギア』の世界には存在しない異物だった。

 

それでもこの世界で生き、抗い、響や未来たちと出会い、そして——原作では命を落とすはずだった奏を護り抜くことができた。

 

自分がここにやってきた意味は、きっと十分すぎるほど果たせたはずだ。

 

「ここで……お前と一緒に消えてやるよ、ウェル……!」

 

そう呟き、目をつむろうとしたその時——。

 

脳裏で、冷徹でありながら重厚な波長が、脈打つように響き渡った。

 

『――我が主よ』

 

「アロンダイト……!?」

 

右腕の装甲から、蒼穹の光が微かに溢れ出る。

 

『聞こえるか、我が主。この異端の宝物庫の中に……我のかつての『欠片』が存在しています』

 

「欠片だって……!? なんでバビロニアの宝物庫にアロンダイトの欠片があるんだよ!?」

 

『アロンダイトとは、かつてノイズという災いを生み出してしまった先史時代の人類が、己の贖罪のために生み出した疑似的な聖遺物であると以前お伝えしました……。ゆえに、他の聖遺物やノイズと共に、このバビロニアの宝物庫の奥底にも、我が一部が封印され残されていたようです。』

 

次の瞬間、宝物庫の暗闇の奥底から、一筋の美しい青白き光の粒子線が溢れ出した。

その光はまっすぐに海斗の右腕へと吸い込まれ、アロンダイトの結晶構造と完全に結合していく。

 

――キィィィン……ッ!

 

アロンダイトの波長が澄み渡り、欠片を取り込んだことで、その存在感が一段と高まるのを感じた。

 

だが——。

 

「くっ……! 欠片が戻っても……依然として状況は変わらない……!」

 

いくらアロンダイトの出力が上がろうと、一兆度の爆発を抱えたネフィリムをここに留めたまま、自分だけが扉を開けて逃げる術がないことには変わりなかった。

 

その時、海斗の意識の深層で、もうひとつの声が静かに立ち上がった。

 

『……アロンダイト。お前のその「治す力」と肉体再構築の波長を使えば……今の私を、一時的にでも仮初めの肉体として復活させられるかしら?』

 

深層意識に眠っていたバラルの呪いの化身——『フィーネ』だった。

 

『我が力『治す力』、『聖域治癒』を用いれば、魂を固定する一時の器を創り出すことは可能です。……ただし、それには相応の『代償(エネルギー)』が必要となるが。』

 

『……代償なら、ここにあるわ』

 

フィーネの意志が、海斗の手にある『ソロモンの杖』へと波及する。

 

ソロモンの杖が眩く輝きを放つと、バビロニアの宝物庫内に蠢いていた無数のノイズたちが一斉に悲鳴を上げた。

 

――ガガガガガッ!!

 

ソロモンの杖の絶対的な支配力によって、周囲のノイズ群が強制的に解体され、純粋なエネルギーの奔流へと変換されていく。

 

その膨大なエネルギーが、アロンダイトの再生の光——『聖域治癒』の波長と融合した。

 

『海斗くん……これでお別れね…。』

 

フィーネの声が、海斗の胸に優しく、どこか寂しげに届く。

 

「フィーネ……!?いや、了子さん!!?何を……!」

 

『……伝え忘れていたけれど、このアロンダイトはね、ただの兵装ではないわ。世界を変えるための『鍵』……先史時代の人類が、遥かな未来のお前たちへ唯一手渡した、最後の希望なのよ、きっと。』

 

――バシィィィンッ!!

 

海斗の目の前で、解体されたノイズのエネルギーとアロンダイトの光が収束し、一人の女性の姿を形作った。

 

金の髪をなびかせ、気高くも美しい仮初めの肉体を得たフィーネが、実体となってそこに立っていた。

 

フィーネは海斗の手から『ソロモンの杖』を滑らかに奪い取ると、躊躇なくそれをバビロニアの空間へ向けて掲げた。

 

「————開け、扉よッ!」

 

――ガシャンッ!!

 

重々しい音を立てて、バビロニアの宝物庫の巨大な扉が、宇宙空間へと向けて内側から開け放たれる。

 

扉の向こうに見えるのは、青く輝く地球と、絶望に顔を歪める仲間たちの姿だった。

 

だが、その瞬間——。

 

——ギョオオオオオオオッ!!

 

「逃がさん……逃がさんぞぉぉぉっ! アロンダイトォォォッ!!」

 

海斗が逃げ出そうとしていることを察知したウェル=ネフィリムが狂乱の悲鳴を上げ、禍々しい無数の触手を弾き飛ばした。

 

音速を超えて迫る死の牙が、海斗の全身を貫かんと一斉に襲い掛かる。

 

「しまっ……!?」

 

体勢を崩していた海斗が身構えた、その刹那。

 

——ドガァァァァンッ!!

 

「私の前で、無礼を働くのではないわ……愚か者がっ!!」

 

フィーネの気高き一喝とともに、紫と金の神聖なる重厚な結界バリアが二人の前に一瞬で展開された。

 

ネフィリムの太い触手が何本も激突し、凄まじい衝撃波と火花が散り散りに弾け飛ぶが、フィーネの展開したバリアは微動だにせず、攻撃を完璧に防ぎ切ってみせた。

 

「了子さん……っ!」

 

「私を誰だと思っているの?礼には及ばないわ。……さあ、早く行きなさい!」

 

フィーネは強固なバリアでネフィリムの攻撃を遮断し続けたまま、海斗へと振り返り、これまで見せたことのない穏やかで温かな笑みを浮かべた。

 

「了子さん……! ありがとう……ッ!!」

 

海斗の心からの感謝の言葉を聞くと、フィーネは満足そうに頷き、その手で海斗の胸を優しく押し、開かれた扉の外へと突き出した。

 

「行きなさい、海斗。……あなたの創る未来を、楽しみにしているわ……。」

 

海斗の身体が、扉の向こう——宇宙空間へと弾き出されていく。

 

バビロニアの宝物庫の内部。

 

一人残されたフィーネの背後で、一兆度の爆発を起こしたネフィリムが、太陽のごとき熱量となってすべてを呑み込み始めていた。

 

だが、フィーネの心には、恐れも後悔もなかった。

 

数千年の孤独と執着の果てに、最後の最後で……誰かのために、愛する世界のために「善行」を成し遂げることができた。

 

その満たされた歓喜が、彼女の胸を温かく満たしていた。

 

「ふふ……たまにはこういうのも悪くないわね……」

 

眩い爆炎と光のなかで、フィーネの仮初めの身体は静かに解け、永き眠りへと穏やかに溶けて消えていった。

 

---

 

——バシィィィィンッ!!

 

宇宙空間で、バビロニアの宝物庫の扉が完全に閉じられ、異次元の彼方へと消滅した。

 

一兆度の爆炎は、地球に届くことなく永遠に封じ込められたのだ。

 

「海斗……!?」

 

光の渦の中から弾き出され、地球の重力に惹かれて落下していく海斗の姿を、響たちが発見する。

 

「海斗!!」

 

響と奏が空中へ跳躍し、落下する海斗の身体をしっかりと抱きとめた。

 

しかし——。

 

「海斗!? おい、しっかりしろ海斗っ!!」

 

奏が叫ぶが、海斗からの返答はない。

 

フィーネを一時的に実体化させるため、アロンダイトの極限能力『聖域治癒』を行使した代償はあまりにも大きかった。

 

海斗の生命力とフォニックゲインは完全に底をつき、右腕のアロンダイトは光を失って強制解除され、皮膚に冷たい金属の痕跡を残すのみとなっていた。

 

「海斗……息は……息はあるよ! でも、身体が……!」

 

響が涙を拭いながら、海斗の胸の鼓動を確認する。

 

意識を完全に失い、指一本動かすことすらできないほど衰弱しきった海斗を抱きかかえ、装者たちは無事に戻ってきた空の下——地球へと舞い降りていくのだった。

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